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準備と漫画と裏ルール。


 三人称。約一万字、長めです。

 







 体育祭を八日後に控えた休日の城生院学園、その中高共有の食堂とカフェテラスの奥、数席設けられた個室スペースの一つを久しぶりに熱々の料理を、と、訪れた中高生徒会と風紀委員の皆さんが使っています。そこに、作品制作の為に今週末は寮に残った、一応生徒会執行部員な子鞠こまりさんが友人に届けものをしにやって来ました。


「……すみません先輩方、お食事中に……ああ、磨見まみ君、ごめんなさい遅くなって、はい、依頼されたブツ、データと印刷だよ」


「……ブツって言い方やめろ、いかがわしいわ!」


「お騒がせしました~」


「人の話を聞け!」


「そんなことよりぃ、ご一緒したいわぁ」


「え、お邪魔では?」


「「「「無い!」」」」


「はあ、では失礼します」


「あっ、席は私とレイラの間ね……レオン、あずさ、ちょっとズレて」


「……椅子、ご用意しました」


「あっすみませんひとし先輩」


「……前方に美少女三人、両手に花、今日は大安、吉日、星占いと血液型占いで一位!?」


「うむ、後半はともかく、前半は個人関係無いな」


「「最高に眼福だからNo problem!」」


「無駄に発音良いわね、さすが帰国子女」


「先輩達、穂蔓ほづるを無視しないで下さい、泣いちゃいます」


「泣かんわ!」


 皆さんとても楽しそうです。



 さて、キャピキャピと話しながら食事を摂る美少女達とそれを幸せそうに眺めながら昼食を摂る婚約者達、そして彼らを微笑ましげに見つめるこの場には想い人がいない少年達と、どうでも良さそうな彼女も恋する人もいない少年達、個室内はとても賑やかです。


「ふふ、……ああ、それで依頼のブツって?」


 食後の紅茶を飲みながらデザートプレートを女性陣でつつきつつ、安曇あずみさんが尋ねます。弟しかいない彼女は、久しぶりに会った妹分とのランチに夢中で妹分がここに来た理由を尋ねるのをスルッと忘れていました、


「……いや、その言い方はいかがわしいので……ああ、いえ、良いです。あー、体育祭の保護者向けパンフレットに載せるイラストと漫画と生徒会ウェブ用のコラム漫画の原稿っすね」


