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「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞  応募作品

入道雲の見える窓辺

作者: マガミアキ

※ホラー作品です。

 仕事の都合で、今まで住んでいた賃貸アパートから引っ越すことになった。

 明け渡しの日の正午頃、家財道具もカーテンも運び出し終わったがらんとした部屋で、私はやり残しがないか最後の確認をしていた。

 キッチン付きワンルーム二五平米の部屋だが、こうして何もなくなると随分広く感じる。電気も解約しているので外光があっても部屋は薄暗い。広く感じるのはその所為もあるだろうか。

 南側の窓は一か所、辺りに高い建物はなく、夏の今の時期であれば窓一面に青空と入道雲が見えて、それが好きだった。

 私は窓を開き、身を乗り出しつつ空を仰いだ。遠くを走る車の音、耳を圧する蝉の声。引っ越し先はもう少し都会の地だ。こんな見晴らしは、今後は望めないだろう。少し惜しい気がする。

 そういえば――。

 ふと私は思い出した。たまにこうして身を乗り出して空を眺めていると、どこからか見られているような感覚に不意に襲われることがあった。ここは二階建てアパートの二階部屋。階上から見下ろされることはない。階下から見上げられでもしていたらすぐ気付くだろう。向かいは広い駐車場で、人家はない。当然室内を振り返っても、一人暮らしの部屋に他に人目があるはずもなかった。


 見られている。


 視線を感じた。思わず外を見回す。背後を振り返ってがらんとした室内を見る。当たり前だが、人の気配はない。小さく息を吐いた。結局、この奇妙な感覚の理由は分からず仕舞いだったな。

 そろそろ約束の時間だ。部屋の鍵を管理人に返すことにしよう。私は身体を戻し、窓を閉めた。

 以前は窓枠の横にはカーテンを束ねて止めていた。だから気付かなかったのだろう。

 窓の横の壁に、女の顔があった。

 目を見開き、歯を食いしばっている。薄暗い部屋の中、白目と白い歯が妙に際立って見えた。

 ほとんど厚みを感じないのは、体が半ば壁にめり込んでいるような状態だからだろうか。

 そうか、ここから、ずっと見られていたのか。

 ぐるりと黒目が動いて、こちらを見た。

 不思議と声は出なかった。私は窓に背を向けて部屋を抜け、ドアを閉めると鍵をかけた。外廊下を歩いているうちに、じわじわと腰の辺りに気持ちの悪い汗が出て来るのを感じた。

 がちゃり。

 背後から鍵の回る音がして、私は思わず出口に向かって駆け出した。

なろうラジオ大賞2 応募作品です。

・1,000文字以下

・テーマ:入道雲

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― 新着の感想 ―
[一言]  拝読しました。  好きです。  良いですね。  しっかりと、冷たいものが背筋を這ってきました。  書き手目線で「お、そう来たか」と感じたのはホラーを選ばれたこと。  夏井いつき先生…
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