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019:王都メグメル②


 足下では体のあちらこちらを骨折させられ石床の上に転がっているゴロツキ。

 民家に激突したまま動かない男は壁に穴を開けているが弁償は彼にやって貰おう。

 それにしたって気に入らないからと難癖付けて相手の意見も聞かないままボコッた俺は何という傍若無人、何という極悪ワル

 俺格好いい! 俺最強!

 そんな自分にちょいと酔い痴れてみる少年は誰でしょう?

 そう、この俺様さ!

 ってなもんだ。


「あ、あの、ありがとう御座います」


「おう? おう、まあ、お前さんも道を歩くときは気ぃつけてな」


 大の男二人に絡まれていた女の子がおずおず礼を述べてくる。

 髪は瑠璃色、面立ちは優しげで儚げで、なるほど確かに男受けしそうな美少女顔だ。

 俺は軽く手を振って応えると踵を返して立ち去ろうとする。


「あ、あの!」


 なのに背後から待ったが掛かった。

 瑠璃色髪の娘ッ子が胸にぎゅーっと握り絞めた手を当てて、俺の高揚感に水を差してきやがった。


「おう?」


「よろしければお礼をさせて下さいっ!」


「お、おう……」


 なんだかグイグイ来る。

 勢いに押されてつい頷いてしまう俺。

 ん? 俺様は硬派な純情ボーイなんかじゃねえぜ?

 据え膳はきっちり平らげるし足りなきゃお替わりまで要求する太々しい野郎ヤローだぜ?

 お礼がしたいと言われるなら受け取ってやんぜ。


 見た感じ俺と同い年くらいの娘ッ子は簡素ながら上等そうな衣服を着用しており、裕福なご家庭の娘さんだと察する事ができた。


 白昼堂々、大通りで起こった乱闘事件ともなれば衛兵達が駆け付けるのも早い。

 鎧と槍とで武装した衛兵らは俺達の所までやって来ると事情聴取。

 娘さんの証言によって俺は暴漢の魔の手からレディーを救った正義の味方らしき賞賛を受けてしまった。

 世紀の大悪党たるこの俺様にしてみれば恥辱以外の何物でも無い。

 これはもう、瑠璃色髪娘からお礼をふんだくってやらなきゃ気が済まない。

 と、これは勿論のこと胸中で、表に出すようなヘマはやらないが。


「私の家、ここから近いんです! 良かったらお食事とかどうでしょう?」


 衛兵達がならず者どもを引きずっていく背中を見送ったところで彼女はこう申し出てきた。

 事情聴取の段で俺の名がヘルート、彼女の名が“フィアナ・ルーティア・ド・アルフィリア”とかいう長ったらしい名前である事も判明しているが、ここでおや?と思った俺である。


 いや、こういった長ったらしい名前ともなるとまず間違い無く貴族家のご令嬢といった話になるのだが、それよりも名前の最後に“アルフィリア”という単語がくっついている所が気になったんだ。


 この国は“アルフィリア王国”。

 この名称を氏名に持つと言うことは、高位の貴族家、もしくは王族といった話になる。

 少なくとも国内で貴族の名を騙るのは重罪だから嘘を言っているわけじゃないだろう。

 つまり、彼女はお姫様って事ですかそうですか。


 そう言えば確かに“アルバト戦記”にもいたっけこの子。

 主人公にお兄様っ!お兄様っ!と甘えたい盛りの子犬わんこよろしくじゃれついてくる甘えん坊の妹ちゃん。

 庇護欲をそそる見た目とは裏腹に、誰も見ていない所でニヤリと何かを企んでほくそ笑むみたいな娘さんだった筈。


 そんな貴族家の女子がお忍びで市中見学ですかそうですか。

 一国の姫君が街の大通りで何しとんじゃワリャ!

 と言いたい気持ちもあったが、まあ、結果オーライという事で流そう。

 大人の余裕って奴だ。


 いや、まてよ?

 ということは、さっきのゴロツキ二人組は姫君をそうであると知った上で拐かそうと目論んだ。つまり王族に対する誘拐を目論んでいた、なんて可能性もあるわけか。

 この場合、ほぼ確定で裏で糸を引く人間が存在しているといった話になる。

 街のゴロツキが自分の意思で姫君を攫おうかなんて考えるのはちょっと不自然だからな。


 イヤだぜ? 高位貴族と王族の間で起きる謀略に巻き込まれるなんて。

 ただでさえうちのマリーちゃんはお家騒動の真っ只中にあって絶賛狙われ中なのだからこれ以上余計な面倒に付き合わされるなんてどう考えたって割りに合わない。



 移動に際しては予想した通りというか。

 凄い勢いでやって来た三頭立ての馬車がフィリアのすぐ隣で停車したかと思えば客室から執事であろう男が出てきて慇懃に頭を下げる。

 赤毛で顔がどこぞのアイドルかってくらいシュッとしており、微笑めば背後にキラキラとしたエフェクトが掛かってんのかと疑うくらい眩しい。


 なんだコイツ?


 うん、なんか一瞬でムカついたわ。

 機会があったらボコッて――、もとい。世間の厳しさを教育して差し上げるぜこの野郎。

 などと内心で息巻く俺だった。



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