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サクッと!3000字ない短編

ベランダから核融合炉

作者: 紀ノこっぱ

 ベランダなんて今日日、活用しにくい空間だ。


「洗濯物も布団も乾燥機がある、花粉やPM2.5に晒される危険を冒してまで干すもんじゃない」


 だからベランダなんてない物件に住もう。僕はそう主張して、妻はムッとふくれた顔をした。


「ぜったい使うから、有意義な空間にしてみせるから」


 こうして日当たりの良いベランダを持つ三階の角部屋に引っ越した僕たち。

 日々は穏当に過ぎていく。

 妻はベランダを家庭菜園に活用することに決めたようで、ハウツー本を元に土を作り、プランターにかわいらしい野菜の苗を植え、せっせと世話を焼いていた。


「どう? 家庭産の野菜のお味は?」


 妻のつくった茄子をつかったお浸し、きゅうりの浅漬け、僕は野菜に太鼓判を押した。


「おいしい! 買ってきた野菜よりずっとおいしい!」


 素人がそれを成し遂げることがどんなに大変か。褒め称えた僕に、妻は得意そうに微笑って腕まくりしてみせた。


「有効活用できたでしょ」

「へ?」

「ベランダ!」

「あ、うん。そうだな、こんな野菜が食べられたんだから」


 妻は褒めて伸びるタイプだから。たっぷり褒めておいた。賞賛という水を得た妻はそれは満足そうにキラキラと輝いていた。


 そして調子ついた妻は家庭菜園から更なる発展を目指すことにしたらしい。

 ゴミを有効活用するためコンポスト容器に回転機能をつけて設置したあたりから、エネルギーコスト低減に凝りだした。


 次の年にはベランダにバイオガス装置が現れた。さらに翌年にはソーラーパネル。

「な、なあ……光熱費、助かるようになったよ」

「うん! でしょでしょ!?」

 本当はその熱中ぶりに困惑してきていたのだが、妻は褒め言葉だけを受け取ってますます激しくベランダに没頭した。


 ベランダがある物件への入居から10年後──

 最近僕はベランダには立ち入り禁止だし、たまにお隣から青白い光が漏れてくると苦情をもらう。 

 階下の人はしょっちゅう電子レンジが止まると話していた、僕は知らんぷりして、そして内心で妻との関連を疑っていた。


「できた! できた~!」


 妻の歓声に僕はベランダへ駆けつける。

 ゴウンゴウンという音に時折『パリッ』というような放電音が混じる装置が動いていた。床も定期的に振動している。


「もう電気代の心配はいらないよ!」

「え!? え!? これ、なに?」

「……核融合炉」


 妻がニコニコキラキラしている。

 僕の妻は、褒めれば伸びるタイプなのだ。けれど──


 ここまで伸びるとは思わなかった。

お読みいただきありがとうございました。


1000字短編投稿はじめてなのです。

このお話はジャンルなになのか迷いました!

なろうさんはジャンル多様で面白いです。

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― 新着の感想 ―
奥さん凄すぎる(笑) 楽しく読ませていただきました♪ 1000文字短編、初なのですか!? 思えない手慣れた巧さ!
最後で爆笑しました! 実際、最初に主人公が言うように、ベランダって段々使い道が無くなっていって、気がつくとただの室外機置き場になってました。 (まあ、乾燥機が便利過ぎたんですけどね) この奥さんは…
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