表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

岸元栄次十六歳、アルバイト始めます。

 

 栄次君視点、五千字強です。

 

 





「小僧、入社の手続きするから明日の午後、本社に行け」


 俺と両親、ついでに弁護士の松本(まつもと)さんに雇用契約書を確認させた理事長が少し角張った癖がある俺のサインを忌々しげに睨みつけながら命じた。



 ってことで命令通りに訪れた圓城寺(えんじょうじ)グループ本社。制服を普段以上にピッシリと着ている俺は、オフィス街の最奥でコミュニティーバスを降り、圧倒された。そのあまりの、


「……広いな」


 広さに、ゲート付近に地図が書いてあるくらいに広かったんだよ圓城寺グループ本社。で、その地図によれば、高く、頑丈なフェンスに囲まれた、テーマパークほど広い敷地内に円状に並ぶ七つの社屋があるのだと……七つの社屋て、


「ええと、守衛さんに名乗れば理事長が迎えに来てくれるんだっけ」


 これは迷子防止と自ら案内することで紗々蘭(ささら)さんの個人裁量で入った俺を認めてるアピールをし、圓城寺が一枚岩であると知らしめる為なんだって。後ついでに俺の足場固めもするんだそうだ。本音はともかく一応は認めてくれてる……のかな?


 っといけない時間には余裕を持ってきたが呆けてる時間はない……うし、


「こんにちは、お疲れ様です。こちらで働くことになりました。岸元栄次(きしもとえいじ)です」


 言われた通りゲートの近くの小屋につめている守衛さんになるべく胡散臭さを消した笑顔で声をかける。三十代くらいの細身の美形男性、あ、学園の守衛さんとちょっと似ている。うん、当然ながら名札は六崎(むざき)だね。


「…………ああ、あなたが………………少々お待ちを」


 あ、当然ながら俺が紗々蘭さんに選ばれたことを知ってると……うん、敵意まではいかないけどちょっと刺があるね。……うん、予想以上に小舅は多いかも。


「……すぐ来られるのでそのままお待ち下さい」


「はい、ありがとうございます」


 まあ魅力的な女性に選ばれた特権だよね。



 ……ものすごく観察されている。珍獣の気分だよ。


 そんな感じで少々居心地が悪い沈黙に堪えていたら……、


「失礼、岸元栄次殿ですか?」


 ゲートが開く音に続いて色気がダダもれなバリトンが響いた。


「ああ、はい、岸元栄次です」


 声の方向を向くと…………色香あふれるおじ様がいた。


 ってあれ? この人……、


「突然すみません。私、圓城寺司皇(しおう)の兄で、本社の秘書室長をつとめます一戸淳司(いちのへあつし)と申します」


 やっぱり圓城寺一族、そして一戸ってことは……、


今璃(いまり)の父でもあります」


 今璃ちゃんのお父さんですよねー。……あー、よかった今璃ちゃんが理事長の庶子とかじゃなくって……圓城寺関係の情報シャットアウトしてたからその容姿にドキドキしてたんだよね。…………ん、あれ? でもなんで兄なのに……、


「ああ、私は圓城寺とは関係ない家で生まれ育ちましたいわゆる非嫡出子なので」


 ……まだ聞いてはいない疑問に速やかな解答とは、


「ありがとうございます」


 うん、今璃ちゃんのお父さんだ。



「では、まいりましょうか」


「はい、お願いします」


 理事長の代わりに淳司さん──一戸は娘達がいるのでと名前呼び指定──が今日、俺の面倒を見て下さるそうです。…………理事長、二日酔いでダウン中、なんだって…………ザルを通り越して枠なうちの両親と飲んだせいですね。


 で、カラーシャツにダークグレーのストライプのベストとスラックス、臙脂の細めのネクタイ、ノンリム眼鏡が至極お似合いな笑いジワがセクシーな淳司さんの先導でD棟と呼ばれているらしい最奥の社屋に向かっています。……けど、ね、


「……あの、水着でビーチチェアに寝転んでいる方がいるのですが」


「ああ、社員ですのでお気になさらず」


 ………………、


「……あの、今度はスケートボードでトリックを決めている方がいるのですが」


「ああ、社員ですのでお気になさらず」


 ……………………、


「ええと、七輪で、」


「社員ですのでお気になさらず」


 …………………………、


「……あの、どうして皆さん淳司さんを認識した瞬間に敬礼をなさるのですか?」


「……仕様ですのでお気になさらず」


 ……………………圓城寺って……圓城寺って……めちゃくちゃ面白そうなんだけど! 変人の巣窟か!? 俺、美人だけじゃなく変人も、見るの好きなんだよね。


 あ、俺は常識人だよ? 見る専。



「ではこの棟を案内いたしますね」


 手続きをさっさと済ませ、俺はこれから淳司さんと案内という名の顔見せ行脚を行います。圓城寺はフレックスな企業だから日曜日でもそこそこ人がいるんだって。


「まず今いますこの最上階フロア、重役以上のオフィスや私共の秘書室があります。司皇から呼ばれない限り来ることは少ないでしょうね」


 ちなみに俺より上役であり人生の先輩、プラス未来の伯父上である淳司さんが敬語なのは常態が敬語だからだそうです。紗々蘭さんや子供達にも、だそうですからまあ少々の居心地悪さは堪えます。


