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ある戦記

何度でも挑めばいい -1-


 今、一つの命が尽きた。



 ある山の頂上で、剣撃の飛び交う音だけが静寂を割き、その際に生じた閃光が闇を凪いだ。戦っているのは二人の男、並々ならぬ雰囲気を伴って、お互いがその命を奪わんとしているのが分かる。

 だが、勝負にはいずれその瞬間が訪れるものだ。剣撃の音は止み、どちらかが、口から血のあぶくを吹き出す音がした。


 戦いは熾烈をきわめたがゆえ、その山肌を日光が這う。そう、夜が明けようとしていた。やがてそれは、うすらと彼らの輪郭を現世に写し取った。

 一人の男が、もう一人の男の腹部に身の丈の半分ほどの尺がある、片手剣を突き刺している。その剣の刃は、激しい攻防によるものなのか、ところどころに刃こぼれが見られた。

その刃こぼれの隙間には、どす黒い血が入り込んでいる。その先端からは、いまだポタポタともう一人の男の命の液の吐き出されたものを、伝わせていた。

「終わりだな、****。お前の悪夢は、ここで終わりだ」

 血のあぶくを吐きながらもう一人の男は、静かに笑った。

「そう、みたいだな……」

 男が剣を引き抜くと、刺されていた男は膝を着いた。ここに、勝負は決した。

「また、何度でも挑むがいいさ……お前がまた、この悪夢の中に囚われることがあればな。この、ディアボロ=ストラヌスはいつでも貴様を待っているよ」

 ディアボロは、そんな日が来ないことを知っている。これまで、殺した転生人(てんせいびと)が再びこの世に姿を現すことはなかった。だが、殺した転生人のその魂が彼らの元いた世界に帰るのか、それともここで尽きるのか、それは誰にも分らぬことだった。

---なればこそ、と。ディアボロは願いを持った。

 どうか、またこの私を楽しませてくれる少年を、この世界に体現せよ、と。

「最初に会ったときの、ビクビクとして女の背中に隠れるような臆病さは消え失せたな。よくぞ、ここまで鍛錬したものだ。敵ながら、感服する」

 ディアボロは、もう助かることのない少年の首を刎ねんとすべく、その首に剣を当てた。

少年は全身を震わしている。

「何か最後に言うことはあるか?聞いてやる」

 ディアボロは少年に優しく声をかけた。少年は全身を震わせながらも、尚も笑っていた。

「そうだな……さっきお前、こう言ったよな……”何度でも挑めばいい”ってさ」

「うむ、そう言ったが……」

 少年は手に持った剣を強く握りなおした。

「じゃあ、そうさせてもらうぜ!」

 少年はディアボロの不意を突いて、手にした剣を振り上げた。


 


何度でも挑めばいい -1- 終

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