「え、あれってぇ子鞠さんが書いてたのぉ? てっきりぃ漫研に依頼してたとぉ思ってたわぁ」


 麗羅れいらさんがびっくりします。その完成度からてっきり本職──学生ですが──が描いたものだと思っていたのです。


「は、漫研なら依頼料計上しますから、そもそも漫研にツテ無いですし」


 穂蔓君は残念ながら友人が少ない男の子なのです。


「……凄いわ……子鞠さん将来漫画家になれるわよ!」


 実は漫画原作者の優菜ゆうなさんは興奮しています。


「うむ、優菜がそう言うなら売れっ子になるだろうな」


 婚約者の本質を知る元治もとはる君も頷きます。


「あー、うん、確かにそうだろうけど、元治君の優菜ちゃんへの信頼が俺っち怖いわぁ」


 友人の本質を知らない緑郎ろくろう君は何時もの婚約者馬鹿発言だと思いました。


「ふふ、確かに画家よりも儲かりそうですけどねー、わたしは絵かきになりたいので」


 元ミリオン漫画家に褒められた子鞠さんは、お金も大好きですが大きなキャンバスに向き合うのはもっと好きなお女の子です。


「……大丈夫だ子鞠、俺が儲かる仕事に就くから」


 婚約者を愛おしそうに見ながら柊耶しゅうや君は俺が稼ぐ、と決意を新たにします。そんな彼の将来の夢は専業主夫……著しい矛盾がそこにはあります。


「それよりも、早めに確認した方が良いんじゃ? パンフレットの発注は今日中にしないと間に合わんのだろ?」


 自らを棚に上げ、婚約者馬鹿な後輩を呆れて見ている玲苑れおん君がタイムリミットを思い出させます。彼は概ね沈着冷静です。


「あっ、はい、副委員長、今まず俺から確認します。その後会長方からのOKが出たら、今日中にデータを作って……もらえます、かね?」


 コラム漫画の責任者である穂蔓君がプログラマーコンビに確認をします。彼らが実地研修バイトもある勤労少年だから気を使っているのです。


「ん、ああ、じゃあデータの方を……洋平ようへい、俺が生徒会ウェブの方をやるからそっちを頼めるか?」


「あっ、はい、了解です。ヒデ先輩、じゃあウェブ用のをその間にに会長方が確認ってことにした方が良いっすよね?」


 ですがプログラマーコンビ、英俊ひでとし君と洋平君は二つ返事で了承します。穂蔓君は知りませんが、彼らが働く圓城寺えんじょうじグループは特待生の秋の忙しさを知っているのでノルマは普段よりもかなり少なくなっています。


「ええ、そうね、じゃあ穂蔓君、渡して」


「はい、……ええとこちらですね」


 プログラマーコンビはテキパキと準備し、責任者達はじっくりと内容を確認します。彼らの表情を見るにどうやら何とかなりそうです。


 

 さて、確認待ちで手持ちぶさたな面々の、その内の一人、基本的に庶民な百合恵ゆりえさんが基本的には庶民な子鞠さんにほのかな心配事を尋ねます。


「……ねぇ、子鞠ちゃん、春日井かすがい先輩からお弁当を作ってもらってることとかにやっかみとかは無いの?」


 学園美男子十傑に入ったり入らなかったりする恋人を持つ、特待生……とても不穏です。けれど子鞠さんはあっけらかんと答えます。


「ああ、はい、大丈夫ですよー、わたし『双姫会』の名誉顧問なので」


 そして学内最大級派閥に守られていますから、と、笑います。


「え、『双姫会』って何? 最大級派閥?」


 初耳らしい光三朗こうざぶろう君が尋ねます。


「ふふ、初等部に咲く高嶺の花『聖域たる姫』圓城寺紗々蘭(ささら)ちゃんと『日輪たる姫』桐生元佳きりゅうもとかちゃんの公認ファンクラブです」


「え、あ、そう、なの? ええと、高嶺の花の友人はやっかみの対象になんないの?」


「ふふ、わたしは『双姫会』にもイラストと漫画を寄稿してますので」


 会員証と会報誌には子鞠さんが描いた姫達のイラストがついています。


「あー、『双姫会』は写真NGなんで子鞠先輩のイラストが持てて見れる唯一の品なんですよ」


 姫達の写真はその美貌故に流出したら大変なことになる為、家庭内に留められています。


「うふふふふ、まあ、そもそも『双姫会』は入会資格がものすごく厳しいので、ふふ、美人で有能で聡明で『人を羨む前に自分を磨く』そんな素敵女子達なのですよー」


 それは崇拝の対象の片割れが持つスタンスでもあります。


「ん? 美人? 女子? え、もしかして『双姫会』って男子禁制?」


「正解っす、栄次えいじ先輩、お嬢も元佳様も身内以外の男は皆狼、近寄らせるな、って教育を受けた方々なので」


 二人共軽度の男性不信に陥るほど繰り返し言われています。


「……婚期逃したらどうするんだ元治」


 もう一人は心配無用だと知っている栄次君は友人の妹の将来を心配します。……が、


「ん? 別に構わ無いだろう、家で俺達と優菜が大事にするだけだ」


「ええ、元佳ちゃんの子供を可愛がれ無いのは残念だけど、一生元佳ちゃんと暮らせるのは魅力的よねぇ」


 友人もその婚約者も悪びれることなく未来を語ります。……そんな保護者達を見た近所のお兄さん達は、


「「……あー、俺達は元佳ちゃんの恋を応援しよう、……相手によるけど」」


 条件付きで元佳さんとその未来の旦那さんとの恋愛を応援することにしました。


「ふむ、まあ双子は結構人を見る目があるから良いか」


 そんな友人達に元治君はその条件ならば止めなくても良いか、と、言いました。友人達の本質を見抜く力を尊敬しているからです。その上双子は元佳さんを妹のように可愛がってもいます。


