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015:闇ギルド④


 闇ギルドが根城にしていた砦を無理くり洋館らしき佇まいへと改装したであろう屋敷。

 ここを拠点としていたギルドの構成員、少なくとも動ける人間は全部潰したはずだと気配を探って確信した俺は、けれど地下に誘拐してきた少年少女を監禁しておく部屋があるならその見張り番はいるに違いないと、できれば手に汗握るギリギリ限界バトルを演じられるくらい強かったら良いのになぁ、なんて、ちょいと現実味に欠ける期待を胸に地下階層に至る階段を探し、見つけたら欠片ほどの躊躇もなく足を掛けた。


 コツコツコツ、とこだまする靴音。

 地下階層に降り立った瞬間に、右側から太っちょの男が曲刀サーベルで斬り掛かってきた。


 ――氣術、爆勁掌ばくけいしょう


 上から叩き付けられる刃を簡単かつ紙一重で躱してから、手をそいつの腹に押し当て軽い調子で押した。

 すると男はよろめいて尻餅突いたが、次にボコリと腹部を膨張させ「あべしっ?!」なんて意味不明な呻き声を残してパンッと破裂。

 そこら中を水浸し(ちまみれ)の汚物塗れにした。


「……看守か」


 その場で膝を突いた下半身だけの物体。

 確認するに腰ベルトに束になった鍵が引っ掛けられている。

 俺は自分の手が赤く染まるのも顧みず、ベルトから鍵束を抜き取った。


 それから気配を探りつつ慎重に地下階層を進む。

 床と天井は雑に石材を積み上げただけといった様相だが、壁には等間隔で鉄格子が填め込まれており、ザッと見たところ20はある格子部屋の内の半分に人が居た。


「お母さん……」

「ぐすっ、ぐすっ」

「タスケテ……タスケテ……」


 泣きじゃくる声。家族を呼ぶ声。

 助けを求めているというよりは既に半ば壊れている自身の精神こころを繋ぎ止めようとしているかのような呟き。

 それらは全て年端もいかない子供達が奏でる音色だった。


 うむ、誘拐され連れてこられた事は確定。

 やはり住人どもを残らずぶち殺したのは正解だったぜ。

 なんて思いながら目当ての輪郭を探して回る。

 詩織は一番奥の格子部屋に監禁されていた。


「詩織、助けに来た」


「……随分と早かったですね。二日か三日は掛かると思ってました」


 格子部屋の奥。壁に固定された鎖の反対側、この先端にくっついている鉄枷を片足首に填め込まれ、その割に妙に落ち着き払っている詩織が俺の声に返事する。


「お前さんの身に何かあればお姉さんが黙っていないだろう? それとも、口じゃあ言えないあんな事やこんな事をされた後の方が良かったか?」


「まさか。けれど心配いらないって神様も言ってたし、私的にはそれほど不安は無かったです」


「ああ、そうかい。神様とやらについては追々聞くとしてだ。取り敢えず俺様に感謝の一つくらいしたってバチは当たらんと思うぜ?」


 言いながら持っていた鍵束からてきとうに当たりを付けて差し込む。

 なんと一発で合致。カチリと音がして解錠された。


「……ありがとうございます」


「よし。じゃあ帰るか」


「他にも連れてこられた子達がいるみたいですけど、解放はしないの?」


 詩織は抑揚の無い声で尋ね掛けてくる。

 俺はどう答えたものかと思案しながら、彼女の足首に填められた枷に当てずっぽうで選んだ一本を差し込み回してみた。

 するとやはり一発で解錠。金属音を立てて外れた鉄枷が床に転がった。


「俺はどちらでも。運が悪かったからとか言い様はあるんだろうけど、そもそも世の中ってのは理不尽がまかり通る代物だからな。

 ……例えば、俺は上でたむろしていたゴロツキどもを一人残らず地獄に送ったが、それが無かったとしたら監禁された彼女らはいずれ奴隷として出荷され誰かに買われただろう。

 けど、それが本当にその子たちにとって不幸な事なのか、俺には判断つかんね。

 もしかしたら助け出された後でメシも食えずにどこぞで野垂れ死んじまうかも知れねえ。

 自力で館から脱出したとしても別の誰かに攫われて奴隷として売られるかも知れないし、ただ歩いているだけでも上から瓦が落ちてきて頭カチ割られて死んじまう、なんて事だって無いとは言い切れねえ。

 世の中ってのは信じられないくらいに理不尽で納得いかないもんだ。だから俺はこういう場合には率先して人助けしようなんて思わない」


「そう……ですか」


 詩織は納得いかないのか、どこか冷めた声で答えた。


「では、私があの子達を助けて欲しいとお願いしたら?」


「俺が持っている鍵の束を渡す。助けたいと思った奴が助ければ良い。俺は邪魔はしねえよ」


「分かりました」


 詩織は立ち上がって俺の手から鍵の束をひったくると格子部屋を出て行った。

 俺は後に続いて廊下に出るとゆっくりとした足取りで詩織を追い掛ける。

 階段の所で待っていても良いのだが、もしも討ち漏らした敵が居た場合に面倒臭い事になる。なので気配を探ることはやめない。


 ……というか、詩織を攫った奴を上で見なかった。

 どこかで息を潜めているのか、それとも既に館を脱出しているのか。

 少なくとも隠遁の技術に関して一流である事だけは間違いない。


 暫くの後に監禁されていた少女たちが全て解放された。

 ゴロツキ共の血と臓腑に塗れた廊下をおっかなびっくり進んだ彼女らは晴れて館の外へと脱出。

 仕方なしにと街の近くまでは俺と詩織とで引率したが、そこからは別行動。

 だって、この時点での俺は返り血を盛大に浴びていたので一緒に町に入ろうとした瞬間に衛兵に止められ連行されちまうだろうし。

 俺は詩織を有無を言わせずお姫様抱っこすると氣術により空を舞い、マリーが待っているはずの邸宅へと一直線に帰投する。


「ヘルートさん、でしたっけ。あなたは酷い人。けれど優しい人。どっちが本当のあなたなの?」


「そういう不思議ちゃん的な質問はやめてくれ。ただ、まあ、俺は世紀の大悪党だし、またそうあるべきと考えている。お前が俺に対してどういった感情を抱こうとそれは変わらない」


 空を飛んでいる最中にこんな会話が交わされたものだが、詩織は終始複雑そうな顔で俺を見つめるばかりだった。



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