錬金術に没頭していたら大国の皇子に連れていかれました
私はリリアンヌ・エルドラド。大国、エルドラドの末姫である。
エルドラド王国。この大陸の四分の一ほどの領土を持ち、神から与えられたギフトである「魔法」を使い発展。経済大国でもある。現国王夫妻は仲睦まじく、第一王子は勇敢にして武に長け、第二王子は知恵に溢れ第一王子をサポート。その下の第一王女は誰にでも優しく、その笑顔で人々を癒し王家の人気を高めている。また、大陸の二分の一ほどの領土を持つ、経済的にも発展した大国である隣国、サンクトゥアーリウム皇国の第一皇子プリームス・サンクトゥアーリウムの婚約者候補としても名高い。
そんな順風満帆の王家。その唯一の汚点。それが私、第二王女リリアンヌである。私は国王とメイドの間に生まれた私生児である。ほんのちょっとの火遊び。一夜だけの関係。しかしその一夜でメイドは身篭り、生まれた私は王家の証であるストロベリーブロンドの髪に輝く深い蒼の瞳を持ってしまっていた。メイドである母と私生児である私は離宮に幽閉。存在自体を隠された。
国王夫妻や兄弟達とは会ったこともない。が、離宮とはいえ豪華な場所で、豪華な衣服と食事を与えられ、使用人達も同情してくれて優しく、その上特に何を求められるわけでもなく殺される気配もない。離宮にも図書室はあり、先生こそいないが勉強もし放題だし遊び放題である。感謝しかない。
メイドである母は元は男爵家の次女である。母が幽閉される際、実家は多額の口止め料を貰って相当潤い、母は感謝されたらしい。元々実家の借金のために働きに出た母は、借金が無くなるどころか貯蓄まで出来たらしい実家の様子に、やはり国王夫妻に感謝しているとのこと。
そんな母は一応貴族の出なので字の読み書きは完璧だ。そして私に教えてくれた。そんな恵まれた環境のおかげで私は一日の半分を遊んで過ごして、もう半分を図書室で勉強して過ごした。
で、結果今年十五歳になった私は母曰く貴族院の卒業生レベルの学力を持つらしい。貴族院とは十五歳になった王族や貴族の通う学校である。卒業は普通十八歳。特に魔法学の錬金術項目が天才レベルらしい。うん、よかった。
さて、そんな私には最近日課がある。それは離宮の裏側で自生している薬草を使ったポーション作成だ。錬金術は得意である。傷を治す普通のポーションも、魔力回復ポーションも、状態異常を治すポーションも、なんでもござれだ。そして無駄に生い茂った薬草は使っても使っても尽きない。うん、離宮はパラダイスだ。
さて、そんな私だがせっかく作ったポーションも使わないので貯まる一方。勿体ない。
というわけで使用人達に「趣味の錬金術で作ったポーションですがよろしければ使ってやってください」と無償で提供した。「余ったら王都のスラム街にも提供してくださいね」ともお願いした。勿体ないからね。使用人達は何故か涙を流して「姫様はなんとお優しい!」と褒めてくれた。そして受け取ってくれた。うんうん、よかった。
ー…
我らのお仕えする姫様はとてもすごいお方である。
姫様はその生まれから離宮にそっと隠されてきた。それを知るのは王家の中でも限られた人間、そして私達離宮の使用人達だけである。
しかし姫様はそんな環境にも負けず、外遊びをして体力を作り、図書室で一人学問を修める。そして自分をこんな環境に追いやった国王陛下に感謝さえされている。心の美しい方だ。そして見た目もとても美しい。天使と称される第一王女殿下すら凌駕するスレンダーな体躯、整ったお顔立ち。私達は姫様にお仕えすることが出来て幸せだ。
そんな中でついに十五歳という若さで貴族院の卒業生レベルまで知識をつけた姫様は、なんと日頃少な過ぎる人数で姫様と母君にお仕えする私達の為にポーションを作ってくれた。その上、趣味で作った物だと言って私達に気遣ってくださった。なんとお優しいことか。
さらに、魔力量が少ない者には魔力回復ポーション、病気の家族がいるものには状態回復ポーションまで授けてくださった。これは上級の錬金術師でも作ることが難しいポーションである。姫様はどれだけの努力で私達を助けてくださったのか。その上私達が必要ではない分はスラム街の貧民に配るよう指示された。姫様はどこまでお優しいのか…。ならば我らも全力でお応えしなければ!
