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028:300 VS 3 ④


 それはそうと、本当に今さらだけど人物紹介。

 俺の後ろを走っている伊織と併走する格好のメイド長は名をシンシアといって21歳未婚の巨乳娘だ。

 アルバトには名前すら登場しなかった人物だが、足を前に出す度に揺れるおっぱいがワンダホーそしてビューティフォー!

 ブロンドの長髪を結い上げていて、時折チラリと覗かせる首筋が強烈な色気を燻らせる。

 おれを誘ってんのかと思わず飛び掛かりたい衝動に駆られちまうぜ。


 と、冗談はさておき。(お誘いがあれば迷わずその豊満な胸に飛び込むけどな!)

 彼女は常にキビキビとした物腰で事務仕事から家事全般に至るまでメイドに必要と思しき業務の全てを有り得ない速度と正確性でこなす。

 まさしく家電いらずの万能メイドなのである。

 そんな彼女が今は剣を携えているワケだが、少なくとも俺の見立てじゃあ結構な腕前と思われる。

 動きに無駄も隙も見当たらず、休憩無しに走っている俺を追従し続けていても息一つ乱していない。

 隣を駆ける伊織が汗一つ掻かず涼しい顔なのでついジョギング程度の速度しか出てないんじゃないかと錯覚しちまうが、俺達は常人が短距離走で全力疾走するようなペースで既に一時間近くも走り続けているのだ。

 これで息を乱してないメイドって何モンだよ。

 職業忍者につき13歳ながら厳しい修行を行っている筈の伊織ならいざ知らず、シンシアさんが何らかのトレーニングをこなしている姿なんて見たこともないってのに。


 う~む。

 つくづく女は謎な生き物であると言わざるを得ない。


「……見つけた」


 やがて俺は足を止める。

 目を向けた先は領主の館、ではなく。

 街からほんの少しだけ離れた所にある砦。

 闇ギルドが根城としていた砦を半ば強引に洋館に改装したような中途半端な建築物ではない。

 最初から街の防衛拠点、もしくは出陣する際の前線基地として使用するための軍事施設。


 アルバト戦記(ゲーム内)では特にイベントも配置されていない、探索してアイテムをゲットするだけだったダンジョンには今、三百名近い武装した兵集団がたむろしていた。


「ヘルートさん、この場所に砦があることをよく知ってましたね。あ、お嬢様から聞いていたのですか?」


 隠蔽のためなのか砦は雑木林の真ん中にそびえており、俺達は木々の足下に生えている雑草を遮蔽物に兵士達の様子を窺う。

 後ろからシンシアが聞いてきたので「まあ、そんなところです」と答えておいた。


「俺が先に行く。二人には取りこぼしを始末して欲しい。できるか?」


「うん」


 振り返りもしないで問うてみれば伊織の声が返ってきた。

 メイド長の頷く気配も感じられた。


「じゃあ、ちょいと行ってくる」


 そう言い残して俺は一人腰を上げ、草むらから這い出す。

 砦の兵達は気力も体力も充実しているようで侵入者をすぐさま発見し取り囲もうと駆けてきた。

 数は五人。


「貴様、何者だ!!」


「なに、通りすがりの大悪党さ」


 誰何すいかには簡単に答えて地面を蹴る。

 己が身が残像を残して前に出る。

 ほんの一秒ほどで、幼い手が男共の鳩尾に触れた。


「このガキ、何のマネだ――はべ?」


 ドパンッ!


