表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The frock shop  作者: たま
4/5

メリダの場合4

気分が高揚しているときは、時間がたつのが早いのかしら。

いつもなら、少し遠い北側の配達も、近く感じられる。

順調に配達を終えながら、北側のファーマーズマーケットまで歩く。

川沿いに、色々なお店が出ているマーケットは、安くても美味しいものが沢山あるのだ。


川沿いのマーケットには、この町一番の大きな橋がある。

そこからが、スタート地点だ。

マーケットは、楽しい。

何を買うでもなくぶらぶら見ていても飽きない。

ガーベラが沢山さしてある花屋があり、手作りの椅子やテーブルが売っている家具屋があり、自分で描いた絵を売っているお店、手作りパン、マフィン、スコーンやクッキー、ソーセージやベーコン、野菜、何でもあり、だ。

微笑ましいことに子供達が小銭稼ぎに自分の家のレモンでレモネードを売っているブースまである。

子供達から「おいしいよ、メリダねえちゃん、どう?配達の疲れがとれるよー」

なんて声をかけられたら、買わずにはいられない。

レモネードのお金を1ギニー払い、口をつける。

レモンの酸味とはちみつの甘みが丁度よく喉を潤す。

ノンビリとマーケットの人の流れを見ながら飲んでいると、川の反対側からくる二人に気が付いた。


シャーロット様、と、ジェームス…?


見間違うことはない。

あの身長、あの髪の毛の色、あの体系。

なぜ二人でマーケットに…


思わずコップを握りしめる。


偶然ね、と声をかけるのは、簡単だ。

だが、足が動かない。

喉を潤したばかりのはずなのに、口の中がカラカラになった気分だ。


遠目からでもシャーロットがおしゃれをしてるであろうことが分かる。

それに反して自分は。

自分の洋服を見る。

いつもの配達に行くときのオレンジ色のスカートに白いシャツ

そして、エプロン。茶色い大きな配達バッグ。

頭には大きな麦わら帽子。


以前友人が、恋人が他の女と歩いてた、浮気かもしれない、と悩んでいた話を聞いたとき、

なぜ、見かけたなら声をかけて確かめなかったの?と疑問に思っていた。

でも。

今なら、メリダでも簡単にわかる。

声をかけれなかった理由が。

声をかけれる、とかかけれない、という話ではないのだ、ということを。

メリダは急いで飲み干すと、子供達にコップを返した。

「おいしかったわ、ありがとう」

ニッコリと笑ったが、笑えてるのか自信がなかった。

足早にブースを去る。

この場から、一刻も早く立ち去らなければ。

メリダの頭には、それ以外思い浮かばなかった。


マーケットの端にきてから、自分がクッキーを買ってなかったことに気が付いた。

「あ…クッキー…」

恐る恐るマーケットを振り返る。

振り返ったら、仲睦まじそうに歩くシャーロットとジェームスがいそうで怖かったのだ。

いないことに、ホッとして踵を返す。

急いで目当ての店に向かい、クッキーを購入し、ほぼ小走りでマーケットを抜けた。

走りながら、クッキーが入ってる紙袋がガサガサ揺れた。


ハァハァと息が切れる。

自分は、と思う。

ジェームスに会える、と聞いて浮かれていた。

その話の内容なんて、何も考えていなかった。

もしかしたら、ジェームスに会って話される内容が、シャーロットと結婚する、という話かもしれない、と気が付いたのだ。

胃の腑がキュッと縮まった気がした。

思い出したくなくても、頭の中でこだまする。


「 私、ジェームス様の幸せを一番に祈っておりますのよ 」


そう言って微笑んだシャーロットは女の自分が見ても、惚れ惚れするほど綺麗な笑顔だった。

伊達に町一番の美女とは言われていない。

彼女が本気で綺麗にしたのなら、領主の娘のジェシカ様ですら霞むだろう。


唇を噛みしめる。

先ほどまでの小走りとは変わり、足取りが遅くなる。

「何、やっているんだろう、私。」

誰に言うでもなく、呟いた。

呟きは空に消える。

200ルピアという大金を払ってドレスを買おうとしている。

馬鹿みたいだ。

だって、もう、ジェームスは私と一緒にいてくれないかもしれないのに。


やっぱり身分不相応な装いは、私には釣り合わないってことかな。

先ほどチラリとみたシャーロットの格好。

自分の実用第一で日焼け防止が主な役割である麦わら帽子と、

シャーロットのつけていた着飾ることをメインとしたドールハット。

同じ帽子であるのに、この違いだ。

今まで気にしていなかったことなのに。

メリダは立ち止まって途方に暮れた。


このまま、行かないで、家に帰ろうかな…

そんな気持ちが湧き出てくる。

一体、自分は何をしようとしているのだろう。

何年もかけて貯めたお金を無駄にしようとしている?

たった1着のワンピースの為に?

でも。

昨日、ドレスを着た時に感じた高揚感。

そしてお似合いですよ、と微笑んでくれたアーロンとアナベルの優しい笑顔。

それを思い出すと、なぜか、胸が暖かくなる。

あの思いがあれば、ジェームスが傍にいなくなっても大丈夫かもしれない。

なんとなくだけど、あのドレスは、私に自信をくれた。


メリダは小さく頭を振って、前を見た。

胸を張り、メリダらしく姿勢を正しく。


そうよ、ね。

どうせ、ジェームスが誰を選ぶにしろ。

あのドレスを買うにしても、買わないにしても。

私が決めればいい。

あのドレスを着て、ジェームスに会うのだ。

それが、別れ話でも、最高に綺麗な自分を見せてやるのだ。

いや、違う。

きっとジェームスは驚いてくれる。

可愛いと、抱きしめてくれる。

そうよ。

なに、自分で自分を不幸にしてるの、メリダ。

不幸になるのは、ジェームスがシャーロットと一緒になる、と聞いてからで十分じゃない。

そうよ、私は、私の意思であのドレスが欲しい。

それは、ジェームスやシャーロットとは関係ない。

「よし!」

パンパン、と自分の頬を叩く。

拳を握りしめ、メリダはお店に向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