「え、桐生君、妹さんが交際とか結婚しても良いの?」


 そんな元治君を驚いた表情で見る百合恵さん。彼女は彼が妹の恋愛を妨害すると思っていました。


「ん、当たり前だろう桃園ももぞの、俺は常識の範疇内のシスコンだ」


 心外そうな元治君は妹の幸せを何より願う真っ当なシスコンです。


「ひゃひゃ、シスコンは潔く認める、そんな元治ちゃんが俺は好き、ちなみにこの場にいない約一名を含めた『お兄ちゃん』達も常識的なシスコンだから姫さんの恋愛は応援するぜぇ」


 俺達も快く応援するよな、と、幼なじみ達に同意を求めた緑郎君ですが、


「相手による」


「え、僕は普通に邪魔したいけど」


 あっさりと否定されます。


「……お前ら、年長者に合わせろや」


「……ああ、二人もシスコンは否定しないのね」


「「家の妹は世界一可愛いから仕方ないです」」


 幼なじみの恫喝をさらりと流し、百合恵さんの呆れが滲む言葉に全力で首を縦に振る二人、彼らも重症気味のシスコンです。ですがそんな三人に、


「……いや、そもそも妹なのか? 主家の姫が……」


 確認を終えた穂蔓君が根本的な疑問を投げ掛けます。


「「「当人同士が認めているから妹だ」」」


 三人は自信満々です。


「ふふ、恋愛的に見れない年下美少女はもれなく妹で良いんすよー、穂蔓先輩」


 幼なじみ三人を微笑ましそうに眺めながら今璃さんが持論を言います。


「ふーん、その理屈で言うと、俺の場合は一戸いちのへ鴇田ときたが妹になるな……」


「「おー、美少女認定ありがとう穂蔓お兄ちゃん」」


 穂蔓君の無意識の褒め言葉に年下女子達は喜びます。


「んー、ならば私はこの場の皆さんの兄ですねぇ」


「「「「わーい、梓お兄ちゃん大好き」」」」


「……梓ちゃ~ん、何相好を崩しているのぉ?」


 思わず乗っかってしまった梓君を婚約者さんが冷たい目で見ます。


「すみませんレイラ、男四兄弟のさがです、すみません」


 梓君は四人兄弟の三男坊なのです。……姉妹に憧れるのは仕方がないことでしょう。


「……あなた達楽しそうね……ふー、生徒会の確認は済んだわ、レイラもする?」


 ずっと、漫画を楽しむ余裕もなく読んでいた安曇さんがジト目で従兄弟達を睨みます。そして幼なじみに風紀目線での確認を求めます。


「んー、ですがぁ、わたくしよりもぉ先生にぃ確認をお願いしないとぉ」


 ですが麗羅さんは時間が無いことを考え、まずは教員にと提案します。


「あー、外向けですからね、今すぐさとり、先生にデータを送りますので」


「あっ、どうぞ桐生先輩」


「うむ、ありがとう桜庭さくらば


 麗羅さんの提案を受け元治君は足元に置いていた鞄からラップトップを取り出しUSBメモリを差し込み、生徒会顧問へのメールを作成し送ります。



 またも手持ちぶさたになったメンバー、有能な彼らと、有能な新たな体育祭実行委員達の活躍ですでに準備は目処が立っているのです。今日はどうしても今日中に終わらせなければならない仕事をしに来ました。


