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前編

少し長くなったので前編と後編に分けました。

「はぁ~」

 朝から何度目かわからないため息をつきながら校庭をとぼとぼ歩く。


 ついさっき魔法学院の入学式が終わった。

 王都から遠く離れた港町で生まれ育った私は、地方の教会で魔力持ちと認定され、王都にある魔法学院に入ることになった。魔力を持つ者は入学が義務付けられているのだ。



 止まらないため息の理由は2つ。

 学院寮に入ってから親しくなった子達が、みんな別のクラスになってしまったこと。

 入学前の詳細な魔力判定により水と風の複数属性持ちと認定された私は、特別クラスに入ることになってしまったのだ。別に普通クラスでよかったのになぁ。


 そしてもう1つの理由は、海から離れてしまったこと。

 故郷の港町にある商会で貿易の仕事をしていた父は、私が幼い頃に乗っていた船の事故で行方不明になった。母は父と暮らした家を離れることを拒み、私も港町で職を探すつもりだった。

 でも、魔力持ちと認定されてしまい、王都の魔法学院へやってきた。


 魔法学院の学生は国の準職員扱いとなるため、日常生活が支障なく送れるくらいの給金が出る。

 しばらくは母と離れて暮らすことになるけれど、その分負担をかけずに済むし、わずかながら仕送りも出来るかもしれない。

 さらに希望すれば卒業後は国の仕事に就くことも出来る。そうなれば安定収入が確保できて、ずっと苦労してきた母に少しは楽をさせてあげられるはず。

 そう思って王都に来たけれど、海から離れたことによる喪失感が思っていた以上に大きかったのだ。



「あ~あ、これがホームシックってやつなのかなぁ…?」

 またため息をついてからつぶやくと、すぐそばから叱咤する声が聞こえてきた。

『おいおい、しっかりしろよ。ここまで来ちまったものはしょうがねぇだろ』

 声の主は私の腕に抱かれているイワトビペンギンの姿をした聖獣様。


 この国には数は多くはないけれど、聖獣というものが存在する。

 さまざまな動物の姿をしているけれど、人間と意思疎通ができて不思議な力を使うこともある。

 聖獣はパートナーとなる人間を選ぶ。どういう基準かわからないけれど、魔力持ちということだけは判明しているらしい。

 パートナーである人間が生まれた時に現れ、その生涯を閉じるまでともに生きていく。私の聖獣様も私が生まれた時に突然我が家にやってきて、両親がとても驚いたそうだ。


『俺だって海から離れるのはなんか落ち着かねぇんだけどさ、とりあえず敷地内にあるでっかい噴水とやらに行ってみようぜ』

「うん、そうだね」

 言葉遣いは少々荒いけど、生まれた時から一緒にいる聖獣様にいつも励まされてきた。


 案内図を頼りに歩みを進めていくと、やがて目的地である噴水が見えてきた。

 思っていたより広い円形の噴水で、水が上がっているのは中心部だけのようだ。

『すげぇな。ここの水、わずかだが魔力を帯びてる』

 聖獣様が驚きの声をあげる。

「え、そうなの?」

 魔力を帯びた水など聞いたことがない。


『まぁ、どうでもいいけどな。それより泳いでいいか?』

「えっ、泳いでも大丈夫なの?」

『おう!むしろ俺には身体にいいくらいだ。ほら、いいから早く降ろせ』

 ばたばた騒ぐ聖獣様を言われるまま降ろすと、よちよちと歩いて行って噴水に飛び込む。


『ひゃっほぅ!』

 水に入ってからの聖獣様はとにかく速かった。1周があっという間で、円形の噴水を猛スピードで何度もまわる。

 聖獣様も環境の変化でストレスがたまっていたのかもしれない。


 聖獣様がようやくスピードを落とし、プカプカただよって水を楽しむようになった頃。

『おわっ?!』

 突然ヘンな声をあげる聖獣様。

 あわてて噴水に駆け寄ると、聖獣様の隣には見知らぬペンギンが近付いてきていた。

『お前、誰だ?!』

