第一回 転生者会談
本編の約半年後のお話。三人称。
後半腐男子と腐女子が盛り上がります。
苦手な方はそっと閉じて下さい。
紫陽花が色とりどりに競い咲く季節の週末、
「来ましたー!」
柔らかなアルトの弾む声が古都の喫茶店の個室に響きます。
「いらっしゃいませ。お久しぶりです。優菜先輩、覚先生……と、ええと」
穏やかな表情で世話になった先輩と顧問教師に挨拶をした少女──綾那さんは、その後ろに居たスーツ姿の、兄妹に負けない長身の美女にどう声をかけようか迷います。彼女は色々とサプライズが続いた一日に出会った、
「あ、生きていた一戸一玻です。妹のことがありますので下の名前で、ふふ、初対面時はあまり話せませんでしたものね」
不思議な枕詞のつく女性です。
ちなみに彼女はその時、
「あー、あの時の妊婦さん」
三人にメニューとお冷やをさし出した陽史君が言うように身重でした。
「はい、春にスポーンと産んで身軽になりました。女の子です」
初産とは思えないほどの安産でした。……ので彼女の旦那さんは第二子計画を練っています。……こっそりと、
「それはおめでとうございます。で、お子さんは?」
そんなことはつゆしらずな綾那さんは心からの祝福を述べます。ですが一玻さんはその彼女の眩しい笑顔を正視出来ません。なぜなら、
「……ああ、はい……旦那さんや父達が見て下さっていますので……と、申しますか……」
「家に居ても授乳以外戦力外って扱い何だよね~」
という感じで、
「うう、家事能力と、育児経験の欠如はいかんともしがたいのですよ……今日みたいに出張の多い仕事ですので助かってはいるのですけれど……」
「けど?」
「このままでは娘に母親として認識されないのでは、と」
一昔前の企業戦士のような状況にあるからです。……まあ、
「……贅沢な悩みですねー」
なのですが。
「お二人共、こちらでの生活にはなれましたか?」
最年長と秘書としての意地できりっと注文をした一玻さんは、やって来たほうじ茶ラテを一口飲むとフニャっとした笑顔で尋ねます。
「はいおかげさまで」
シフォンケーキをパクリと食べて綾那さんが応じます。
「おれの入学と姉さんの転入に合わせて養子にしてもらったからスムーズに行きましたし」
とは一人ランチプレート──トマトハンバーグセットです──を食べている陽史君。彼らは、
「楠になったんだよね~」
数ヶ月前に賑やかな両親が出来ました。そして両親流に、
「はい、私、楠綾那十六歳。桜実城生院学園高等部二年、ヴィオラ専攻です」
「楠陽史十二歳。桜実城生院学園中等部一年、ポピュラーアート専攻です!」
と、茶目っ気たっぷりに自己紹介をし直します。
「うん、いいね~!」
ミルフィーユを器用に食べきった覚さんがパチパチと手を叩き笑います。
「初々しいですねー……これが卒業時には九割方奇人変人に……」
とは抹茶パフェを攻略中の優菜さん。姉弟が通い初めた桜実城生院学園は桜花の城生院以上に自由人の宝庫なのです。……それは、
「卒業生として言いますが、そもそも入学時点で六割奇人変人ですよ?」
自他ともに認めるところです。
「あ、つまり一玻さんは先輩?」
ペロリとランチを平らげた陽史君がメニューを熟読しながら言います。そして良し、パンケーキを注文しようと決意します。
「Yes! なのでなんでも相談して下さいねー……あ、学園の端末あります? コミュニケーションアプリのID交換しましょう?」
すかさず察してベルを鳴らし店員さんを呼んだ一玻さんがオフ用の携帯端末を出し首を傾げ問うと、姉弟はニッコリ笑い端末を取り出し、
「あ、私達とも!」
兄妹もそれに便乗するのです。
「……うん、登録出来ましたね……っていうかこのアプリ便利っすよねー……OS公開時に付きます?」
情報を確認後ついでに資料用にパンケーキの写真を連写しながら陽史君が尋ねます。学園生徒に貸し出し中の端末のコミュニケーションアプリは彼が前世今世含めた中で一番使いやすいものなのです。
「はい、これと名前は変えた『城生院さん』をセットで付けることは決定しました。今は皆さんの意見を元に他に付けるアプリを選定中ですよー。まあ、落ちたのもストアで無料ダウンロード出来るでしょうけど」
ちなみに発売は秋の予定です。
「わー『城生院さん』も……賢いですもんねー」
綾那さんが喜びます。コンシェルジュアプリ『城生院さん』のあなたへのオススメはとてもグッと来るのです。それには、
「姉上が! うちの姉がメインで作ったのですよ!」
一点集中型の天才になった美人が研究中のAIがフルに使われています。……そして、テスター達から絶賛されたコミュニケーションアプリは、
