12. 不吉な訪問者
「ところであの怪我――――」
「ティア、隠れろ!!」
和やかな会話の最中、突如リョウの警告が響いた。彼の促しに従い、テーブルの下に身を潜める。
「少しいいか、聞きたいことがある」
食堂に入ってきたのは二人の大人だった。私には男女の区別ができないため、彼らの性別はわからない。テーブルの陰にいるため顔は見えないけれど、彼らの服装には見覚えがあった。私をなぶった三人組と似たような服を着ている。色は異なるが、作りがよく似ていた。私はサッと血の気が引いていくのを感じた。
「騎士様、どうかされましたか?」
「お前は店主か? 店の者たちにも訪ねたい。この近くで、白銀の髪色をした18歳くらいの少女を見かけなかったか? その者は、身体に酷い怪我を負っているはずだ」
騎士と呼ばれた人たちは、私のことを探しているようだった。私をなぶった三人組の仲間なのかもしれない。許可なく国に入った私を追ってきた可能性がある。私は身を固くした。
「あぁ、それならさっき――――」
「いや~、この辺でそんな少女は見かけませんでしたよ!! 怪我をしているならすぐに手当てをしないと。何かあったんですか?」
「ダン、あんた最近忙しいんだろ? これでも飲んで、英気を養いな!!」
食事をしていた人が、騎士に何かを告げようとしたが、マーロウが素早く言葉を遮った。次いでヘレナが彼の元へ行き、飲み物を提供し始めた。どうやら、私がここにいることは黙っていてくれるようだ。
騎士は先ほど口を開きかけた人物に近づく。その人はヘレナに飲み物のボトルを口に突っ込まれていた。
「お前、何か知っていそうな口ぶりだったな。知っている情報は隠し立てせず全て話せ!」
その人は、ヘレナに抑えられて何も答えられない。ただただ、首を横に振るだけだった。
「騎士様、ここはしがない小さな村です。そんな突飛な髪色をした少女がいたら、すぐに気づきますよ」
騎士たちは訝しげな表情を浮かべながらも、食堂を去っていった。「何かあればすぐに騎士団に連絡を入れるように」と言い残して。
「嬢ちゃん、あいつら行っちまったぞ」
マーロウがテーブルの下を覗きこむ。私はようやく肩の力を抜き、テーブルの下から出た。
「あんたがとっさに隠れるから、きっと何か理由があると思ってな。あんたのことは言わなかったよ」
「さっきの人たち、私をなぶった人たちとよく似た服を着ていたの。私のことを探していたみたいだし、仲間なのかもしれない……」
「さっきの方々は、この国の騎士だ。騎士がなんの理由もなく、国の民を傷つけるとは考えにくい。何か理由があるはずだ。追われる理由に心当たりはあるか?」
「この国に入った時、三人の人が私のことを人間だと思いこんで攻撃をしてきたの。私は人間じゃないと説明したけど、信じてもらえなかった」
「まさか、国境を無理やり越えたわけじゃないよな? もし無断で入ったんなら、騎士に追われるのもわかるが…… それでも暴力を振るっていい理由にはならねぇけどな!」
マーロウは、私の全身を隅々まで見つめるように視線を動かした。その目はまるで私を詳細に観察しているかのようだった。
「嬢ちゃんのオーラは、人間が心が良い状態の時に放つオーラに似ているんだよ。それは白く発光したように見えるらしい。その明るいオーラが、人間に見られのかもしれないな」
初耳だった。確かに彼らは私のオーラを見て人間と思い込んでいたようだった。それが原因で間違われたのなら、今後この国にいても人間と誤解される可能性は大いにある。
「あんた、種族は何なんだい? あの呪の発動を無効化できるほどの浄化の力を持っているなんて、人間とは思えないけど?」
ヘレナがすかさず質問する。先ほどまで、飲み物を突っ込まれていた人は、真っ赤な顔をしてテーブルに伏している。
「私、以前鑑定っていうものをしたことがあるの。その時、天族だって言われた」
「天族と言えば、ずっと昔に絶滅した種族じゃないか!? もしそれが本当なら、国で保護されていてもおかしくない。まして、傷つけるなんてあってはならないことだ!」