「ええと、すみません、遅くなりまして、期限が今日までだったことうっかり忘れてまして……もう慌てて描き上げたので……ええと、大丈夫、でしたか?」


 子鞠さんが入稿の遅れを謝ります。彼女は学園祭用や趣味の作品制作に夢中で友人からの依頼を忘れていました。


「ん、見た感じじゃ、内容は問題無かった、……ああ、でもウェブ用の後夜祭のダンスパーティーの暗黙の了解? あれはあってんのかわからん」


 穂蔓君は友人に気にするなと手を振り、内容について自分の知識には無いと述べます。


「あら、あってるわよ? ……ああ、穂蔓君は二年だし、出席しないから……」


 安曇さんが太鼓判を押し、穂蔓君の状況を考え知らないことに納得します。


「はー、っていうか、そもそもこの学園暗黙の了解が多過ぎですよ、ファンクラブとかあるし、その上ダンスパーティー、庶民的には伏魔殿ですよ」


 城生院学園一年生の百合恵さんは軽く愚痴り、学園十年生な友人達がいなかったらどうなってたことか、と身を震わせます。


「本当ですよね、俺も楡晶にれあがいたからなんとかなったけどそんな幸運に恵まれなかった人達も確実にいるので……だから生徒会ウェブのコラム漫画を初めたんです」


 子鞠さんが描き上げたウェブ用漫画、それは学園の暗黙の了解や裏ルール、そして上流階級では当然とされるマナーをわかりやすく解説したものです。中等部からの中途入学者の穂蔓君が細々とした雑用を、特待生の子鞠さん、洋平君、英俊君が制作を、そして学園八年生で経営側でもある楡晶君をアドバイザーとして作り上げています。現在は生徒会ウェブで連載中ですが、年度末にはまとめ、入学して来る一年生達に冊子を配る予定です。


「んー、そういえば百合恵ちゃんは出席するんかい? なかなかにモテてるんよな?」


 今年も『ハニー』さんに断られ出席を見送った緑郎君が出欠を表明していない後輩に尋ねます。


「え、もちろん出ませんよー、彼氏いませんから」


 百合恵さんは考えもしなかったと、目をパチクリとさせます。


「ふーん、そうなると高一六人の内、出るのは元治っちだけかー」


「緑先輩!? 俺まだ『ヒロイン』に申し込んでもいないんですけど!? なんでフラれる前提!?」


 光三朗君は片思い中の彼女を誘う気満々です。ですが……、


「……あー、光三朗先輩、残念なお知らせですが、子鞠先輩がこの裏ルール等を知った時、同席中のゆずりは絶対出ないと、お嬢に明言してます」


 彼女は出ないと主君に宣言しています。……言を翻すことは無いでしょう。


「告白前にフラれた!? ……うう、一応するけど……よし! ヒデちゃん、ヘイ君、後夜祭は侘しい独り者同士盛り上がろう!」


 フラれる前提で誘うことを決めた光三朗君ですが、どんなにフラれても慣れるものではありません。同じ独り者達で慰めあおうと友人達を誘います。けれど……、


「……あー、光三朗、ものすごく申し訳無いんだが俺、バイトも一緒の先輩に一度は出たいから、って頼まれたんだ」


 英俊君は職場(圓城寺)の同僚でもある高校三年生女子に誘われていました。


「……ああ、アミタ先輩か……なるほど、ね」


 同じバイトの栄次君が恥ずかしがり屋のハッカーさんを思い出し、微笑ましそうに笑います。


「ふーん、アミタが……」


 安曇さんもクラスメイトの隠れた思いにニヤリとします。


「くっ、ヒデちゃんお幸せに!」


 光三朗君は友人の幸せを願います。


「……ふ、光先輩、俺は付き合いますよ……」


 洋平君は先輩達の幸せを祈りつつも強がって見せた先輩を慰めます。


「いや、だから一度はって……お前ら人の話聞いてたか?」


 英俊君は勝手に盛り上がる周囲に呆れた視線を送ります、が、彼を除く全員の心は一つ、


(この、鈍感男がっ! 末永くお幸せに!)