『それはこちらのセリフですわ。私の方が先におりましたのよ』

 人間の言葉を話すと言うことは、見知らぬペンギンも聖獣なのだろう。


「あ、あの、うちの聖獣様が騒がしくしてしまったようで、大変申し訳ありませんでした」

 代わりに私が詫びると、首を横にぶんぶんと振った。

『どうかお気になさらず。少々驚きましたが、ぶつかったりしたわけではありませんから。それよりも貴女もそちらの聖獣も初めて見るお顔ですわね』

 すごいな。うちの聖獣様と違ってとても上品だ。


「はい、今日入学したばかりでして」

『ああ、なるほど。私のパートナーは最高学年になりましたので、かれこれ2年こちらにおりますわ。私は見ての通りアデリーペンギンの姿をしておりますの』

 なるほど。誰か知らないけど先輩の聖獣様なのか。

 うちの聖獣様以外でペンギンの聖獣を見るのは初めてだ。



「おや、ここに人がいるとはめずらしいこともあるものだ」

「わぁ?!」

 私の背後から男子学生が突然現れた。

 気配をまったく感じなかったので、驚いてヘンな声を出してしまった。


「ああ、驚かせてしまって申し訳ない。君は新入生だね?」

「は、はい」

 さらさらの長い銀髪が風で少し揺れている。青い瞳ですごい美形だ。そんな美形が私に微笑むものだから、ビビッて思わず後ずさりしそうになる。


「今年の新入生は聖獣連れが少なくてね、入学式で見かけた時から貴女のことが気になっていたんだが、こんなに早く話す機会があるとは思わなかったな」

「はぁ」

 そうか。どうやら私は少し目立っていたらしい。


「僕はそこにいるアデリーペンギンの聖獣のパートナーで、この魔法学院の最高学年の特別クラスに在籍しているんだ。それから生徒会の副会長もやっていて、今日の入学式の司会進行もしていたんだよ」

 かなり後方の席だった私からはあまり見えていなかったので全然気付かなかった。


「ところで貴女の聖獣さんはイワトビペンギンでいいのかな?」

「はい、そうです」

『おう!兄ちゃん、初めましてだな。よろしくな!』

 うちの聖獣様がフリッパーと呼ばれる鳥でいうところの翼にあたる部分でパシャパシャと水面を叩くと、副会長さんは微笑んだ。


「ずいぶん元気な聖獣さんのようだね。さて、出会ったばかりで申し訳ないが、ちょうどいい機会なので貴女にお願いしたいことがあるんだ」

 何を言われるのかと思い、つい身構えてしまう。


「ごめんごめん、別にヘンなことじゃないよ。自分以外でペンギンの聖獣をパートナーにしている人に初めて会ったので、いろいろ話を聞かせて欲しいんだ」

 私も種類が違うとはいえペンギンの聖獣に会うのは今日が初めてだ。

「話くらいでしたら別にかまいませんよ」

 正直、私も他のペンギンの聖獣にちょっと興味がある。


「貴女は入学したばかりで、まだいろいろと忙しいだろう。少し落ち着いた頃にこちらから改めて連絡するから、その時はどうかよろしく頼む」

 副会長さんの聖獣であるアデリーペンギンが噴水から出てきたので、副会長さんは風魔法を使って一瞬で乾かして抱き上げる。

「では、我々は失礼するよ。ああ、そうだ。貴女の学院での新たな生活が実りあるものになることを祈っているよ」



 入学してからの1週間は、オリエンテーションや授業選択などあわただしく過ぎていった。幸い特別クラスでも何人か友達が出来た。

 そろそろ新入生達も落ち着いてきて、クラブ活動の勧誘も始まり出した頃、なぜか私は生徒会室に呼び出されていた。もちろん聖獣様も一緒で、私の隣にちゃんと椅子が用意されている。


 生徒会役員の皆さんは、顔で選んだのでは?と本気で思うほど美男美女揃いだった。

「よく来てくれたね」

 輝く金髪と深い碧の瞳を持つ見目麗しいこのお方は生徒会長様で、この国の第一王子殿下であらせられる。


「さっそく本題に入るけど、貴女には生徒会のスタッフとして加わってほしいんだ。ほら、副会長と話す機会を作るなら近くにいた方がいいだろう?」

 え、なんでそうなるの?

