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023:王都メグメル⑥


 レガリア・ウォーレスとの木剣での打ち合いは結構な時間続いた。


「うぉおおおっ!」

「いいぞぉぉ!!」

「団長負けんなぁ!」

「クソガキさっさとぶっ殺されちまえぇ!」


 周囲から声援やら野次やらが飛んでいたように思われるが全く気にならない。

 五感の全部が屠るべき手合いへと向けられていくのが分かる。

 切っ先を叩き付け、飛んできた切っ先を躱し、いなして反撃する。

 まるでシーソーでもしてるみたいに、正面に見える顔と言葉無くして意思を交わしでもするように。

 打って守って打って守って。

 次にどういった攻撃が来るのか大凡分かったし、俺の木剣の軌道も読んでいるかのように受けていなして交わす。


 あぁ、コレ面白いわ。


 それが素直な感想だった。


「恐ろしいガキだな、まったく。底が見えやしねえ」


「無えんだよ、底は」


「可愛げの無いガキだぜ」


 レガリアの言葉遣いも荒くなっていた。

 最初は世間知らずのガキをいっちょ揉んでやろうとか思っていたのだろうが、今は改心したようで目が本気マジになっている。

 俺はと言えば爽やかな汗を額に浮かべつつニヤリとして返してみた。


「じゃあ、次はお前さんの手札を見せて貰おうか」


「なんでさ。剣でチャンバラしていても楽しいし、充分だろ?」


 どうやらこの短時間で奴は俺の得意分野が剣術などではない事に勘付いたらしい。

 勘の良い大人は嫌いだよ、と言いたいところだが、どうも相手はそれじゃあ満足いかないらしかった。


「そうもいかんのだ。陛下が私に命じたのはお前の能力を測ること。今のままじゃあ君は実力の半分も見せてはくれないだろう?」


「中間管理職も大変だな」


「まあそう言わずに付き合えや」


 至近距離で言葉を交わす。

 周囲の喧噪があれば声を拾うなんて出来やしないだろう。

 俺は「しゃあねえな、ちょっとだけだぜ?」と言い残すとバックステップで距離を置き、それから持たされた木剣を石畳の上に落とした。


「ちゃんと受けないと死ぬから、全力で防御することをお勧めするよ」


 言いながら剣術ではない氣術の構えを執る。

 白銀鎧の中年男は「拳法か……」と呟いた後で急に何か恐ろしい者でも見たように険しい顔をすると、それまでの荒々しさから一転して静かに木剣を構え直す。

 男の輪郭から闘気が立ち昇り始めた。


「なんだ、アンタだって手ぇ抜いてたんじゃねえか」


「子供相手に大の男が本気になんぞなれるか。……だが今分かった。お前は子供の範疇にゃ入らないし、人間の枠に収まってるかどうかも怪しい。気付いてるか? お前、背中に龍を背負ってるぜ?」


 何だそりゃ。

 と思って肩越しに顧みてみるが勿論何も見えやしない。

 なんだ戯れ言か、と奴の言葉を流すと腹の下で練った氣を解放する。

 ボンッ、と石床の一部が割れて弾け飛んだ。


「そんじゃ、行くぜ? ――歯ぁ食いしばれ!」


 蹴った石床が今度こそ粉々に割れて土柱が立った。

 限界以上に引き上げられた動体視力がみるみる近づいて来る男の動きをその細微な所まで捉えていた。


 キュンッ!


 超高速で振り抜かれた木剣の切っ先を身を捻って躱す。

 手合いが握りを変えて反対方向へと振り抜く。


 キュンッ!


 躱す。超々高速で繰り出される斬撃をそれ以上の速度で躱しやり過ごす。

 男が更に握りを変えて、床スレスレから一気に跳ね上げた。


 キュンッ!


 それでも躱す。

 己が口端が悦びに歪むのを感じた。

 ここからは俺の距離だ。


 男の懐に潜り込んだ俺。

 身に付けている鎧の胸装甲に拳を押し当てた。

 ガツンッと足で石床を踏み割る。

 動力が足首から太ももへと伝い、腰の僅かな回転が後押しして肩へ、そして腕の先にて握り絞められた拳へと伝播する。


 ――氣術、虎砲っ!


 ボグンッ!


 腕に手応えが伝った。

 拳を押し当てていた装甲がグニャリと拉げ、彼の体躯を丸ごと吹き飛ばす。

 いや自分で跳んだか。

 だが後ろに逃げたからといって、虎砲の威力を全て逃がしきるには至らない。

 レガリアは遙か後方へと盛大に吹っ飛んで、壁に激突するすんでの所で足を床に突いて堪えた。


「――はぁ、はぁ、ぐぅぅ?!」


 ガクリと膝を突いた男。

 彼の取り落とした木剣が俺達の中間地点に転がっている。

 それまで歓声に湧き立っていた堂内が水を打ったようにしんと静まり返る。

 俺は追撃にと走り出しトドメを刺そうとするも数歩ほど駆けたところで「そこまで!」と鋭い声に制されて足を止めた。


「ったく、だからちゃんと受けろって言ったのに」


「いや、あれは分かっていても防げるものではないだろう? お前さんだってそのつもりで撃ったろうに」


「否定はしねえよ。ほら、立ちな。大の男が子供相手に膝を突いてみっともない」


「はっはっはっ……言われてしまったな。うぐぅ!」


「ああ、肋骨あばらが何本かいっちまったか。――誰か治療できる人間はいないか!」


 大声で呼ばわれば弾かれたように二人の人間が駆けてきた。

 二人は騎士達のように鎧甲冑は身につけておらず、僧侶が着用するローブというか法衣らしき衣装に身を包んでいた。


「すぐに処置します」


 ――《治癒ヒール》。


 彼らが手をかざせば光が溢れ出しレガリアの胸部へと吸い込まれていく。

 あれが回復魔法という奴か。初めて見た。

 流石は剣と魔法の世界(ファンタジー)だと感心しきりの俺様だ。


 そう言えばと顔を上げると驚愕に固まったまんまの国王陛下たちが見えた。

 アルベルト少年はキラキラした目で俺を見ている。

 そんな中で、麗しき大輪の花が咲き誇るが如き笑みを浮かべるフィアナ姫の、恋に堕ちた少女おんなの面持ちがやけに印象に残った。



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