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2.森山ユリア

 2.森山ユリア


 入学式が終わるとすぐに螺旋階段のある四号館に行った。

 先客が一人いる。

 スーツを着ているから、入学式後の一年生か就活をしている四年生だ。螺旋階段を昇ったり降りたりしながら写真を撮っている。

 その人はたぶん私の存在に気づいていて、今日は帰ろうと思ったけどそれも変なことだと思って離れた位置から写真を撮ることにした。

 後から知ったことだが、この大学のキャンパスは人気のある建築家の作品だった。登録文化財にもなっていて、外部からわざわざ見に来るようなニッチなファンもいるらしいが、皮肉にもここの学生はあまり関心を持たないようだ。


「あの、この校舎、好きなんですか?」


 昇りながら写真を撮っていると、先客が真横まで迫っていることに気づかなかった。

 私は慌てて


「いや、私は特に、ちょっと階段が気になるだけで」


 私は思わず後ずさりした。

 誰のスーツよりも黒いジャケットとタイトスカートに淡い菫色のブラウスがよく似合う白い肌。茶髪だけど染めた茶色ではなくて生まれつき色素の薄い細い髪特有の透明感。その束が、人が行き来する微風にてろてろ揺れている。大学というのは、中学や高校のような狭い場所では出会えない人がすぐ近くにいるような場所だと知った。先客はオーラをむき出しに、瞳もグレーで少し濁った茶色・・・の、目が合ったときの、その意外な鋭さにからだが硬直した。

 見過ぎてしまったことを誤らなければいけないと思って。


「あ、ごめんなさい」

「いえ、よかったら友達になりませんか」


 予想外の返事よりも、『友達』と言う言葉に一瞬震えた。高校生の時のことを思い出す。初めは全く同じ言葉をかけられたのだ。「よかったら友達になりませんか」と。あの日までは仲良かった人たちだ。

ひるんでしまったが、私は何も言わずに頷いた。友達ができるかどうか、大学生になって一番の気がかりだった。それは先客も同じことなのだろう。友達ができることが恐ろしいということ、大学で友達がいないとここに居づらいということ、どちらも強烈なエネルギーを孕んだ気持ちだ。


 彼女は森山ユリアという名前だった。学部と学科を聞くとなぜかはぐらかされたが、この建物に惹かれて入学したらしい。入学式では見かけなかったし、私とは違うのだろう。

 次の日の四限の英語の授業でユリアを見かけた。英語だけはユリアと同じクラスだったのだ。最初の授業は英語で自己紹介をした。私は名前と学部学科と趣味として音楽を聴くことなど周りと同じでてきとうなことを言ったがユリアは自分の名前しか言わなかった。

 ユリアはずっと興味なさそうに頬杖をついて頭を傾けて口を少し開いている。とてもだらしない姿のはずなのに、何かユリアにしかない魅力を発揮していた。それに気づいたのは私だけではない。ユリアの方をちらちら見ている人は私以外にも四人はいる。鼻が高くて美人だからなのか独特の色気を持っているからなのか。つまらないことをしていてもモデルの所作みたいに見とれてしまう。みんなユリアに話しかけようとしたが、ユリアは私と二人きりでいたがって私以外の人を拒み続けた。

 何より、私を選んでくれた、ユリア。


「あの人誰?」

「心理学部の桃井さん」

「そういえば。自己紹介してたっけ」

「森山さんと並んだら余計にもっさいね」

「安物の服、中学生じゃん」

「すっぴんだし」

「オタク?陰キャじゃない?」

「容姿とか気にしませんってかんじ」

「嫌みだなー」

「あれ寝癖じゃない!ウケる!」


 悪口を無視するのは慣れている。

 慣れているはずだ。

 私たちは授業終わりに近くのスターバックスでフラペチーノを飲み、たまに授業をサボってUSJでジェットコースターに乗りまくった。

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