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1.最悪な誕生日

「レディ・エリザベス。すまないが、貴女を妻にはできない。なぜなら、僕はわかってしまったんだ……メアこそが、運命の女性なのだと!」

「きゃあ、嬉しい、トム!」

「そういうわけだから、貴女との婚約は破棄ということになるかな。ああでも、代わりにメアと結婚するのだから、問題はないよね」

「そう、あたし達は双子だから、どちらがトムに嫁いでも構わないのだわ。パパとママも、いいって言ってたもの!」


 今、何が起きているんだろう。わたしの頭は真っ白になっていた。呆然と立ち尽くしている間に、勝手に話が進んでいく。


「――ところで、いつまでそこに居座っているつもりなの、姉さま。あたし、今からトムとお食事なの。ここに姉さまの席はないのよ?」

「そうだ、エリザベス。貴女の用事は済んだから、もう帰って大丈夫だよ。僕たちはこれから、メアの誕生日会をするんだ。ああでも、友人として祝ってくれるのかな?」


 それ以上、何ができただろう? わたしは二人に背を向け、華やかな場を後にした。


 レストランから出ると、外には雨が降っている。わたしは雨の中、呆然と立ち尽くした。


 今日はわたしの十八歳の誕生日だ。少し前、幼馴染みで許嫁いいなずけのトマス=クレーマンに高級レストランへ招待された。「大事な話があるから」と。


 彼からこういった高価なサプライズがあるのは珍しかった。いつもなら花やお菓子を贈って、適当な場所で会って、それで終わり。


 だけど今日は、一生に一度しかない誕生日だった。

 成人の年。婚約者の彼と、正式に結婚できるようになる日。

 だから彼もわたしと同じように、特別な日を特別に祝ってくれるつもりなのだとばかり、信じて疑わなかった。


 わざわざ高級レストランをセッティングしてくれるということは、改めてプロポーズしてくれるのか、それとも大人としての付き合いを始めようというロマンティックなお誘いなのか――柄にもなく馬鹿げた夢想する程度には、わたしは浮かれていたし、本当にこの日を楽しみにしていた。


 でも、トマスは双子の妹のメアリーの手を取り、わたしは雨の中に放り出された。

 お気に入りの一張羅だったドレスは、雨と泥を吸って台無しになり、セットしてきた髪もひどい有様だ。たぶん化粧だって言わずもがな。


 ――どうして、こんなことに。

 

 ああだけど、これが現実だ。わたしは世界から望まれていない。トマスだけは違うと思っていたけれど、思い込みだったのだ。


 ――トム(・・)メア(・・)ですって! わたしはずっと、トマス様(・・・・)レディ(・・・)エリザベス(・・・・・)だったのに。

 

 涙は出てこなかった。あまりの自分の間抜けさに、自嘲がこぼれる。

 わたしはみじめに、とぼとぼと家路についた。

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