「ちなみにコミュニケーションアプリはうちのお嬢様が作りました!」
万能型の天才美少女が作りました。
「「……………………さすがです」」
と、しか言えませんよね。
「あ、そういえば綾那さんは『A,sコンフリクト』では誰推しでした? 陽史さんがアレクサンドラ様激愛なのは前世からしってましたが」
同僚と彼の実家に行っている主への定時連絡を済ました一玻さんは自らの端末のケースに描かれたアデ×アレに陽史君が興奮しているのを優越感たっぷりに見守りながら、もしかしたら同士かも? と綾那さんに探りを入れます。
「アスリクで、ですか? ……んー、主人公勢ではヴァリ派でしたねー、最愛はルド様ですが」
少女の答えは主人公のライバルキャラ二人、仲間のヴァリエンテと敵方のルドルフ。こ、これは……! と、
「ルド様! イイですよねー! 誇り高く努力家で粘着質で……クッコロな受け……最高! ……って響いてない、ですか」
意気込み語る一玻さんですが綾那さんはキョトンとした表情、同士は……いま、
「…………ま、まさかカトリーヌさん!?」
「へ? はい、カトリーヌです」
「ファンです! アデ×アレの冊子を探していて……そしてアシュ×ルドに……そして立派な腐男子に…………ありがとうございます!」
した。そしてそれは彼女が前世にした布教の賜物。……ですが、
「……それは感謝で良いのか?」
一般には理解され辛い道のりです。
そして、
「いやー、まさか同士とお会いできるとは!」
「はい! まさかカトリーヌさんとお話できるとは!」
「……ううん、あの過疎カプ好きが二人も……まあ、俺は右左どちらでも美味しいけどね~」
「あー、弟神様守備範囲めっさ広いって有名でしたよね……」
「はは、俺が美味しくいただけないのは愛が無い痛いのと……実の姉弟と兄妹、だね~、うん」
「……ああ、おれも姉弟ものはちょっと……やっぱ姉妹いると、ね」
「へ? 私は兄も姉も弟も妹も居た記憶がありますが近親物は平気ですよ? 実際今一番好きな百合は姉妹物ですし」
「……うわー……でもあれ? 俺も姉妹と兄弟ならイケるかも〜」
「ですねー。あれですね。近親物は同性なら禁忌感が減るっていうか」
「あー、遺伝子異常に対する本能的な忌避が無いもんね」
「……ちなみにお二人、岸元兄弟の……」
「お兄ちゃん包容受け」
「お兄ちゃん包容攻め」
「……クッ、やはりどちらも捨て難い!」
「で、双子はリバ」
「それは鉄板っすよ!」
「ですね!」
「っていうか岸元総攻め」
「桐生総受け」
「……あー、1からそれは変わらずあったんすねー」
「いやだってね~。……で、桐生兄弟は」
「「俺様受け」」
「も鉄板だし~」
「ファレコン随一の受けキャラですからねー、生徒会長」
「後、柊耶君も受け側だよね~」
「たまに緑郎さん受けがありましたけどねー」
「あの二人なら緑×柊でしょ?」
「ですよねー」
「……ええと、さすがにCommentは差し控えさせていただきます」
「じゃあ大人組も?」
「は学園長×理事長で!」
「だよね!」
「っていうかうちの司皇スパダリでヤンデレなのに…………周囲に可愛い受けちゃんがいないから」
「あー、側近達……忠犬攻め駄犬攻めエセ平凡攻め……明君もね~」
「……敬語攻めかやんちゃ攻めか」
「理事長……一見スーパー攻め様なのに」
「……可愛い受けちゃんがいないのですよ」
シックな喫茶店の一室はこんなディープな会話と、
「ふふ、綾那さん、彼のアドレスもIDも変わっていませんよ?」
「えっ……いえ、その……」
「ああ、両校の交流会で再会?」
「……いえ、交流会には」
「えー……ま、予期せぬ再会の方が盛り上がりますよね」
「……再会、しますか?」
「しますよ。運命の赤い糸ってありますから」
「赤い糸?」
「なくても……会いに来ますねー。綾那さんが有名になったら」
「そ、そうですか?」
「ふふ、一途な男の子はお嫌い?」
「……す、好き、です……」
こんな甘酸っぱい会話にわかれました。
「っていうかこういう会話があるからBLGLタグなんすか?」
「いえ、陽史君……ええとうちの身内に同性カップルが二組いますので」
「美形女女男男カップルがね~」
「り、リアルBLGL!?」
「です……が、実際付き合ってると萌え辛いという不思議現象が」
「まあ、目には楽しいけど、美形カップルだからね~」
「……そしてさらに去年身内度が増したので萌え辛さ増量しまして」
「え」
「義理の姉兄だもんね~」
「…………え」
「っていう訳でのタグです!」
「……え、えー、く、詳しく!?」
「後で馴れ初めから現状までを書いたメールをしますねー」