 副会長さんを見ると、どうやら向こうも戸惑っているようだ。


「あ、あの、私のような者では荷が重過ぎると思うのですが」

「そんなことはないさ。別に難しいことをしてもらうわけじゃないし、ここにいるみんなでちゃんと指導するよ?」

 ううっ、皆さんの微笑がまぶしすぎる。


 でも、ここはいっそ正直に言ってしまった方がいいのかもしれない。

「大変申し訳ないのですが、私はアルバイトを始めようと思っておりまして、時間的にも生徒会のお手伝いをするのは難しいかと」


 この魔法学院では衣食住が保障され、国の準職員扱いなので日常生活に困らないくらいの給金が出る。原則アルバイトは禁止されているけれど、家の事情などで申請して認められれば可能だ。

 給金はできるだけ母への仕送りにまわし、自分の小遣いは自分で稼ごうと考えていたのだ。故郷の港町にいた頃にもいろいろと経験しているので、働くことには慣れている。


「もうアルバイトの申請はしているのかな?」

 私に問いかける生徒会長様。

「いいえ、これからですが」

 生徒会長様はニコッと笑った。

「では、その必要はないよ。私が援助しようじゃないか。貴女のアルバイト分くらいお安い御用さ」

 ずいぶんと軽い調子で話す生徒会長様の言葉にカチンときた。


「お断りしますっ!」

 立ち上がってバンッと机を叩くと、驚きで声も出ない生徒会役員達の顔が視界に入ってきた。

「うちは裕福じゃありませんけど、恵んでもらう気なんてありません!今までだって働いてきたんですから、自分で使う分くらい自分で稼ぎます」


 一番立派な椅子に座ると生徒会長様と、その斜め後ろに控える副会長さんをにらみつける。

「それから申し訳ありませんが、副会長さんと聖獣についてお話しする件についてもお断りさせていただきます!」

 話す約束はしたけれど、こんな生徒会となんか関わりたくない。

 すぐに聖獣様を抱きかかえて扉に向かう。

「失礼します!」



 生徒会室のある棟を出て、聖獣様を小脇に抱えなおして校庭をずんずんと奥へ進む。

『お前なぁ…』

 あきれたような声を出す聖獣様。

「わかってるわよ。馬鹿だって言いたいんでしょ?」


『まぁ、確かにちょっとはそう思うけどさ、でもお前のそういうところ、俺は結構好きだぞ』

 聖獣様をぎゅっと抱きしめた。

「…ありがと、聖獣様」



 そして私達は噴水にたどりついた。

「聖獣様、泳ぎますか?」

『いや、後でいい。今はお前と話そう』

 噴水前のベンチに並んで座る。


『お前って顔は母親似なのに、中身は父親そのまんまなんだよなぁ』

 父は私が幼い頃に海難事故で行方不明になったので顔も覚えていない。だけど私が生まれてすぐにやってきた聖獣様は父のことをよく覚えているのだ。

『曲がったことが大嫌いでさ、相手が上の身分だろうが納得がいかなければくってかかることもよくあった。でも自分の間違いは素直に認めて謝ることもできる奴だったな』

 

「ねぇ。私、さっき何か間違っちゃったかな?」

 聖獣様は私の方に寄ってきてフリッパーを私の背中にあてる。

『正しさなんて1つじゃないし、人によってもまた違うさ。まぁ、もう少し冷静に対応すべきではあったかもな』

「ん、そうだね」

 確かに一瞬で頭に血が上ってしまった。ちょっと反省。


 魔法学院では身分は関係なく誰もが対等ということになっており、家名もイニシャル表記のみとなっている。だが、雰囲気や身なりで貴族か平民かはすぐわかる。生徒会役員のほとんどは貴族だと思う。

