落ちる夢を見る男
こんな夢はやく終わってくればいいのに。
俺は札束をにぎりしめて、ボロボロのソファーの上でねむりについた。
札束のところどころは、赤い色で染まっている。
落ちる。
落ちていく。
まるで終わりが見えない。
俺は暗闇の中を、とにかく落ちていく。
いいかげん飽き飽きしてきた。
それくらいずっと落ちている。
最初の頃は、怖かった。
落下の終わりにどこかにたたきつけられるのではと思って、絶えずひやひやしていた。
けれど、じきに飽きてきた。
いい加減終わらせてくれよ。
そう思うようになった。
空中じゃ身動きができないんだよ。
どこにも行けない、何もできない。
はやく、終わってくれ。
コンビニから奪った札束をにぎりしめて路地に飛び込む。
背後では、防犯装置がならすけたたましいアラーム音。
パトカーの音が聞こえてきた。
無線に話す警察の声、どたばたとした足音。
けれど残念。
もう遠い。
今日も犯人は、ゆうゆうと野放しだ。
ほんとろくでもない人生だ。
唐突に思った。
会社をリストラされてから人生を転落していく一方。
いずれ社会を困らせるゴミとして、誰かが処理してくれるのだろうか。
そうなればきっと、その日こそあの夢の終わりが見れるはずだ。