「では階段を下りますね……ここが総務部ですよ」


 って感じでまばらに働いている方々に挨拶をしつつ下りて行き、俺が利用する機会の多いフロアに到着。


「ここ、五階が食堂、更衣室、シャワールーム、仮眠室、コンビニ等がございますフロアです。会計は先程お渡ししました社員証で行い、給料から引かれるシステムですので買い過ぎにはご注意を」


「ふふ、はい」


 ちなみにその社員証、学園での買い物にも使えるそう、いちいち学生証にチャージするのも面倒だしこれからはこちらを使おうと思う。


「では下りましょう。……ここ四階と目的地である三階はプロジェクトごとに使うオフィスがあるフロアです」


 圓城寺ではプロジェクトごとに人員をつどい、クリアしたら解散っていうシステムで行ってるんだそう。で、人数に合わせた広さのオフィスに移るんだって。


「……着きました。こちらが栄次君がとりあえず所属することになります新規モバイル用OS開発室です」


 ってことでとりあえずな所属先への挨拶です。ここに配属されたのはこの新規モバイル用OS開発は紗々蘭さんが裏責任者だからなのと、


「皆さん。新人さんですよ」


「はじめまして。岸元栄次です。よろしくお願いします」


「うぇ!?」


「……や、はじめましてじゃねぇし」


「……栄次君、圓城寺に来たの?」


 上から櫻庭(さくらば)明石(あかいし)梨絵(りえ)さん。つまり初仕事は知り合いに囲まれた方が良いだろう。と学生バイトが多数所属するこのプロジェクトに、うん、理事長の温情だね。……それはそれができる方なんだね。お舅さんは。


「ほとんどの方はご存知でしょうが、城生院学園の高等部一年、学力特待生の栄次君です。彼はうちのお嬢様が手下として選びましたので出世しますよ。恩を売るなら今です」


 これは初めの部分以外、今日ずっとしてもらっている紹介文。で、それを受けて俺は、


「いえいえ、出世できるかは周囲との兼ね合いがありますし……まあ俺は結構できる奴ですが」


 って返す。謙遜はしないよ? 紗々蘭さんに選ばれた俺ですから。


「……木曜日の呼び出しってそれか」


「そうこれ」


 メインは違ったけどね。


「紗々蘭が? ……あの子けっこう冒険家」


「どういう意味ですか梨絵さん?」


 俺もそう思うけどね。


「…………ええと、ちなみに君、何ができる奴?」


 あ、ほんとにはじめましての人だね。


「なんでもできますよ。……家事以外」


 家事はうん、阿鼻叫喚になるけどそれ以外は、


「あー、ほんとになんでもできますよこいつ。プログラム、ハッキング、翻訳、書類作成、他部署との交渉……お茶くみ以外なんでも任せればなんでも百十点でこなします」


 できるね。うん、さすが明石、俺をわかってる。


「まあなんでもかんでも雑用押し付けたらえげつない報復されて奴隷化しますのでご注意を」


 くくっ、さすが明石、俺をわかってる。


「……なるほど、今璃が問題を起こさせたくなければ明石君と組ませとけ、と、言った理由はこれですか」


 ……あは、さすが今璃ちゃん、先輩達をわかってる。


「……押し付けたな一戸妹」


「頼りにされてるね、明石」


 明石、俺の扱いの上手さは五本の指に入るもんね。



「そういえば梨絵様となんで知り合いなの?」


 親交を深める為に、と、淳司さんのおごりで食堂に来ています。そこでスイーツメニューの充実ぶりにはしゃいでいる俺に引いていた大学部の最高学年の先輩が素朴な疑問をぶつける。年齢的に在学時期がかぶっていない彼はバイト仲間で唯一のはじめましてだ。


「あ、家がお隣りなんです。四年近くの付き合いですね」


 ちなみに俺が帰国子女なことや有名人な両親や兄さんについてはすでに話している。


「あと…………ええと次期様ってどんな方? 選ばれたってことはお会いしたんだろ?」


「ええ、直接勧誘されて……いやあの、なんでそんなにびくびくと?」


 正直に答えようとしたらなんか先輩の怯えた感じが気になった。


「いやだって……次期様っていえばお名前さえ口にしてはいけないお方だし」


 …………?


