10. 嘘つき
不思議なことに、小瓶の中の液体を飲むと、彼らは瞬く間に元気を取り戻した。どうやら、私が歌う必要はなさそうだ。つい先ほどまで負傷していたとは思えないほど、彼らは姿勢を正し、堂々と歩いている。
私は小さな部屋に案内された。リョウと私は別々に話を聞く必要があると言われたが、その理由は、私たちの話の信憑性を確かめて、口裏を合わせていないかを見極めるためらしい。リョウはこの人たちと話すつもりはないようで、とりあえず私だけが事情を説明することになった。
「何かあったらすぐに呼べ」
そう告げて、姿を消したリョウを見て、目の前の人たちは驚いた表情を浮かべた。
「転移か、あの者はどこへ行った? 戻ってくるのか? それに透けて見えたが、一体何者だ?」
「リョウは精霊だよ。1人づつしか事情を聴いてもらえないみたいだから、今は別の場所にいるけど、呼んだらすぐに来るよ」
目の前の人物は訝しげに私を見つめながら、「あの男は戻ってくるんだな?」と確認するように尋ねた。そして、私がうなずくのを見てから、言葉を続けた。
「とりあえず持っている荷物を出せ、危険物がないか確認させてもらう」
まだ、警戒しているようだ。リョウにひどく痛めつけられたせいだろう。私は信用してもらうために、肩に斜め掛けしているカバンを差し出した。
「!!? これは……なぜこんなにたくさんの宝石や鉱石を持ち歩いているのだ? その身なりで、こんな高価なものを大量に所持しているなんて、何か後ろ暗い理由があるとしか思えないが?」
目の前の人物は驚愕の表情を浮かべ、私の持ち物に釘付けになった。そして、次の瞬間、その鋭い視線を私に向けてきた。
「後ろが暗い理由? それどういう意味? それはルゥイの森から持ってきたんだよ。森の外では、金が必要になるから、それを売ったらいいってルゥイが教えてくれたの」
「ルゥイの森とは?」
「聖域の事だよ」
目の前の人物はハッと笑い、机をトントンと叩きながら口元には笑みを浮かべていたが、その目は射貫くように鋭く私を睨み続けていた。
「何が目的だ?」
「目的? ここに来た理由? ルーシアに会うためだよ。それと、仕事を見つけるため。外の人たちはみんな、生きるために仕事をしているでしょ? それが人としての役割だから。私も同じように生きてみようと思ったの」
「ルーシアとは誰だ?」
「ルーシアは王の子だよ。私はルーシアって呼んでるけど、本当の名前はリセルって言うの」
彼の視線は一層鋭さを増し、機嫌が悪そうな表情が浮かんだ。その理由が私には分からない。
トントントントン
机を叩くリズムが徐々に速くなっていく。
「リセル殿下にどういった用向きだ? 何を企んでいる?」
「約束をしたの。いつか会おうって。だから、会いに行くんだ」
背後からガシャンという音が響き、次の瞬間、何かが首に当たる感触があった。振り向く間もなく背後に人の気配を感じた瞬間、電撃が全身を駆け巡った。
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私は椅子から転げ落ち、地に伏した。
「貴様が虚偽の証言をし、真実を話す気がないということがよく分かった」
背後に立つ人物の冷酷な眼が私を見下ろし、その存在を軽蔑するかのようだった。電撃は容赦なく私の身体を貫き、さらに強さを増していく。その勢いは留まる気配を見せず、私を押し潰そうとする。
「ううぅぅぅうあぁぁぁぁあ!!!」
身をよじることも、抵抗することもできない。腹部に深い衝撃が走り、続けざまに蹴りが繰り出される。その勢いで壁に激しくぶつかり、身体は痛みに震えた。全身に広がる痛みに耐えながら、私はどうにか意識を失わないよう必死に踏ん張っていた。
「この建物は転移疎外の術式を施した! もう、仲間は呼べんぞ!」
上体は冷たい手によって押さえつけられ、抵抗もむなしく口には布が押し当てられた。リョウを呼ぶこともできない。その瞬間、首が絞められる感覚が襲う。全身に広がる苦しみと痛み。殴打と蹴りが連続して加えられ、痛みと絶望の中、ただただそれが続く。
「人間がっ! また国を乗っ取るつもりか!!」
「そうはさせるかよ!!」
「低俗な人間が!!!」
「貴様らは従属されるべきなんだよ!!」
罵倒の言葉が耳に届き、その響きが心をえぐる。時間の経過がどれほどかわからない。意識は朦朧とし、口を覆っていた布が次第に緩んでいく。
「リョウ……(助けて)」
最後の言葉は声にならなった……
荒ぶる突風が大地を襲う。まるで怒りの咆哮が世界を揺るがすかのようだ。風が草木を引き抜き、地を地鳴りのように揺さぶる。強風があらゆるものをなぎ倒し、鋭い風の刃が空から降り注ぐ。風の刃は全てを貫き、空間を切り裂いた。逃れる術を持たない者たちは、その猛威から身を守ろうとしたが、この嵐の前に無力だった。突風は止むことなく、巨大な渦となってその場のすべてを飲み込んだ。
風がすべてを薙ぎ払った時、私は既に目を開けていられなかった。ただ、暖かな風に包まれながら、彼に会いに行かなくちゃ、そんなことを思ったんだ。
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