04110450~seek my only~
前半ちょっと毛色が違いますが投稿先を間違ってはいません。
きらびやかなシャンデリアに照らされた豪奢な室内。その最奥の玉座に座っていた凛々しい青年は赤い絨毯をさらに自らの血で紅く染めながら腹部に剣を突き刺した水色髪の少年にもたれる甘ったるい容姿の少女に問い掛けた。
「何故だ、、、何故だ蛍木!?」
と、
「何故と言われましても……だって……これはこういうゲームじゃないですか。ホウバミ曹長さん」
そう言い切ると、蛍木と呼ばれる少女は大袈裟に肩をすくめる。
「あ、あれだけ、あれだけレア装備やアイテムを貢いだのに、、、そんなあっさりと」
「えー、それ私がねだった訳じゃありませんし……助かりましたし感謝もしておりますが……」
「そうだろ!俺達上手くやってたじゃないか!」
「そうですね。城をとった時点までは楽しくやっていました……ですが」
「なんだい!?」
「その後の他プレイヤーへの皆様の態度や、私への度重なるオフ会への誘い、それも個々人での、は、少々失望を禁じ得ないと申しますか……」
「やっ!?それは、、、」
「最近はセクハラ紛いの言葉もありましたし」
「ええと、そのー」
「まあ、それは建前として」
「へ?」
「このゲームを初めた時に思ったんです。弱小ギルド成り上がりと愚王に対する革命、どちらもやりたい楽しそう。と」
「え、」
「なのでアカを二つ作り、あなた方と組むキングメーカー《蛍木》と、革命軍の中核人物達のフレンド《エポックロウ》をプレイしまして」
「「え、」」
蛍木の言葉に今まで我関せずと踊っていた水色の髪の少年が、ぎょっとしたモーションを見せる。そんな彼を気にすることなく、
「どちらも思い通りに進んで……本当に思い通りに進んで……あんまりおもしろくなかった。と、いう結果に」
と、続け、少女──蛍木は再び大袈裟に肩をすくめるモーションを見せる。
「「えー」」
動けないホウバミ曹長の分も水色髪の少年ががっくりのモーションを見せる。
「なので引退します」
「「ハ!?」」
少年が驚愕のモーションを見せる。
「つきましては蛍木とエポックロウのアカウントをこちらのサイトに出品しますので、よろしければご入札を」
「「ハー!?」」
「では皆様方。一年間お世話になりました」
少女アバターが手を振るモーションを行いながらぷつりと消える。そして蛍木さんがログアウトしました。そう画面に表示され、
「ちょ、ちょっと待って!?」
「、、、うわ、ギルド脱退フレンド解除されてるよー」
「こちらも、エポクンリストから消えましたー」
「、、、今別枠で確認した。たしかにアカウント売られてる」
「、、、、、、、、、、」
「「蛍木ー!!」」
男性アバター達の悲痛な叫びが豪華な城を覆った。
「ほんと思い通り過ぎてつまらなかったなー」
モニターの電源を落としながら数時間前に十六歳になったばかりの少年はため息をつく。
「でも一年も暇は潰せたし……ま、いっか」
少年はゴキバキと音を立てストレッチをすると、眼鏡のフレームにかかる、わずかにウェーブがかかった金髪をかきあげ、立ち上がり裏庭に面する窓のダークグレーの遮光カーテンを開く。
「もうすぐ五時か……まだ暗いな」
猫の爪のような月では夜明け前を照らすことなど出来ず、室内の照明を消せばかろうじて周囲がわかるほどで、
「暁、か」
この時間帯が一番好きで一番嫌いな彼は灰色の眼を暗く輝かせる。
「『暁の姫』って何だよ」
それは彼が幼き日にされた『予言』。何時か出会えると言われた運命の相手。
「暁、Dawn、Aurora……『茨姫』?」
少年の口からそんな言葉が漏れたのはのぼりはじめた太陽の光で、窓から見える裏の屋敷と少年の家を隔てる鉄柵に絡まる蔓薔薇が輝いたからか、それとも……、
「あの茨の城に眠り姫が…………居る訳無いな」
彼が切り捨てた『可能性』の呼び声か、
「……一時間だけでも寝た方が良いよね」
そして彼は気付かないまま、明けぬ夜を過ごしていく。
おとぎ話の姫君のような祝福を受けた彼の『唯一』が、
おとぎ話の姫君のようにただ待つことなど嫌だと迎えに来るまでは。
ちょっとした蛇足。
眼鏡の彼がやっていたのは陣取り要素のあるMMORPGです。
サービス開始から三年ぐらい。
…………実は一玻さんが革命軍側にいたりします。