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021:王都メグメル④


「ではヘルート殿の希望としてはブラームス家とは完全に縁を切った上でそれらを処断させようと。この方向で宜しいのですかな?」


「はい。付け加えるならば私の雇い主であるマリー・ミューエル嬢はジキルド・ハイペルス侯爵から命を狙われておりますので、どうにかしてこの状態を解消できればと」


 宰相アンドリュー氏は物腰の柔らかなご老人。

 すっかり白くなった御髪にローブ姿で、そのくせしゃんと背筋を伸ばして立っている。

 片眼鏡モノクル越しに手渡されたリストを眺めつつの彼は知性を感じさせる声色で話を進めていく。


「分かりました。……できればハイペルス卿とマリー嬢の関係性について知りたく思いますが」


「はい、ハイペルス侯爵様の娘にエリーゼという方がいらっしゃいまして、この方が商家のセルタン・ミューエルと半ば駆け落ち同然に結婚。その後、子に恵まれなかった夫妻はマリーを養女として迎え入れた。というのが血筋から見た際の関係です」


「なるほど……」


「ただしハイペルス侯爵様は家名に泥を塗ったとしてエリーゼ様の殺害を目論んでおり、これは既に成されています。お手元にある顧客名簿に添付されております受注履歴をご覧頂ければ分かるかと存じますが、ここ最近になって同氏からの依頼件数が増えており、これらがミューエル家に対する攻撃と合致しておりますので」


「ふむ、……大凡おおよその事情は分かりました。しかしハイペルス卿は一筋縄ではいかない相手。何か決定的な、もっと大きな案件が無いと切り崩すには至らないでしょう」


 ん?

 切り崩す、という言葉に引っ掛かった。

 こちらから要望しているのはマリーへの攻撃を止めさせるという事なんだが。

 ひょっとして宰相様は、ハイペルス侯爵家を弱体化させようって腹なのかも知れない。


「もしも、ですが――」


 そこでちょっとカマを掛けてみることにした。


「もしも私がハイペルス侯爵様の家に単身乗り込んでそこに居る人々を処断した場合、どういった状況になると思われますか?」


 ぶっ殺す。とは言わない。あくまで罪人を処罰するといったニュアンスを含めて物申す。

 すると宰相閣下の目がギラリと光った、かに見えた。


「早まった真似はおしなさい。如何に腕に覚えがあったとしてもそれだけは宜しくない。仮に上手くいったとしても君たちは貴族殺しの罪に問われ追われる立場になってしまう」


「そうすると余所の国に亡命、といったやり方しか思いつかないのですが」


「ううむ……」


 難しい顔で唸る宰相様。

 国王陛下も深刻そうな表情を崩さない。

 そこへ割って入ってくる声があった。


「――でしたら、ヘルート様を王族の養子として迎える。もしくは功績を上げて頂いて爵位を与える、というのは如何でしょうか?」


 鈴を鳴らすような声。

 その冷涼な音色を紡ぎ出したのはフィアナ姫だった。


「なるほど、彼を(・・)貴族にして王家で保護する体勢を構築してしまう、と」


「先ほどからのお話を聞く限り、そちらの絶縁状が受理される瞬間までは彼はれっきとした貴族家ご子息ですし、やりようは幾らでもあるように思われますわ」


 お姫様は澄まし顔で曰う。

 馬車内で聞いた話だと彼女も俺と同じ12歳。

 12歳の娘さんが思いつく策としては少々度が過ぎているかに思われるが、どうなんだ?

 俺はと言えば頭の中で色々と計算する。


 家督を継ぐのではなく自分が初代の貴族になる。

 確かに魅力的な話だ。

 けれど貴族の称号を得るのなら相応の功績を残さなければいけない。

 王家にとって自分が有益であると証明しなければいけない。

 何を以て有益とするのか?


「ええと、姫君はどういった事を成せば私にとっての功績になり得るとお思いですか?」


 分からないので単刀直入に聞いてみる。

 すると彼女は幼くも麗しき面立ちを優しげに微笑ませ、俺の顔を真っ直ぐ見据えてこう言った。


「内政、軍事、調略。様々な方向に可能性は広がっておりますけれど、あなたは武人。ですので軍事方面で何らかの案件おしごとをやり遂げれば宜しいのでは? ――アンドリュー様、彼を超一流の戦士であると仮定して、爵位を授けるに足る仕事が無いか見繕って頂けませんか?」


 その物言いは蝶よ花よと愛でられ温室で育ったお姫様とはとても思えない内容だった。

 彼女の父君となる国王陛下に目をやるに、このパパさんは娘の雄姿にデレデレになっている。

 俺はマリーの事を俺と同じ転生者ではないかと疑っているが、そのリストにお姫様の名も付け加えることにした。


 ――とはいえ。


「ふぅむ、ですが超一流であるとの仮定でしたら、少なくともその能力を見せて頂かなければなりません。爵位を授けても誰も横やりを入れられない程の仕事ともなれば、それこそ相応の力が無くては成し得ませんし」


「ええと、具体的に何をすればお認め頂けると?」


 分からない事は分かってるヒトに聞く。これ大切。

 宰相様を見つめて問うてみる。するとご老体は「ふむ」と一つ頷いた。


「陛下、レガリア殿をお借りしても?」


「うむ、許す。私も彼の実力が見たいと思っていたところだ」


 お?

 つまりその人物を国王様と宰相様の目の前でボコッちまえば良いワケか。

 シンプルで分かりやすい。


 国王陛下が使いの者を送り出して10分ほど待っていると、白銀の鎧を身に纏う偉丈夫が現れた。


「彼はレガリア・ウォーレス、近衛騎士隊の騎士団長を務めている剣士で、王国で一番強い。彼と戦って貰おうと考えているが、どうだね?」


「ええ、勿論よろこんで」


 言いながら俺の目が驚きに見開かれる。

 筋骨隆々として見るからに強靱であろう体格のレガリアさん。その後ろに見覚えの或るシルエットを捉えたからだ。


(主人公……!?)


 金髪で幼げながらも凜々しい面立ちの少年が、後にアルバトロス戦記で主人公となる存在であると俺には瞬間的に分かった。



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