012:闇ギルド①
――ゴゴゴゴゴ。
攫われた詩織を追い掛け駆けている間にも天気は悪くなり、その石造りの館に到着した頃ともなると暗雲が垂れ込めていた。
「……くくっ。天が怯えている。今日は絶好の悪行日和だぜ」
つい思った事をそのまま口に出してしまう大悪党。
館は石垣を組んだどちらかと言えば砦だった物を改修して邸宅に仕立て直したかの如き様相で、建物の高さだけを見れば二階建てに思われるがまず間違いなく地下階がある筈だ。というかゲームでの同館はそうだった。
館はアザリアの北東、周囲に民家は見当たらず、また申し訳程度の雑木林に囲まれておりすぐ近くまで来ないと敷地全体から漂う異様な空気には気付けないだろう。
俺はこの館がどこにあるのかゲーム知識では知っていたが現実に同所にあるものか確信が持てなかった。なので詩織を攫わせ、彼女と誘拐犯の氣を追跡してここまで来たワケだが、答え合わせとしてはゲーム上の座標とほぼ同じ場所に闇ギルドの巣窟は建っていた。
「……よし、征くか」
気合いを入れようと独り言ち、そして足を前に出す。
伊織はマリーと共に屋敷に帰っている筈なので、味方は一人も居ない。
そう、つまり出くわした奴は例外なく敵で、ゆえに問答無用でぶち殺したって構わないということだ。
「本日はどのようなご用件で?」
館の玄関口まで辿り着いた所、呼び鈴を鳴らしたわけでもないのに既に執事と思しき人間が立っていた。
筋骨隆々として背丈もある。
男は口元にニヤニヤと笑みを浮かべ、何なら俺をとっ捕まえようと企てているかのような目で、同じ執事服に身を包んでいるといっても12歳につき幼い少年の体である俺を見ている。
「ああ、ちょいと攫われた従業員を返して貰おうと思ってな」
俺は答えた。
正確には“要人警護を依頼した人間の親族”なのだが、この際どっちでも良いだろう。
なぜなら。
――氣術、爆勁掌。
瞬歩にて大男の懐に潜り込むと、間髪入れずに手の平を奴の鳩尾に押し当てる。
拳で殴るでも手刀で切り裂くでもなく、手の平で軽く押しただけ。
それから一瞬遅れて飛んできた丸太のような手をヒラリと躱して男の後ろに立つ
「なにしやがった、クソガキがっ!!」
「通して貰う。会話なんざ必要ないだろう?」
一呼吸置いてから告げた。
「だってお前、もう死んでるんだから」
「アァ?! ――はひっ??」
凄んだ男の腹が妊婦のように膨らんだ。
男の隆々としたボディービルダーのような首根っこが捻れてボコリと膨らみ、次に破裂すると盛大に血飛沫を撒き散らす。
大きくなった腹が着ていた服を突き破って破裂。
微塵切りされたように細切れ状態の腸が床に落ちてへばりつく。
男は首をあさっての方に捻られる格好のまま、冷たい石床の上に崩れ落ちた。
「爆勁掌は相手の体内に撃ち込んだ氣を爆発させる事で体の内部から破壊する技だ。経絡秘孔を突くなんて面倒臭い事はしない」
なんて、誰も居ない玄関口で技の解説なんてしてみる。
勿論そういった知識は設定資料集からの受け売りである。