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見上げる空の青さより  作者: 星海 凪咲
それはどうしようもないほど突然に
4/5

第三話


「はぁ、今日は帰ろう……」


 放課後、昨日のことが脳裏をよぎり、ため息が漏れる。

 今日は何もないといいけど。


「すず、とも。今日は家まで一直線でかえる」


「あれやね、えらく疲れてるね」


「湊人!わかった!今日は友達と部活見学に行ってくるね」


 ――そうだ、部活も考えないといけないのか。

 智久は弁論部へ入部することにしたらしい。

 昨日、部活見学に行った時、先輩を唸らせるほどのディベートを披露して熱烈な勧誘を受けたのだとか。

 鈴音は運動部を中心に見学をして検討中とのことだ。


「それじゃ、またあし、」


 また明日、そう言おうとしていたところにガラガラと教室のドアが開き、そちらの方へ目を向けると。


「あ!まだいた、よかったー」


 昨日の先輩がこちらを見ながら立っていた。

 その様子は、かなり急いで来たのか少し息が上がっていた。


「突然尋ねて申し訳ありません。少し、早川くんをお借りしてもよろしいですか?」


 本当に突然すぎて鈴音と智久は開いた口が閉まらないと言った具合にこちらを見て固まっていた。

 幸い、教室には俺ら三人以外は部活見学に行ったのかいないことが救いだ。人がいたら確実に翌日の平穏な日常は約束されていなかった。


 ――とはいえ、現状がそもそも平穏なのか問いたくはなるけど。

 さながら、これが小説なら物語のプロローグ。どういった内容でも非日常の玄関口と言った感じか。


「あー、昨日の三条先輩でしたよね?」


「「昨日?」」


 智久と鈴音の声が重なった。


「まぁ、昨日少し。……わかりました、いいですよ」


 二人の怪訝な顔を尻目に三条先輩の後をうながされるままについて行く。

 放課後とはいえ、まだ人通りのある廊下を極力他の生徒に悟られないように少し距離をおきながらしばらく歩いていると旧校舎の方へ向かっていた。


 旧校舎は現在、教室等では使用されておらず学校行事や部活動などで使用されることが主なのだとか、特に主要な部活動の場合は専用の部活棟が建てられるけど、人数が少ない部活動の場合は空き教室を使っている。そんな感じらしい。


「早川くん、つきましたよ」


 どうやら目的の場所に着いたらしい。

 ふと、目当ての場所の表示を見ると、"生徒会室"と書かれていた。


 なぜ生徒会室?そもそも新校舎にも生徒会室はあるから旧校舎は今使われていないんじゃ……

 そう疑問に思っていると、手慣れた様子で先輩はドアを開け中に入っていった。


「ほら、早川くんも早く入って」


 男は度胸とばかりに覚悟を決め中に入るとそこは整理整頓がしっかりされているのを感じるも確かな生活感を、感じる部屋だった。

 

 そして、その部屋の中央にはまさに生徒会長の机といった雰囲気のデスクがありそこに黒髪短髪で鋭い目つきをしたガタイの良いまさにマフィヤの若頭といった風潮の男子生徒ゲンドウポーズをしながら座っていた。


 ――これはあれか?俺の彼女になんとやらって感じで締められるのか?


 「早川湊人くん、歓迎しよう、盛大にな!」


 ……ちょっとまて、おそらく先輩であろう人の雰囲気に蹴落とされていたけど。よくよく考えてみると色々とネタが散りばめられていないか?


「あ、あー。すみません歓迎の前に説明をお願いしてもいいですか?何がなんだかわかっていなくて」


 そう言うと男子生徒は眉間に皺を寄せて三条先輩の方に顔を向けると。


「三条、まさか何も説明していないのか?」


 ええ、はい。全く何も説明はされていませんとも。

 心の中でそう愚痴ると。


「い、いや違うんですよゴクドー会長!少し急いでいたといいますか、早川くんが帰る前に呼びに行かないと、と思いまして」


「ゴクドー会長ではないと何度言えば、俺は後藤だ」


 ゴクドー会長改めて後藤会長はやれやれといった感じに訂正をすると、こちらを見て。


「うちの三条が申し訳なかったね。君が昨日、三条をナンパから助けたと聞いたから、うちの仲間を助けてもらったのだから少しお礼を兼ねた勧誘をと思ってね」


「勧誘、ですか?」


 思い出すと、確かに昨日、三条先輩は別れ際にお礼はまた後日って言っていたような気がする。

 正直、社交辞令かとスルーしていたから今の今までに頭からスッパリ忘れていた。


「それで、なんの勧誘ですか?」


「よくぞ!聞いてくれました。それは、ここ旧生徒会室で活動をしている文芸同好会にだよ」


 文芸……同好会?部ではなく?

