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014:闇ギルド③


 鬼道六席のバガリ。

 何やら格好良い肩書き持ったヤツが出てきたぞと俺は興味津々だった。

 六席というからには6人くらい居るのだろうが、一体どういった集まりなのか。

 可能なら吐かせたいと考える。

 でも、そんな余裕あるかな? とは手合いの体躯より発せられる闘気を見て感じた事だった。


「チェェェェ!!」


 巨体が突っ込んできた。

 案外に素早く無駄の無い動きだ。

 恐らくは瞬歩で移動しているのだろうが、瞬き一つするより早く奴の拳が俺を射程圏に捉えた。


 ゴッ!


 放たれたのは正拳突き。

 だが俺だって簡単には当たってやらない。

 体幹をズラして攻撃をやり過ごす。

 反撃にとローキックを放つ。


 ガシィ!


 上から叩き降ろす格好の下段蹴りがバガリの脛を直撃する。

 だがビクともしない。

 躱せなかったのではない。必要が無いから躱さなかったのだと感じた。

 相当に鍛え込んでいるな。

 流石は肩書き持ちだ。なんて上から目線で感心してみたり。


「オラオラオラァ!!!」


 それから奴のラッシュが始まった。

 殴って殴って蹴って殴って回し蹴り。

 こちらとしては防戦一方。

 体格差に加えて手数が多いともなると攻撃をねじ込む隙間が見つからない。


(やっぱ体格は重要だよなぁ)


 などと危機感の欠片も無い感想を抱いた。


「小僧! さっきまでの威勢はどうした?」


 大声で怒鳴るバガリ。

 そんなに言うなら、ちょっと反撃しちゃおうかな。

 顔面めがけて放たれた拳。僅かに腰を落とし前に出る。

 顔のすぐ横を掠めた拳の手首に下から指一本を少しだけ浮かせて握り込んだ拳で突き上げる。


 ズンッ、と指に手応えを感じた。


「ぬぅ?!」


 跳ね上げられた拳。ガラ空きになった懐。

 そこへ体全部をねじ込んだ俺。


「そこだぁ!」


 ――氣術、虎砲こほう


 ボグンッ!


 敵の土手っ腹に押し当てた拳。

 そこから放たれる数百トンもの衝撃。

 奴の胴体に風穴が空いた、筈だった。


「くっくっく……」


「へえ、これを躱すかよ」


 奴の姿は二メートル以上も離れた位置にあった。

 真後ろに飛んで勢いを殺したのだろう。

 所見である筈の戦輪斬を見ても驚かなかったし、虎砲にも対応して見せた。

 やはりコイツ……。


「アンタも氣術の使い手かい?」


「そういう事だ。――もっとも、鬼道は氣術を更に進化させた悪鬼の技だがな」


 バガリが誇らしげに曰う。

 だが次の瞬間に男は目を見開き血を吐くとガクリと床に片膝を落とす。


「なん……だと……?」


「俺の虎砲は躱せない」


 床のそこかしこにゴロツキどもの死骸が転がっている中で、男は穿たれた腹を手で押さえながらも立ち上がる。

 例え後ろに飛んで衝撃を逃がそうとしても、幾ばくかはダメージが通る。

 何故って、虎砲は拳を氣でコーティングしているから。技を発動させている瞬間は見た目より僅かだけリーチが伸びている。

 なので目で動きを追ってタイミングを合わせると致命傷には至らなくとも攻撃を逃がしきれないのだ。


 俺はと言えば嘲笑うように唇を歪めると腰を落とし構えを執った。


「氣術を進化させた技、か。大した自信だな。ならば拝ませてやろう。氣術の深淵を」


 お返しに格好良いっぽい台詞なんぞを吐いてみる。

 すると大男は「クッ!」と悔しそうな顔になって、それから自身も構えた。


「でかい口を叩きやがって! ぶっ殺してやる!!」


 激昂して怒鳴る大男。

 しかし動きにブレが無い。怒っているのは演技でその実は冷静にこちらの動きを分析しているものと思われた。

 そして奴が動く。


「死にさらせぇ!」


 ――鬼道、蛇甲暗拳殺じゃこうあんけんさつ


 奴が拳を振り抜く。

 だが踏み込みの歩幅が小さく、半歩ぶん距離が遠い。

 何をする気かとみていると奴の腕が急に伸びた。


「っ?!」


 伸びた腕の先で拳は解かれ、指三本の爪がまるで獲物に食らいつく蛇のように腕に食い込んでいる。


「くっくっく! 蛇の牙には猛毒がある! 貴様はもう終わりだ!!」


 ニヤリと笑んだ男。

 しかし奴にこれ以上格好良い台詞を吐かせてなるものかと俺も笑んで見せる。


「それがどうかしたのか? ――ふんっ!」


 すると奴の指が弾き返され、その勢いで真逆に折れ曲がった。


「なにぃぃ?!」


「氣術、玄武陣げんぶじん。肉体を鋼よりも硬くする術だ。毒も魔法も含めてあらゆる攻撃を無効にする」


「なんだその技は……?!」


「そしてもう一つ」


 言いながら踏み込んで奴の懐へと潜り込むと両の掌を腹に押し当てた。


 ――氣術、浮嶽発勁ふがくはっけい


 ボグンッ。


 靴裏を叩き付けられ石床が割れて陥没した。

 奴の体躯が宙に投げ出され、壁際にあった羅漢像に激突。像を破壊してこの後ろに墜落する。


 浮嶽発勁は名称の通り“やまを浮かせる発勁つっかえ”で、本来は相手の勢いを倍加して返すカウンター技なのだ。

 だが密着した体勢であれば相手が動いて無くとも繰り出せる。

 十全に破壊力に転化はできないだろうが、それでも手合いの体力を削ぐという意味では充分だった。


「う……ぐっ……」


 闇ギルドのギルドマスター。本人はそうは名乗っていないが、まず間違いなくそう呼ばわるべき男は、砕けた羅漢像の奥で身を起こし、憤怒の形相もそのままにこちらへと向かってくる。


 俺は大きく息を吸って床を蹴った。

 凄い勢いで迫ってくるのはボロボロになっている体躯。

 そして俺は掌に氣を巡らせると倒れ込む姿勢から手で床を叩いて一気に空中へと跳躍する。

 落下地点を合わせ、奴の頭上から襲い掛かった。


 ――氣術、雷甲らいこう


 バシュウゥ!!


 空中遊泳の途中から急に慣性の法則を無視した軌道で一直線に奴の体躯めがけて突っ込む。

 紫電が舞い、男の体が骨も血も臓腑も、筋肉組織に至るまでがバラバラに割き砕かれ、更に床が大きく陥没した。

 血生臭いよりは焦げ臭い空気が堂内に漂い、ヘコんだ床の真ん中にて蹲る俺がユラリと身を起こす。


 目を向ければ、怯え竦み上がるだけだったゴロツキの生き残り二名が、それぞれに逃げだそうとしていた。


「逃がすかよ」


 言いながら瞬歩で追い掛けていって背後から貫手で心臓を貫き絶命させる。

 これぞ大悪党の所業だとご満悦の俺様は、そのまま踵を返して帰宅しようとしてハッと我に返った。


「ああ、そうだった。俺ってば誘拐された詩織を助け出すために来たんだっけ」


 危うく本来の目的を忘れる所だったぜとお茶目に笑う大悪党とは俺のことさ。



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