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まだ攻略対象だった彼の放課後。

 

三人称、短編。

 

 





 城生院学園の放課後、高等部校舎、芙蓉館、一年物理教室。先程までこの日最後の授業が行われていたそこで、生徒会に所属する一年生六人は、今までここで授業をし、現在ちょっとした所用で席を外している、物理教師で生徒会顧問の桜花院覚おうかいんさとり先生に、自治会室の鍵を開けてもらう為、先生が帰って来るまでの時間を雑談で潰していました。すると、どういう切っ掛けかはうやむやですが、話題は理想の異性と言うものに推移しました。


「──真面目でしっかりしているように見えて実はうっかりとか、たまらんな」


 そう語るのは桐生元治きりゅうもとはる君、自他共に認める婚約者馬鹿です。


「つまり、優菜ゆうな先輩が理想って事でしょ? 嫁もちは惚気ないでくれる? ただでさえ暑いんだから」


 と、婚約者持ちの惚気をバッサリと切り捨てたのは桃園百合恵ももぞのゆりえさんです。そんな彼女に、


「じゃあ、桃園の理想はどんななんだ?」


 と、気を悪くした様子も無く元治君は尋ねます。色恋沙汰には一切近づかない友人の恋愛観に興味があるのです。


「そこそこ顔が良くて、そこそこ優しくて、そこそこ真面目な人」


 私は平穏な日々を送る! 百合恵さんは胸を張り宣言します。


「うーん、俺はそこそこどころじゃなく顔が良くて、スッゴく優しくて、きちんと真面目な娘が良いなー」


 高い理想を悪びれる様子も無く語るのは岸元光三朗きしもとこうざぶろう君です。そして彼は百合恵さん以上に色恋の気配がない友人に尋ねます。


「ひー君はどんな娘が理想? そんで胸派? 足派?」


 問い掛けられた六崎月史むざきつきひと君は、常通りに簡潔に答えます。


「理想は価値観が同じ娘、胸派か足派かで言えば、首派」


 月史君の言葉に元治君と百合恵さんと英俊(ひでとし)君、光三朗君も頷きます。


「……確かに価値観の違う人間とは友人にはなれても、恋人や伴侶にはしづらいな」


「そうね、食に興味がない人とはいくら他が理想通りでも、付き合えないわ」


「うん、うん、家族と私どっちが大事なの!? とか、聞かれたくもないよねー」


「……え、経験談?」


 と、三者三様に語ります。……百合恵さんと光三朗君の譲れない点が良く分かります。そして後半は全員スルーです。ちなみに光三朗君の発言は彼の上のお兄さんの経験談です。


「じゃあ聞かれる前に言う、世話を焼かれるのが好きで、ありがとうとごめんなさいが言える人、おっとりしてればなお良し」


 妙なこともともに聞かれないように危機管理能力のある十五歳明石(あかいし)英俊君が語ります。長男である彼は、恋人は甘やかしたい派です。


「おー、なんか似合うな」


「うん、見た目も中身もフワフワした子ねー」


「中身がフワフワしてなくてごめんねー」


 生温く見守られる彼が、無意識に浮かべた人への思いに気づくのには数ヶ月かかりました。


「……で? 会話に混ざらず、ずっとゲームをしていたお前の理想は? やっぱり同じゲーマーか? それとも、そんなお前を放っておいてくれる心の広い女性か? どうなんだ、栄次えいじ


 さて、という感じで元治君がずっと我関せずとスマートフォンでゲームをしていた岸元栄次君に問い掛けます。


「……はぁ、別にゲームについてはどうだって良いよ、何言われたってやりたい時にやるし」


 栄次君は面倒そうに応じます。ちなみに彼が今までやっていたゲームは後輩のお手製、栄次君はテストプレイヤーとしてバグとりを手伝っています。


「……と言うか、中二の時に色々やって分かった、……潔癖症には色恋は無理」


 家族以外の粘膜に触るとか、ホントありえない、無理、と、栄次君は続けます。彼は家族と友人以外の人とは手をつなぐことすら苦手にしています。


「……いや、そう言う風に感じる相手と色々あった事に私はヒクけど」


 百合恵さんが尤もなことを言います。彼女のこのキッパリとした性格故に、学園内にファンを多数持つ彼らとの友情は築かれて、守られているのです。


「……まあ、つまり、そんな風に深く接触しても平気、そう思える相手が理想ってことだ」


 ──最低条件は手料理を食べれることかな?


 そんな最低な条件を語る栄次君に元治君は呆れた視線を、百合恵さんは冷たい視線を、英俊君は楽しげな、月史君は興味深そうなそれを、誰よりも片割れの性質を理解している光三朗君は苦笑を向けた時、


「あー、待たせたな、んじゃ行くか〜」


 と、生徒会顧問の物理教師、覚先生が戻って来ました。


 そして六人はそれぞれに異なった表情を浮かべながら教室を出て行きます。






 ──栄次君はまだ知りません、翌日理事長室に呼び出されることを、そこで理想の存在に出会うことも。




 ──彼はまだ知りません、知った時には既に手遅れになっていることを。







 ──まだ知らないのです。




 

 

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