 それに、入学した時に一通り確認をしたけど瑞風高校には文芸部はあっても文芸同好会はなかったように思う。


「ふむ、唐突に話をさせてもらっているのだから理解が追いついていないのもわかる。一から説明をしよう」


 そう言って語られたのはここ文芸同好会の成り立ちと活動内容だった。


 ――文芸同好会

 同好会の歴史は昔、文芸部に所属をしていた当時の部長と副部長とか部を割る騒動を起こしたのが始まりらしい。

 副部長は文芸部から離脱して新たな文芸部を立ち上げようとしたらしいけど、同じ部活が2つも存在することは規則上できなかったらしく同好会という方で落ち着いたのだとか。


「そこから、何年も時が立って今では"高校での青春を全力に"がキャッチコピーの青春同好会になったというわけだ」


「ですので、文芸同好会のことを青春会なんて呼ぶ生徒も多いのですよ?」


 それにしては、部屋に活気がないというか……

 そもそも部屋の中には後藤先輩と三条先輩しかいないから今、この光景を見て青春会とか言われても反応に困る。


「同好会の人数は先輩達だけなんですか?」


 疑問に思ったことを聞いてみた。


「そうだな、現在の文芸同好会は後藤と三条の二人だけだ、まぁいいたいことはわかる。言うなれば存続の危機、という奴だ」


「文芸同好会はその成り立ちやしがらみから会訓として校内での掲示、広告が禁止されていて、さらに入会するには現会員による推薦が必須なの」


 それは、もはや人を集めるなと言っているよなものじゃないか、とも思うけどそもそも文芸活動がしたいなら文芸部に入ればいいし同好会に人が流れたら正規の文芸部から人を奪う形になるから致し方ないのか。


「その代わりと言ってはなんだが、現在の文芸同好会には過去の諸先輩方が勝ち取ってきたいくつかの特権のような物も保持している」


 後藤先輩からそのいくつかの特権というのを教えてもらった。


 一つ、文芸同好会は文化祭における出し物として文芸活動を制限する代わり他の企画においてはその優先実施権及び学校に対する協力要請権を持つ。

 一つ、文芸同好会の活動において必要な同好会員は会長及び会員の一名づつの在籍で存続できる。また、同好会顧問を必要としない。

 一つ、文芸同好会は学校施設における当初占有地域以外において優先使用権を持つ。


「まぁ、つまり文芸同好会は人が少なくても活動していいし学校の施設は、例えば水泳部はプールのような元々使用している所以外は優先的に使用していいというような感じだな」


 小さいことのようで結構な特権じゃないか、それ?

 一同好会に許していいような権限じゃないような気もするけど、諸先輩方の努力と言われればそれまでか。


 「内容は、わかりました。少し考えてもいいですか?」


 「もちろんだ、そこまで急いでいる訳ではないのでゆっくり考えてくれ」


 だた、一つ分かったのは後藤先輩も三条先輩も悪い人ではないということだ。

 多分入室一発目のネタも俺の緊張を和らげようとしてくれていたのかもしれないし、一見マフィアのような雰囲気でも話してみると優しそうな雰囲気を感じることができる。


 「基本的には、旧生徒会室でこの時間は活動をしていると思うから、また気が向いたらよってね?あと、昨日のことは本当にありがとう」


 三条先輩は手を顔の前で合わせウインクをしながらそういった。

 こういった仕草が人気の理由なんだろうか?


 教室を出ると来た時ほどの人気はなく廊下を歩く生徒もまばらになっていた。

 夕日が照らす校庭では運動部の練習する声が聞こえる。

 

 ――帰るか



 ――――――――――――



 自室のベットの上で横になりながら電話をしていた。


 「なぁ、ともって文芸同好会って知ってる?」


 『文芸同好会?……あぁ青春会のことやね。知っとるよ、なんで?』


 話を振った俺も俺だけど、なんで智久は知っているんだ?

 本当に情報集能力が高すぎて怖くなるよ。


 「いや、今日その文芸同好会に勧誘されてさ、少し悩んでるっていうか。どうしようかなって」


 『おぉーそれはええことやね、湊人にはすごくあっとると思うけど?』


 俺にはあっとるか、智久はそう思うのか。


 「おっけー!参考にさせてもらう」


 『参考ついでなんやけど、青春会って言ったらうちの学校じゃかなりの知名度があるにも関わらず入会ができないって有名やから一種の都市伝説みたいな扱いになっとるんよ』


 都市伝説って今日聞いた話から事情は察するけどなかなかの扱いだな。


 『やもんでもし湊人が入会をするんやったら他の生徒ばれるとあまり得意じゃない状況になるかもねって忠告?みたいな感じ』


 「わかった、ありがとう」


 智久との電話を終えて天井を見ながら考えに耽っていると意識がスッと遠のいていった。


そろそろ物語の歯車は動き出しました。

ちょっとづつしかし確実に回転数を上げていければなとそう思います。

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