5話 夏でも一緒 ウィアドル
サイド ウィアドル様
彼女(雫)にニコッと笑顔を送る。この笑顔だったら彼女は照れるかな〜、と考えて毎朝とろけるような笑顔を送っているのであるが…。
「あそこの人イケメン!」
照れたりするのは、照れたりしてほしい本命ではなく、別の人なのである。非常に残念。
やはり彼女にマスクを夏なのにもかかわらずつけさせたのは正解だった。
彼女に向けるあの視線…。ああ女とは恐ろしい。嫉妬や、色々な感情が入り混じって…。簡単に言うと視線が汚い。
あんな視線を彼女に向けるなんて…。
許すわけがない。
彼女は美人だからな。きっとこのこと意外にも嫉妬の目線を向けられているのだろう。気づいているのかいないのか、それにしても完全スルーとは…。
その他の人たちが可哀想になるくらいだな。まあ、助けたりはしないが。
彼女が会社に入ったのを確認し、車を発進させ、研究所にむかう。今日の仕事は…と考えながらだとあっという間につくものだ。
今日はこの世界での名前を決めると言われていたな。一応彼女にも話は通してある。
候補は考えてあるのだが…。
ながい間ウィアドルとして生きて来たのだ。あくまでこの世界での名前とわかっているが寂しいものだ。
そして、彼女に外でウィアドル様と呼ばれないのも、少し残念である。
車から降りると上司となった昴さんがとちょうど会い、ともに入り口へと向かう。
「なんて名前にするんだ?」
「雅 瑠依 (みやび るい)にしようかと。」
「そうか、雅、瑠依か、正直何も違和感ないな。」
「そうですか?」
「ああぜんぜんないぞ。そういえば…。」
「何かあるんですか?」
「いや、ただ、雅が生きてた世界?フィチアート?だったかな、ともかくそれを創った人、にはもうあったのか?」
「創った人?ですか。」
「ああ、フィチアートってやつが物語の世界って話聞いたろ。その物語の作者ってことよ。」
「すっかり忘れてましたよ、そんなこと。」
「そうか、恐らくペンネームだが、加藤美波、だったよな?」
「加藤美波って、」
「どうした?」
「加藤美波って、フィチアートでは女神ですよ、創造の女神。」
「おお、女神…」
「はい、お会いできるのならお会いしたいですね。雫さんとの日々があるのは彼女のおかげでもあるので。居場所ってわかるんですか。」
「ああ、わかるんだか…」
「?」
「雅に自分を見つけてほしいと、教えないでほしいと言われていてな。」
「そうなんですか。」
「ああ。」
雅と別れたあと、上司は自分の部署に向かいながらつぶやく。
「早く見つけてやれよ。加藤美波は、ウィアドル推しだ。」
あんな近くにいてなぜ気づかないのか。
妻持ちの何気にダンディ上司は、顔に笑みを浮かべた。