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7.釣り上げた相手がVIP過ぎるのだが、どうすればいい

 前略。

 わたし、エリザベス=フォージュは、婚約者を妹に寝取られ、激しく評判がアレな王子の婚活パーティーに出席することになり、半ばやけっぱちになってささやかな自分勝手を行っていたところ、まさかの王子様ご本人から求婚されてしまいました。


 ……改めて状況を整理しようとしてみているのだけど、駄目だ、どうしてこうなったのかまるで理解できない。全く現実感がない。あの心地のいい馬車の中で寝落ちしていたなんて方が、よっぽど受け入れやすい。


 なのに何度頬をつねっても叩いてもしっかり痛いし、「よせ、無性に何か攻撃したいなら私にしろ」と顔がどちゃくそいい男にそっと手を取られる。


 貴婦人の特権、卒倒芸を使うなら間違いなく、今です! なのにどうして私の頭も足腰もピンピンしているのか。

 呆然としている間に王子が「うん、気が済んだのであれば良かろう」とか言ってグイグイ手を引っ張っていくのが見えるが、魂の抜けた身体は勝手に後をついていく。


「というわけで、無事私の求婚相手は決まった。その他は帰っていいぞ! ご苦労だったな!」


 なんと、そうして激流に身を任せどうかしていたら、会場の一番目立つ所で宣言されてしまった!


 こういう状況をなんて言えばいいのだろう。追い打ち? 泣きっ面に蜂? 今、どういう顔をすればいいのかしら。笑えばいいと……思えないんですけど!?


 ああ、会場の視線がこちらに釘付けで、皆呆気に取られている。

 それはそう。一応当事者のわたしだって、状況把握ができていないのだもの。


 誰かこの状況を説明してくださらないかしら。いや、だからさっきから自分で状況を振り返ってるのだけど、まるでわからな――。


「殿下ァー! や、やりやがったァーッ!!」

「さすが独断と即決に定評のある、国一番おもしれー男!」

「俺達の期待を一切裏切らねえや!!」


 と、わたしのぐるぐる思考が歓声で打ち切られる。

 はしゃいでいるのは、例の会場内で浮いていた騎士達だった。彼らが王子に仕える方々なのは間違いなかったようだ。

 いやでもまさか、ご本人が同じような格好してあんなラフに現れて、しかも人が肉を貪っている所をガン見だなんて、思わないじゃないっ……!

 そもそもわたし、本当にお肉を食べていただけなのに。


「騒がしいぞ、騎士達! 失礼、ご婦人ご令嬢方、今宵お相手できるのはここまでのようです。あと殿下はこちらにいらっしゃい!」


 次に声を張り上げるは、女騎士様だ。

 すごい、一瞬でワーキャー言っていた男達がスンッと黙り込んだ。やっぱりあの方、騎士団の中でも一段階上位にいらっしゃる感じだ。


 そして弛んだ騎士達を一喝するだけでなく、相手をしていた女性達に挨拶し、殿下へのお声がけまでも手早く済ませる。


 麗人だってぱっとわからなかったら、わたし含めかなりの参加者が、あの人こそ王子様だと思い込んだだろうな。

 何なら突然現れて閉会宣言をした謎の男より、今し方までダンスのお相手をつとめてくださった女騎士に、皆メロメロだもの……。


 そして、王子殿下は涼しい顔で、そんな女騎士が指し示した方に歩いて行く。

 当然のようにわたしも連行される。気分は売られていく子牛だ。


 到着したのは、どうやら控え室らしき場所。殿下に座り心地のいい椅子に案内されてほっと息をつくのと同時に、あ、これは本格的に逃げる機会を失ったと気がつくが、後の祭りだ。ぱっと顔を上げれば、女騎士以外にも数名騎士が入ってきたところで扉が閉じられる。


 見回すと、殿下も椅子に腰掛けていて、またばっちり目が合ってしまった。にこっと笑われる。飛び上がりそうになるのを堪える。

 ああ、血みどろ鬼畜と呼び声の高いいとたけきお方。もうこの辺で許してはいただけないでしょうか。明らかにわたし、場違いだと思うんです。お情けを、お情けを……!


「で、どうなってるんです、殿下。彼女、とても王子妃に指名されてラッキーハッピー! って様子には見えないのですが」

「まあ」

「まあ、じゃありません、まあ、じゃ。……失礼、レディ。わたくしは王太子付き近衛騎士、ランシア=ワイルダーと申します。この人はかなり強引なことがありますから、訳もわからないうちに頷かされたのでは?」

「結婚の予定は聞いたぞ? ないと言っていた。問題あるまい」

「いったん黙ってください、彼女の話が聞けないじゃありませんか」


 口が挟めない……と思っていたら、なんと話の矛先がこっちに来てしまった。そして女騎士様はなんと、ワイルダー家……武闘派名門一族の方であるらしい。道理で勇ましいはずだ。しかし優美さも兼ね備えている所がすごい。


「えっと……わたしは――」

「エリザベス=フォージュ」

「殿下」


 名乗ろうとしたら、楽しそうに横槍を入れられる。そして殿下にすかさずめっ! とでも言うように短く声を上げる女騎士ランシア様。


「フォージュ家と言えば、由緒正しい侯爵家。適齢期の姉妹がおり、片方は婚約者がいたもののもう片方はフリー……という話だったはず」


 続いて部屋の中に控えていた騎士の一人――眼鏡をかけたいかにも頭脳派という見目の方が、私の、というか殿下が代行した名乗りに反応して呟く。

 この方は先ほどの会場では印象に残らなかったけど、また他の方と趣が違う。いかにもインドアな痩せ型で、近衛騎士達の服を着ていなかったら、騎士とは思わなかっただろう。


「ただ……記憶違いかな。婚約者がいた方が、確かエリザベス。招待状を送ったのはメアリーのはずですが――」


 ああ、頭脳派系騎士様が、黙っていてもわたしの素性を明かしていってしまう……。


 事ここに至っては、観念して白状するほかない。


「その通りでございます。わたしはエリザベス=フォージュ……本来このパーティーに来るはずだった妹、メアリー=フォージュの代わりに参りました」


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