「でも、やっぱり援助というのはなんか違うと思う」

 あの人達にとってはわずかなお金かもしれないけど、私にとってはとても大きなものなのだ。何もせずにもらうなんて筋じゃない。


『お前がそう思うのなら、そのまま進めばいいさ。ただ、さっきので生徒会というか貴族と王族を敵にまわしちまったかもな』

 今になって血の気が引いてくる。

「うわぁ、どうしよう…卒業後の就職先が見つからなくなっちゃうかなぁ?」



「そんな心配は無用だよ」

 声がした方を見ると、アデリーペンギンの聖獣様を抱いた副会長さんが歩いてきた。

「教室にも寮にも戻っていないから、ここかな?と思ったら大当たりだったようだね」

 副会長さんがご自分の聖獣様を地面に降ろして私の前に立つ。


「生徒会を代表して貴女にお詫びしたい。先ほどの件、本当に申し訳なかった」

 私に向かって深々と頭を下げる。足元にいる副会長さんの聖獣様まで頭を下げている。


「あ、あの、頭を上げてください!いきなり怒り出した私もよくなかったんですから」

「いや、会長が貴女を軽視していたのはまぎれもない事実だろう。貴女が生徒会室を飛び出して行ってから、会長はかなり落ち込んでいたよ。まわりの役員連中にも責められていたしね」

 役員の人達も責めちゃうんだ。生徒会長ではあるけど、仮にもこの国の王子様だよね?


「生徒会の連中はほとんどが幼い頃からの顔なじみでね。会長が貴女をスタッフに加えようとしたのも、僕に貴女と話す機会を作ってやろうと独断で話を進めていたようだ。うっかり貴女のことをあいつに話してしまったばかりにこんなことになってしまい、とんだ迷惑をかけてしまったな」

「はぁ」

 第一王子殿下をあいつ呼ばわりということは、この人もきっと高い身分の家柄なのだろう。


「そんなわけでスタッフも無理に加わる必要はないよ。ただ、今の役員は貴族ばかりでバランス的に問題があるとは思っていた。そのあたりはこれから改善していくつもりだが、もしよければ貴女も手が空いた時だけでいいから手伝ってくれないだろうか?」

「それくらいなら別にいいですよ」

 別に何が何でも拒否したいってわけじゃないしね。


「聖獣について話す件も、時々こうして話に付き合ってくれる程度でいいんだが、どうか認めてもらえないだろうか?」

 申し訳なさそうな表情の副会長さん。

「まぁ、いいですけど」

 腹が立ったのは生徒会長様であって副会長さんじゃない。一緒にしちゃダメだよね。

「ありがとう」

 副会長さんは微笑んで答えてくれた。


「さて申し訳ないが、もう一度生徒会室に戻ってもらえるかな。みんな貴女に謝りたいそうだ」

 私はあわてて首をぶんぶんと横に振る。

「さっき副会長さんに謝っていただきましたから、もういいですよ!」

「そうはいかないさ。ここで区切りをつけるためにも、どうか謝罪を受け入れてやってほしい」

 そして連れて行かれた生徒会室で、王族である生徒会長様や貴族である役員達に頭を下げられるという心臓によろしくない状況をなんとか乗り越え、私のとんでもない1日は終わった。



 消灯時間になり、ベッドで横になる。

『今日はおつかれさんだったな。久しぶりに子守唄でも歌ってやろうか?』

「いえ、結構です」

 きっぱり断る。


 聖獣様は歌が好きらしく、ご機嫌な時はなにやら即興で歌っているのだが、残念ながら美声ではない上に音感に若干の問題があるようだ。

『ちぇっ。まぁいいや、とっとと寝ようぜ』

「ん、おやすみ…」

 気疲れもあって、あっという間に眠りに落ちていった。



 生徒会長様と副会長さんの口添えもあって私のアルバイト申請は学院に認められ、学院から程近い食堂でウェイトレスを始めた。港町でもやっていたから慣れたものだ。店のまかないが美味しいのもありがたい。寮の食事も悪くないんだけど、ちょっとお上品すぎるんだよねぇ。