「え、そうなんですか、淳司さん?」


 俺にとっては普通の女の子だから良くわからないんだけど、


「あー、四歳くらいまで司皇がここに連れて来ていまして……で、会ったことがある古参、特に会う機会が多かった上層部がまあメロメロで」


「メロメロ」


「いわゆる新参イジメみたいな感じで知らない社員にたいして色々と……」


「色々」


 ……つまり、


「紗々蘭さんは役員達のアイドルだから気安く話題にもできないと」


「です」


 なんてやっかいな…………あー、でも乳幼児の紗々蘭さんをか……、


「まあ紗々蘭さんは至高の存在だから仕方がないですね」


 っていうか乳幼児姿見たい、土曜のお宅訪問時、絶対アルバム見せてもらおう。


「…………栄次すらメロメロに……次期様マジ凄い」


「し、至高って」


 だって至高だしね。あ、っていうか、


「もしかして俺の紗々蘭さん呼びって呼び出し案件ですか?」


 でも様付けとか当人にばれたら悲しまれそうだしな……、


「ああ、そうならない為の私の案内&紹介ですよ。……伯父である私が認めてるのだから四の五の言うな、というアピールです」


 なるほどそういう意味でも淳司さんか。


「まあ、それでも色々妬心からしてくるものもいる可能性はありますが……」


「が?」


「社に問題を起こさない程度なら子供じみたいたずらくらいでしょうしね」


 ま、人間感情があるから仕方がないね。……ん? あ、


「あの、もし社に問題を起こすくらいのいたずらをされたら……」


 淳司さんが管理しているここではそんなことは起こらないとは思うけど感情はね。ほら、色々起こすから、


「ああ、きっちり証拠を集めて報告を……報復は、こちらの承認を受けてからでお願いします」


「了解です」


 くくっ、紗々蘭さんのものを傷つける愚物は排除しないとね。



 ってことで俺はバイトを始めた。


 紗々蘭さん肝いりの俺は良くも悪くも注目を集めたが一緒に働く面々はオタク気質の技術屋達だし友人達もいるのでまあ平気。派手な容姿のせいで見られるのは慣れているしね。


 で、一月が経つ頃には周囲を観察する余裕が出た俺は、周囲の状況と、働き始めてすぐに交わしたある年下の友人との会話を合わせて考え……理解した。


「俺、淳司さんの弟子になりたいんですが」


 自分が圓城寺に一番貢献できる道を、


「おや? 君は経営陣になるのでは?」


 メールで面会を求めてすぐに、社屋一階の面談室を抑えてくれた淳司さんは弟よりは柔和な顔に作り物ではない笑顔を浮かべ問い掛ける。


 ……確かに勧誘時に紗々蘭さんから提示された道はそれだけど、


「だって正直それ、俺じゃなきゃダメな役じゃないでしょう?」


 というか本社付きの役持ち、なんてスポットライト下は暗躍が趣味な俺好みではないし、得意分野でもない、相応しい人間がいないならこなすが、


「紗々蘭さんが本格的に働き出すと同時に最高にその役が似合う人が入りますよね? ……婿である俺との兼ね合い、厄介じゃないですか?」


 婿で役持ちならトップじゃないとまずいけど彼女はトップ以外似合わない子だし実家のこともあるし低い扱いはできない、だったら、


「あなたのように役持ちではないのに誰もが一目置く存在。……次期総帥の配偶者以上の適任はいませんよね?」


「まあそうですが……私の役割は、」


「現在の圓城寺にはなくてはならない存在、ですよね?」


 淳司さんの役割はジョーカーだ。オールマイティとババ、その両方で、


「………………ふふ、良いですね君は、やはりさすが紗々蘭と言うべきでしょうか…………そうですね、あの子にも、いえ、あの子だからこそ私のような役の人間が必要でしょうし、それに君以上の適任者はいませんね……良いでしょう、君には私の情報網や子飼いを将来引き継がせる為の教育をしましょう。……ですが」


「ですが?」


 頷かせた。と、思ったんだけど……、


「役は持ってもらいますし経営者教育も続いてもらいます」


「……ええと兼ね合い、は?」


 あの女王様の上に立てるのは俺の女帝ちゃんだけでしょう?


「ふふ、君には新設の実態が謎な役についてもらいましょう」


 …………うわーえげつない、


「……くくっ、なるほど、婿だから、と、思わせるんですね」


 いかにも使えない奴を押し込んだ。と、思うか否か、


「ええ、一番目の荒いふるいになるでしょう?」


 そうですね。力の有無が良くわかる。


「じゃあどちらの噂も流しましょうね」


 無能か切り札、


「いえ、三通りに」


 三……ああ、


「野心家、ですか……正直ファンから総スカンされそうで怖いですねー」


「ふふ、楽しそうに」


 あは、笑顔が止められないんだよね。


「くくっ、いえね。紗々蘭さんの為に正道を歩まなければなんてちょっぴり思ってたんですが」


 うん、ちょっぴり真人間を目指したんだよ? でも、


「やっぱり俺は邪道をうろちょろするのが性に合うんですよね」


 悪巧みと暗躍が趣味なのは生まれ付きの性分だから仕方がないね。


「ふふ、正道以外を歩めないあの子には似合いですね」


 ええ、


「人々を目覚めさせる夜明けの彼女と人々を惑わす黄昏れの俺。……ピッタリですよね?」



 こうして俺は影の参謀への道を進み始める。


 例え闇に堕ちてもすぐに照らし出されるとわかった俺がどんどん深く潜って行くことになったのは、


 ……俺と数人だけの秘密だよ?





  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