 五つの輪郭がボコボコと膨張して爆発する。

 子供一人に5名もの大人が取り囲んでいるのだからと静観を決め込んでいた兵士達。

 彼らはついさっきまで談笑していた同僚が瞬き一つした後にはもう細切れの肉片へと変わってしまった現実をすぐには理解できなかったようで、暫し足下の地面にこびり付いた赤い塊を見つめ呆けていた。

 だが急に我に返ると「敵襲ぅぅ!!!」と大声で叫ぶ。

 声に反応したのは更に奥にいた兵士達で、彼らは殺意を漲らせ問答無用で襲い掛かってきた。


「さぁて、パーティーの始まりだ。一人残らずあの世に送ってやる」


 呟いて前に出る。

 槍の穂先、或いは剣の切っ先が四方八方から飛んできた。

 応える様に駆け出す少年の体躯。


 たった1人で作り出す地獄絵図は凄惨を極めた。

 上半身を切り飛ばされた兵士。

 胴体を破裂させられた兵士。

 或いは体のあちらこちらに輪っか状の光を貫通され、バラバラにされて地面に崩れ落ちた兵士。

 そのどれもが恐怖に顔を歪めていた。

 しかし、それで逃げ出すような人間は居なかった。

 流石は本職の兵隊だ。敵わないからといって尻尾を巻くような軟弱者はいないらしい。

 俺は安心して、けれど一人一人丁寧に対応するのも面倒臭く思われて、なので普段の戦いじゃあなかなか使う機会の無い術を使用する事にした。


 ――氣術、鳳解ほうかい


 充分に練り上げた氣を周囲にばらまく。

 するとキラキラと光る無数の粒が四方八方へと広がっていって、まるで砂漠の真ん中で砂嵐にでも遭ったように兵士達を取り巻いた。


 何事かと動作を取り止めて狼狽と共に周囲を見回す兵たち。

 そんな彼らに講釈垂れてみる俺様だ。


「解説くらいはしてやんよ。“氣”ってのはある程度以上に練り込まれると固体化して体の外側に放出しても消えないようになるんだ。そういった氣の粒子ってのは細かい話をすれば内側でバチバチッと弾け続けていて、直に触れるとそれだけで皮膚は火傷や裂傷に似た傷を負うし、鎧みたいな金属なら原子の繋ぎ目が緩くなってボロボロになっちまう。……もしも、そんな劇薬じみた氣の塊を、少量であっても吸い込んで肺に送っちまうと、どうなるのかなあ?」


 男達が襲い掛かって来ないのを良い事に長々と術の説明なんぞをしてしまったが、周囲をゆっくり眺めてみればチラホラ自分の胸を押さえて倒れ込む兵士を見つける。

 兵の何割かが勝手に倒れれば、次の何割かが恐慌を来して逃げだそうとしたようでそこかしこにバチンッ、バチンッと小気味良い音が響いて倒れる数を増やす。いや、鍛え込んだ体の上に鎧などを着付ける兵士であれば氣塊に触れたからといって死亡するような手傷は負わないし、そもそもの話、空気中にばらまかれているのは“氣”つまり人体から生み出される動的なエネルギーでしかないので文字通りに気を強く持っていれば充分耐えられるのだが彼らは恐怖により錯乱、己が気勢を揺らがせてしまった。

 弱気になれば一気に肉体は蝕まれ死に飲み込まれてしまうのだ。

 倒れている連中は肺を破壊され、更に順を追って心臓などの臓器が破壊されるだろう。


 ゲームでは範囲攻撃に分類されるこの技は、氣術の中でも一二を争うほど燃費が悪く、そのくせ与えられるダメージの振れ幅が大きすぎるので使い物にならない、だから滅多に使用されることのない技と言えた。


「でも、まあ、氣術の原理が分かってない奴にしてみれば初見殺しになるワケだし、現実だと意外に使えるっぽいな」


 地面のそこかしこで芋虫よろしく転がり血を吐いてる兵士諸君には半笑いで冥福を祈りつつ、振り返って手招きする。

 茂みの中から這い出してきた伊織とメイド長はそんな眼下に広がる地獄絵図にドン引きしているかに思われた。


「俺の標的は逆賊(・・)ジキルド・ハイペルスだが、既に出立している兵団の先頭に立っているか、そうでなければここに居る筈だ。なのでお前達も見つけたら四の五の言わずに襲い掛かってくれて構わない」


「分かった」


「はい」


 意思確認ということで改めて言い含めておいて、それから砦の内側へと足を踏み入れたものである。


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