 聖獣様は食堂ですっかり人気者となり、休日には聖獣様目当ての親子連れもやってくるようになった。

『あ~、今日もよく働いたぜ』

 ただ店の中を歩きまわってるだけなんだけどね。


「はい、聖獣様にはこれだよね」

『よっ、待ってましたっ!』

 食堂に置かせてもらっている小さな瓶からミントキャンディを取り出し、ポイッと投げるとくちばしで見事にキャッチする。

 ガリガリガリ。

『やっぱり仕事の後のミントキャンディは美味いなぁ』

 舐めずにすぐかんじゃうんだけどね。



「こんにちは」

「あ、いらっしゃいませ!」

 私が上がる時間が近くなると副会長さんが食堂にやってくる。

『おう!今日も時間通りに来たな』


 珈琲を1杯だけ飲んで、私を寮まで送ってくれるのだ。

「寮から近いんですから、別に送ってくださらなくてもいいんですよ。副会長さんだってお忙しいでしょう?」

「いや、忙しくはないよ。必要な単位はもうほとんど取っているからね。それにこうして貴女や聖獣さんと話せるしね」


 そう。話の中心はいつも聖獣様。

 一般的に聖獣はパートナーのわずかな魔力があればいいと言われている。

 でも、うちも副会長さんのところも甘いもの好きであることが判明。うちの聖獣様はミント味が最近のお気に入りで、副会長さんの聖獣様はいちご味がお好きとのこと。それぞれに個性があるらしい。

 歌が好きなのも共通しているが、副会長さんの聖獣様は美声で歌も上手いそうだ。それはちょっとうらやましいかも。


 こうして副会長さんと話しながら歩く時間はとても楽しいし、私を気遣って寮まで送ってくれるのも嬉しいと思う。

 だけど、副会長さんはあくまで聖獣様が目当てなのであって、私はそのおまけに過ぎないのだ。

 副会長さんは間違いなく貴族だろうから、卒業すればきっと私とは縁のない人になる。

 だから勘違いしちゃいけないよね。




「来賓対応のお手伝い、ですか?」

 久しぶりに生徒会室に呼び出された私は、聖獣様とともに生徒会長様の話を聞く。


 第一王子殿下でもある生徒会長様は、初対面の印象こそ最悪だったけど、その後に何度か話す機会があって打ち解けた。かなりずれているところもあるけれど、悪い人ではないようだ。それから副会長さんとは幼馴染でもあるらしい。


「そう。近いうちに西の国の国王陛下が我が国を訪問することになっている。その際にこの学院も見学することになったんだ」

 西の国は長年の友好国で、最大の貿易相手国でもある。

 そして国王陛下は来年退位して王位を譲ることが決まっており、今回の来訪はその挨拶まわりも兼ねている。


「施設見学がメインなんだが、西の国には聖獣がいないので、ぜひ見てみたいとおっしゃっているんだ。王家のドラゴンはすでに見学済だけど、市井に暮らす聖獣もご覧になりたいらしい」

「え、西の国には聖獣がいないんですか?」

 知らなかった。どこの国にもいるってわけじゃなかったんだ。


「うん。代わりに精霊というのがいて、パートナー以外には姿は見えず、声も聞こえないらしい」

 我が国の聖獣は誰にでも見えて普通に会話もできる。

 国が違えばいろいろと違うんだなぁ。


「まぁ、そんなわけで今回は貴女の聖獣を見せてやってほしいんだ。他にも何人か頼んであるから気楽に参加してもらえると助かる」

 なるほど、話は理解できた。

「聖獣様、そういうことだそうですが、よろしいですか?」

 一応お伺いを立ててみると、こくこくとうなずいた。

『おう、別にかまわねぇよ』



 そして来訪日当日。

「あ、いらっしゃったみたいね」

 学生の控え室となっている教職員用の会議室の窓から立派な馬車が到着するのが見えた。

 停まった馬車からゆっくりと立派な白いひげの男性が降りてくる。あの方が西の国の国王陛下なのだろう。

 その後から1人の男性が降りてきたのだが、国王陛下よりも若そうだけど杖をついている。おそらく足が不自由なのだろう。


『お、おい!』

 私に抱かれている聖獣様がめずらしく動揺している。

「どうしたんですか?」

 聖獣様に尋ねてみる。


『ひげのじいさんのそばにいる杖をついた男、あれはお前の父親だ!』


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