 このジレジレな関係は彼女の卒業式に英俊君が告白するまで続きました。



「……ん? 明石ちゃんなんかしたのか~? えらく生温い目で見られてるけど~?」


 微妙な空気が流れるカフェテラスの個室、そこに元治君からのメールを受け取った覚先生がにゅるりとやって来ました。


「ああ、それは……後で説明する。それより内容に不備でもあったのか?」


 不思議そうな覚先生に後で英俊君をネタにすることを目配せで伝え、元治君はイラストと漫画に問題点があったのか? と、聞きます。


「んー、とりあえず~、パンフレットの方は問題無いよ~、入稿しちゃって~、で、不備はウェブ用の方の学園祭の後夜祭ダンスパーティーの、裏ルール、が二つ足りないんだな~」


「……え、わたくしも存じ上げなかった裏ルールさえ記されていましたのに?」


 安曇さんはびっくりします。彼女は裏ルール『高等部三年生時に限り十三歳以下をパートナーにできる』を先程初めて知りました。


「え、マジ~? ……あー、そっか~、そういえばここ五年、一つも使われていないもんね~」


「……? はあ、そうですのぉ? ……ならばぁ、受け継ぐ意味がございますのぉ?」


 使われ無いのであれば明文化しなくても良いのでは? 麗羅さんはそう覚先生に問いますが、


「……んー、どれも残す意味はあると思うんだよね~、まず一つ目『高等部三年生時に』って言うのは政略で結び付いたのに努力して愛を育んだ年の離れたカップルの為に残してあげたい、っていうのは同意してもらえるよね~?」


 ある生徒会長が中等部一年時、最上級生の恋人と踊る為に作った裏ルール、ですがその後使用したのはそういった政略色の強いカップル達でした。この場のメンバーは愛のある婚約をしています。けれど学園の中には家業の為、冷え切った婚約をしている生徒もそれなりの数がいます。ですので彼らは知っています。愛を育めたカップルがどれだけ稀有かを、


「……ええ、それは残すべきですわね」


 皆さんもちろん頷きました。


「ふふ、……まあ、それで次ね~、これは先生の前の生徒会長が就任条件で作ったやつ、『同性カップルの出席を認める』だよ~」


 二番目の裏ルールはそう言う経緯で生まれました。


「……え、あ、はい、……なるほどぉ…………あのぉ、そもそもぉパートナーは異性に限るぅ、とも記されていなかったと思うのですけれどぉ」


 出たいのならば裏ルールは無くても出られるのでは? 麗羅さんは不思議そうです。


「……んー、えっとね~、ルールではオッケーだったんだけどね~、その裏ルールができる前の年かな? 当時の高等部三年生の彼女と彼女の出席を当時の風紀が拒否したんだって~、生徒会長がいれば認めてたんだけど、……まあ、ちょっとごたついてたから……で、『今後のマイノリティの為に生徒会による文書化された許可を』ってことでその学園祭時の生徒会長による公式見解を出した訳~、……ま、家のことを考えてカミングアウトする人達はこれまで出ず、使ったのはその人だけなんだけどね~」


 この裏ルールは作った生徒会長とその一つ下の彼氏の一組だけしか使ってはいないものです。ですが、


「……そうですねぇ、学園内の差別撤廃を目指す風紀としては守って行きたいですわぁ」


 城生院学園風紀委員会はあらゆる差別を許さない人々です。


「ふふ、……よかった~、無くしたらエライ怒られるとこだったよ~、連勝れんしょう先輩はともかくゴロちゃんはえげつないし~……」


「あら、未だにお付き合いが?」


「ん、付き合いっていうかご近所さん? 裏のお宅に住んでるから~」


 覚先生の爆弾発言に一部を除いた面々が固まります。覚先生の家、旧四季邸の春が裏と言う家は……、


「……………………あの、先生の裏のお宅って、あの、理事長の……」


 この学園の理事長の邸宅です。


「ん、……ああ、そっか、えっとね~、その生徒会長の彼氏っていうのが……」


「俺っちの三番目の兄貴何すよー」


 緑郎君は三人の兄と一人の姉、そして『姉嫁』と『兄婿』の七人家族です。



 それから緑郎君の個性的な兄姉──長男重度のコミュ症、長女自由人、その妻世界的ヴァイオリニスト、次男見た目マフィア、その婚約者十一歳下の学園生、三男一見常識人、その夫名家の嫡男、現人気俳優、を面白おかしく説明された面々は、