「まったくだよ! 私たちがこうして自由に過ごせるようになったのも、ティアのお陰だってのに、恩知らずもいいところだ! ひどい奴らだよ!?」
マーロウとヘレナは憤慨しているように見えた。自分の事ではないのに、彼らが怒るのは、私のためを思ってのことだろう。彼らなら信頼できると感じた。
「ところで嬢ちゃん、あんたどうしてこの国に来たんだ?」
マーロウが不思議そうに尋ねた。彼らなら本当のことを話しても、きっと信じてもらえるはずだ。
「私、ルーシアに会いに来たの。昔、いつか会おうって約束したから。それに、私ももう大人になったから、外の人みたいに仕事をしようと思ってるの。人は生きるために仕事をするって聞いたよ。それが生きることなんだって。私も人だから、みんなと同じように仕事をしてみたいの」
「人探しと、仕事ねぇ~。ヘレナ、お前はその名に心当たりはあるか?」
「聞いたことないよ。ここら辺の人じゃないんじゃないかい?」
「ルーシアの本当の名前はリセルだよ。場所は分かってるの。王都にある王宮に行けばいいから」
「!!? 王宮って…… リセルって…… まさか王太子殿下のことか!? ちょっと待て、そこにはさっきのような騎士もたくさんいるぞ! あんたを探していた理由が、不法で侵入した容疑者として追っているのだとしたら、このまま王都に行くのは危険だ!」
マーロウは私の両肩に手を当て、真剣な面持ちで話を続ける。
「悪いこたぁ言わねぇ、嬢ちゃん、王宮に行くのはもう少し様子を見てからにした方がいい。騎士があんたのことを調査してるってことは、手配書が出回っている可能性もある。下手に外に出たらすぐに掴まっちまうぞ!」
「手配書って何?」
「手配書ってのは、犯人や容疑者の顔や特徴を描いて情報を広く知らせるための紙だ。もしあんたの手配書が出回ってたら、誰でもあんたを見つけ次第、騎士に通報するだろうさ」
「通報って?」
「嬢ちゃん、何にも知らねぇんだな…… 通報ってのは、見つけたことを騎士に知らせることだよ」
それは大変だ! これじゃあ、今王宮に行くのは難しそうだ。騎士に掴まるのも嫌だし、すぐに王宮に行けないなら私はこれからどうしたらいいだろう…… 私は今後のことについて、一人思案した。
「ねぇ、この国の人はどうやって仕事をしているの?」
「仕事って…… 嬢ちゃん、何処かツテはかあるか?」
「ツテって何?」
「知り合いに、仕事を紹介してくれそうな人や頼れる人はいないのか?」
「ルーシアだよ。でも、王宮には騎士もたくさんいるんでしょ? 追われるのは嫌だから、ひとまず仕事を探そうと思う」
マーロウとヘレナは互いに顔を見合わせた。二人とも困ったような表情を浮かべ、しばらくの間沈黙が続いた後、ヘレナがおもむろに口を開いた。
「あぁ! もう!! 行くとこ無いならしばらく家にいな!! 仕事といったって、そう簡単に見つかるもんじゃないよ! あんた、歳いくつだい?」
「私、18歳」
「それなら、うちで働くといい。あんた、特に荷物も持っていなかったし、このまま外に放り出したら、野垂れ死んじまいそうだ! そうだろ、マーロウ!!」
ヘレナは同意を求めるようにマーロウを見やる。その眼光は鋭かった。なぜか有無を言わせない気迫を感じる。
「もちろんだとも、嬢ちゃんには恩もあるしな! せがれが外に出ちまって、ちょうど人手を探していたところだったんだ。部屋も余っているし、三食のまかないも出すぞ!」
「いいの!? 私ね、この国に来るときに持っていたカバン、途中で置いてきちゃったの。カバンの中の物を売って、それを金に代えようと思っていたんだけど今は何もなくなっちゃったから。働くってことは、金が貰えるの?」
「あったりまえだろ、もちろん給金も払うぞ! っといっても、そんなにたくさんは出してやれないけどな」
その後、マーロウは、周囲の人々に私の存在を秘密にしておくよう口止めしてくれた。こうして私は、マーロウとヘレナに迎え入れられ、食堂亭グリーンリーフで働くこととなった。
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