第ゼロ話 時よ止まれ、お前は美しい
春、出会いと別れの季節。
出会いに喜び、別れに悲しむ。
新たな一歩を踏み出し、前に進み挑戦する人。
夢を追いかけ、目標を追いかけ努力する人。
そういった努力し挑戦する人を祝福するかのような季節。
高校の入学式を明日に控えた今日、ふと外を見ると雲ひとつない澄み渡る青空で家の中に居るのがもったいなく思って近くの公園まで散歩をすることにした。
一人で歩いているとどうしても考えてしまう。どうしようもない心のモヤモヤを。
何かをしたいのに何もできていない。何をどうしたらよいのかわからずに足踏みをしているかのような。
夢の中で、全力で走っているのに全然進んでいないかのような。
中学の三年間で周りの皆は、部活に励み、恋愛に心をときめかせて、青春の煌きに突き動かされるまま一瞬の時を楽しんでいた。
ただ、どうしても俺は俯瞰的で客観的に自分自身を見つめてしまい冷めた心のまま何かに熱中することができなかった。
俺が、どうしようもないほどの欠陥品だと、そういわれているような気がして。
いつもの見慣れた道も高校生になるというスパイスがひとつ加わっただけで全く違った見え方がした。
風の匂いが、春の陽気が、道をゆく人の声が。
子供の頃はブラックコーヒーが飲めなかったのに、ふと気づくと飲めるようになっていたような、そんな小さな成長を感じた。
そんな小さなことで満足している自分自身を少し冷めた見ているもうひとりの自分を感じながら。
公園を歩く中、散る桜を見て、ふと思った。
“時よ止まれ、お前は美しい“
光に照らされながら風に揺られて散る桜を見て。
まだ何も成せていない俺がそう思うことをファウストはどう思うだろうか?
1分1秒を惜しんで、どうしようもないほどに熱中して。
心から渇望する何かを、俺は見つけることができるだろうか?
時間の進む速度は皆同じなのに。
どうしてもその重みは違うように思えてしまう。
桜が散る、公園で遊ぶ子供たちを天使たちが祝福するように、風に舞い太陽の光をきらきらと反射しながら空へと消えていく。
そんな、情景を見ながら空を見上げると澄み渡る青空は俺のちっぽけなモヤモヤなどどうでもよいかのように世界を飲み込んでいた。
青春っていいですよね。
春になると青春を心が求めてしまいます。
そんな衝動に突き動かされて書きました。