17. 再会
ティアが姿を消してから1ヶ月が経過した。捜査は全国に拡大され、私も個人的に調査を進めていた。彼女が国外や聖域に逃れた可能性も考えられたが、その場合は必ず結界を越える必要がある。しかし、結界を越えたという知らせはまだ届いていない。つまり、ティアはまだ国内にいるはずだ。
ティアは自由に飛び回り、長距離の移動も可能だ。そのため、彼女の行動範囲は広範囲にわたると想定される。しかし、派手に動いていれば目撃情報があるはずだが、そのような報告は未だに得られていない。これらの状況から、彼女がまだエルドレイン領にいる可能性が高いと考えた。私は全国的な捜査を続ける一方で、最初に彼女が目撃されたエルドレイン領を再度徹底的に調べる必要があると感じた。
彼女の痕跡を見つけるため、僅かな情報も見逃せない。領地での聞き込みには専属の調査隊を派遣し、さらには「天眼の水晶」と呼ばれる魔道具を用いて広範囲の情報を集めた。この魔道具は上空から地上の詳細な映像を映し出すことができ、瘴気の異常な動きを捉えるのに役立つ。調査を進めるうちに、エルドレイン領の北西部、グレノア森林で広範囲にわたって瘴気が消滅している事実を発見した。
60年前、ティアは国内の瘴気を浄化してくれたが、全ての瘴気が浄化されたわけではない。人間が広めた瘴気だけでなく、自然発生した瘴気も依然として残っていた。一度発生した瘴気が急激に減少することはあり得ない。この異常な現象を目の当たりにして、私はティアが何らかの形で関与している可能性が高いと考えさらなる調査を開始した。
実際、森に足を運ぶと、そこは聖地のようにとても洗練された土地だった。数カ月前まで瘴気に侵されていたとは思えないほど美しい光景が広がっていた。私は近くのナザレ村で更に情報を集めることにした。
村の酒場で、有力な情報を手に入れた。酒場の店主によれば、60年前に村を救った救世主が再び村に滞在しているという。その者の外見を聞き、年齢的にも彼女に間違いはないと確信し、その者が働いているという食堂に向かう途中一人の少女にぶつかった。
彼女が盛大に転倒しそうになるのを、とっさに腕を掴んで引き寄せると、美しいアメジストの瞳と目が合った。忘れもしない。その人は金と銀の美しいオーラを纏い、その綺麗な瞳で驚いたように私を見つめていた。髪色が違っていてもわかった。それは、ずっと探し求めていたティアだったのだ。
私が口を開きかけたその時、彼女は咄嗟に後ろを振り返り慌てた様子で私の手を振り払い、飛び立ってしまった。その直後、騎士がこちらに駆け寄ってくる姿が見えた。彼女は騎士から逃げていたのだ。おそらく、過去に騎士から受けた仕打ちのせいで、彼らの存在をひどく警戒しているのだろう。しかし、実際にはこの騎士は、私の後ろにいる調査隊の団長に駆け寄っただけだった。私は急いでティアを追いかけた。
彼女が降り立ったのは、ナザレ村に入る前に立ち寄った洗練された森林だった。私は彼女を驚かせないように、そっと声を掛けた。
「ティア……」
彼女は振り返り、驚いた表情で私を見つめた。久しぶりに彼女の名を口にしたせいだろうか、緊張でうまく言葉が出てこない。
「あなた、さっき村でぶつかった人……? どうしてここにいるの?」
「驚かせてすまない。騎士はもう君のことは追わないよ。だから安心して」
必死で紡いだ言葉がとても陳腐なものに思えた。もっと気の利いたことを言いたいのに……。
「どうして分かるの? それに、あなた誰?」
「私は……」
ずっと会いたかった。彼女に。今、目の前にいる……
「リセル・ウィン・ランドールそれが私の名だ。ティアはルーシアと呼んでくれた」
また、そう呼んでくれるだろうか……
「ルーシア……?」
呼ばれた瞬間、一気に胸の鼓動が高鳴った。
「あぁ、そうだ……」
ティアは私の顔をじっと見つめ、まるで観察するかのように様子を窺っていた。そして、しばらくして再び口を開いた。
「ルーシアは、私より小さかったの。私も成長して子どもの頃より大きくなったけど、あなたは私よりずっと大きいよ。ルーシアが大人になったとしても、あなたほど大きくはならないと思う」
ティアにとって、私は子どものままずっと成長していないのだろう。あれから60年が経った。聖域の1年は外の世界の約12年に相当すると言われている。つまり、彼女にとって私は未だに貧弱な少年のままなのかもしれない。
(どうする…… ティアと出会った時の事や聖域で共に過ごした思い出話を語っても良いが…… 何かないか……? 一言で私が本物だと証明できる言葉は……)
「あなた、もしかして…… 騎士の仲間?」
ティアが警戒の表情を浮かべた。このままではいけない、早く自分が誰なのかを証明しなければ!
「ティア、こちらに来て私の手のひらの上に君の手を乗せみてくれないか」
「どうして?」
「手を乗せれば、きっと私が何者なのか分かるはずだから」
「いやだよ! あなたが騎士の仲間なら私を捕まえるはずだもん!」
「もし私が騎士の仲間なら、こんなに悠長に君と話していないよ。騎士たちならすぐに君を捕まえようとするだろう? 私は誓って騎士ではないし、彼らの仲間でもない」
「本当に?」
「本当だ」
彼女は警戒しながらも、そっと私の手に自らの手を重ねた。
「ティア、私が聖域を出てから魚くらいは食べるようになったか?」
「……え?」
「手を放してごらん」
彼女は手を離そうとした。だが、返還された私のマナにからめとられたティアの手が、私の手から離れることはない。
「離れないだろう? 私は普段から肉を食べているからな。今、私のマナに還元された動物たちの手が、ティアの手を掴んで離さないんだよ」
「…………ルーシア?」
「……あぁ」
「ルーシア!」
ティアは満面の笑みで私に笑いかけてくれた。その笑顔を見た瞬間、抗いようのない感情に突き動かされた。もう、自分を抑えることなどできなかった。
彼女の手を引き、しっかりと抱きしめる。やっと見つけた。もう、この手を放したくない。
苦しいほどの思いが胸を締め付けた。
「ティア…… 会いたかった……」
「ルーシア、私もだよ!」
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