7話 私の名は…
彼との関係が、【一緒に暮らす人】から【一緒に暮らす恋人】に変化した日。
私は彼におやすみを行ったあと、すぐにベッドに入ることはなかった。
入れなかったのではない、入らないでやらなければならないことができたのだ。
『ある一時をもって、私の暮らしていた世界は止まってしまったんだ。』
初めてあったときの言葉がフラッシュバックする。あとから気になって、彼にそのことをきくと、意識はある、でも動けない。
そんな状況だったらしい。
私が落ち着いたとき、もう一度フィチアートに行き、皆を助けたい。
彼の言葉を聞いて、そして今日、彼を瑠依と呼ぶようになって、…。
私は、絶対にやらねばならない。
止まってしまったフィチアートを動かせるたった一人の人間として、私は動かなくてはならない。彼にはまだ、勇気がなくて言えぬ名を私は持つ。
私のもう一つの名は、加藤美波。
彼を創ったたった一人の人間であり、彼の暮らす世界を、この手で、
動かしていた人間である。
❁✾❁
二年前、私の書いた【フィチアート物語】が完結した。
瑠依さんのように、文字の向こうの世界で暮らす人たちとあったことがなかったからかもしれないし、5年に渡る連載で、最後の文章に、かっこよさを求めてしまったからかもしれない。
フィチアートが止まってしまった原因なんて、考えれば、底をつくものではない。
だが、最有力の方法に願いをかけて、私は二年前、閉じてしまったフィチアート物語の原稿ページを開く。
よかった、パソコンの中には一文字も変わらない文章たちが残っている。
私が、フィチアートを動かして見せる。
まず、完という文字を速攻で消した。
これはまずい、【二人はこの道にたった】で終わるってさ…。
永遠にフィチアートは続くとか一文字もないじゃん。
やばいやばい。
近くにあった原稿用紙にぱぱっと文章をつくる。
私がこのときほど緊張したことはない。
早く、早く、この文章を…。
原稿用紙に作った文をそのまま写すことに成功した私は、物語の最後に完、という文字を入れずにパソコンを閉じる。
どうか、動きますように。
そう願うと共に私の意識はそこで途切れることとなる。
❁フィチアート物語❁ 最終章
二人はこの道に立った。
フィチアートという国の平和を祈って。
祈りが届いたのかもしれない。
フィチアートという国は、平和に、永遠に、続いたという。
これはフィチアート物語。
この物語は、フィチアート歴史の中の一部に過ぎない。
フィチアートは永遠に。
今も、
続く。
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