ー…
そんなこんなで十六歳になりました。趣味は相変わらずポーション作りです。使用人達は最近ポーションのおかげか生き生きして疲れ知らずの様子です。さらに魔力量の少なかった使用人達も魔力回復ポーションを飲みながら何度も魔法を使ったことで普通以上の魔力量を持てるようになったとか。よかったよかった。さらには病気の家族がいた使用人達も状態回復ポーションのおかげかみんな元気になったとか。よかったよかった。
それとスラム街の人達は流行病にかかっていたところにポーションと状態回復ポーションを配られて元気になったとか。また、スラム街の人達はこの一年で配られたけど余った私の状態回復ポーションを売却して、さらにポーションと魔力回復ポーションを使って日雇いの仕事を頑張って見事スラム街生活から抜け出したらしい。これからは使用人達に地方のスラム街にポーションを配って貰おう。あ、地方のスラム街の人達も流行病にはかかったけど王都のスラム街の人達の売却した状態回復ポーションを王家が配ってなんとか収束したらしい。王国の危機を救ってしまった。
「姫様!」
「なあに?執事さん」
「申し訳ありません!我らがポーションを王都のスラム街に配っていたことが国王陛下にバレました!姫様がポーションを作ったことが知られてしまったのです!」
「え?…どうしよう…」
悪目立ちはしたくないんだけどな。
「そのことで国王陛下が姫様をお呼びです。本当に申し訳ありません…」
「…大丈夫!なんとかなりますよ!」
ということで国王陛下に謁見した。
「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく。リリアンヌ、ただいま馳せ参じました」
「よいよい。我らは親子ではないか。畏まるな。もっとこっちに寄れ」
言われるがままに近づくと頭を撫でられた。
「お前の母が病弱であったために離宮で療養させ、また幼いお前を母から取り上げるのも可哀想だと思いお前も離宮に送り出したが、立派になって嬉しい限りだ」
成る程そう言う建前か。
「ありがとうございます、国王陛下」
「お父様、だろう?」
「はい、お父様」
「お前は本当に賢い良い子だな。お前の母もお前の状態回復ポーションで病気から回復したようだし、これから正式に側妃として迎えよう。また、側妃の希望で隠していたお前のお披露目もしなくてはな」
都合がいいなぁ。まあ、逆らえないしもういいけど。
「ありがとうございます、お父様」
「よいよい。ああ、ただ、貴族院の件に関してはお前はすでに卒業生レベルの知識を持ち合わせているそうだから行かせない。その分ポーション作りに励め」
それはむしろ嬉しいのでオッケーです!
「ありがとうございます、お父様」
「よいよい。では下がれ」
「失礼致します」
ということで母は正式に側妃になり、私も第二王女として公表された。また、スラム街にポーションを配って救ったことも公表されて、私と母は大々的にお披露目された。結果として私達は救国の王女とその母として受け入れられて人気者になり、王家のイメージもむしろアップした。なお、使用人達は基本的に離宮の頃から仕えてくれていた人達をそのまま引っ張ってきた。流石に人数不足のために新しい使用人も増えたが。また母の実家は側妃の実家として伯爵家に昇格し、領地も増えたらしい。よかったね、お爺ちゃん。会ったこともないけど。
ー…
「え、サンクトゥアーリウムのプリームス皇子が私に会いにきた?」
「はい、姫様。中庭のガゼボでお待ちです」
「えー…なんなんだろう…わかりました。行ってきます」
ー…
天使が舞い降りたかと思った。
ウェーブのかかったストロベリーブロンドの長い髪、深い蒼の瞳。そして華奢な体躯に整った顔立ち。これが救国の王女リリアンヌ…。
「お初にお目にかかります。リリアンヌ・エルドラドと申します」
「あ…ああ。お初にお目にかかる。プリームス・サンクトゥアーリウムだ」
「本日は良い天気ですね。今紅茶と茶菓子をご用意させます」
リリアンヌ王女が言うなり、ガゼボに紅茶と茶菓子が用意された。
「ありがとう」
「いえ。…えっと、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「いや、リリアンヌ王女は離宮で隠されるように育てられたのだろう?それなのに何故使用人達やスラム街の貧民達のためにそこまでできるんだ?今だって、国のためにポーションを量産しているんだろう?ただ、それを聞きたかったんだ」
「ああ…それ、誤解です」
「え?」
「私、単に趣味で錬金術をやっていて、作ったのに使わないのは勿体ないなーと思って配ってもらっただけですよ。今ポーションを作ってるのも趣味です」
なんと優しく慎み深い少女だろう。錬金術なんて努力と才能があって初めて成立するものだ。それを趣味などと…いくらなんでも謙虚過ぎる。しかも、勿体ないなら売ればいいのに無償で提供したのは紛れもない優しさだろうに。ああ、この娘こそが俺の求めていた理想の女性だ。
「リリアンヌ王女」
「はい」
「俺の婚約者になってはいただけないだろうか」
「え?…いえ、あの」
「今まで頑張ってきた分、我が国で思う存分羽を伸ばしてくれ。そうと決まれば父上に願い正式に王家に婚約を申し入れねば」
「え、ちょっと…」
「ではリリアンヌ王女。次に会う時には婚約者同士だ。君を閉じ込めていたようなこんな国からはすぐに迎えに行く」
俺は晴れ晴れとした気持ちで王国から皇国に帰り、父にリリアンヌ王女との正式な婚約を願い出た。すぐに婚約は成立し、俺はそのままリリアンヌを皇国に花嫁修行のためとして連れて帰り、翌年には結婚した。今もラブラブである。
ー…
「いやー、ラッキーだったな」
あの日、一方的に好きでもなんでもない皇子から求婚された挙句、いつのまにか正式に婚約されて母と引き離され皇国に連れて行かれされた私は鬱々としていたが、皇国で賢者の石という魔法の石の錬金術を研究していると聞き飛びついた。錬金術は大好きである。
皇子は何故か「この皇国の未来まで見据えているとは…君と言う娘は本当に…!」と私を抱きしめてきたがセクハラだと思う。やめて欲しい。びっくりして声も出なかったが。離宮でずっと暮らしていたため同世代の男性になれていないのだ。
ということで賢者の石の精製に着手。その間婚約者だからなのか毎日会いに来る皇子を適当にあしらいつつ研究の毎日。でも、そのうち毎日飽きずに私を構い倒す皇子に心惹かれていく自分がいた。今ではお互いを大切に思っている。と思う。これからも私は賢者の石を研究しながら、やがては皇子…プリームスとの子供達に囲まれながら幸せに暮らすんだろうと思う。