「あ、ちなみにその義兄ちゃんの妹さん、先代の風紀委員長っすよー」


 と、緑郎君からさらなる補足情報を教えられました。


「……え、……うわー、先代の生徒会アレルギーの原因ってそれか?」


「あー、一部はそうじゃないんすか? まあ大部分は先代会長、腹黒眼鏡婚約者のせいでしょ、レオン先輩」


「……まあ、あの、二人の関係は余人には計り知ることは出来無いものでしたが……」


「……多分、相思相愛でしたわよね」


「先輩はぁ絶対にぃ否定しますけどぉ」


 先代風紀委員長の巻き込まれ人生に年長組は思いをはせます。


「……あの、すみません、この学園の生徒会長って皆さんそんな個性的なんですか?」


 これまで会ったことがある生徒会長は安曇さんと覚先生だけの百合恵さんは顔を引き攣らせます。そして次期生徒会長の友人と現代表の後輩は比較的まともで良かった。と、胸を撫で下ろします。


「んー、十数年前に大規模な改革があって、それを維持発展させる為に能力重視で指名して来たからね~、安曇さんはまともだけど」


 そんな百合恵さんに覚先生は能力主義だとそうなった。と、答えます。


「ふふ、先生、一応名目的には選挙による選出、ですわよ?」


 安曇さんが指名制であるのは内緒ですよね? と、覚先生にウインクします。


「建前はね~」


 ですが覚先生は公然の秘密じゃん。と、笑います。


「……ええと、実際は」


「んー、俺の前までは現理事長、お兄ちゃんが全て選んで……で、安曇さんまでは俺が選んだね~」


「……民主主義では無いのですか?」


 基本的に真面目な百合恵さんには衝撃の事実でした。


「んー、そうしなかったらこの学園、血統主義と拝金主義が蔓延るテンプレフィクション的なお金持ち学校に逆戻りだよ~? それよりマシでしょ?」


 ですが覚先生は学園カーストによるイジメと差別が横行するよりマシだと笑います。


「え、この両リスペクト状態って、そんな最近できたんですか?」


 そんな覚先生の発言に洋平君が余りの今との違いに驚きます。現在の城生院学園は一般入学者は特待生の才能を尊敬し、特待生は一般入学者の品格を尊敬する。そんな良好な関係です。


「アハハ、お兄ちゃんの最愛が特待生だったからね~、で、お兄ちゃんが彼女から『お願い』されたんだよ~、『みんな仲良し、楽しい学校にして』、って」


 彼女は守られていました。けれど守られなかった生徒もいました。……退学者や不登校が数多くいた学園の暗黒時代です。


「で、して、だけど、大学に進学するし仕事もあるからって、とりあえず腹心を生徒会長にしてそれから適当なのを指名したんだ~」


 彼は全力で学園を良くしました。けれど彼がいなくなった後に暗黒時代に逆戻りしては元も子もありません、ですのでまず腹心を後釜に据え、それぞれの学年の実力者と交渉し、今日に到るレールをひきました。


「で、先生もその意志を引き継いだって訳~」


 覚先生はニッコリと続けます。とは言え同じ能力主義でも彼の基準は『どれだけ自分がサボれるか』、でしたが。



「あの、それで先生、最後の裏ルールはどういった内容ですの?」


 ある利益と引き換えに生徒会長を引き受けた安曇さんがかつての上役に確認します。


「ん、それはね~、『教職員の出席を認める』、だよ~、先生が作ったからね~、残して?」


 別れさせられそうだった婚約者達を再び結びつけた覚先生がパチンと音がしそうなウインクとともに命じます。


「え、あ、はい、……ちなみにどういった動機ですの?」


 未だに恩義が捨て切れない安曇さんは頷き、思わず尋ねました。


「んふふ、先生ね~、学生時代一回も出れなかったからね~、彼女と婚約出来たら絶対に出たいと思ったんだ~」


 覚先生は愛しく恋しい彼女を故あってずっと恋人には出来ていないのです。


「……あの、何故出れなかったんですか? ……その彼女さんと」


 チャレンジャーと呼ばれる百合恵さんがさらに突っ込んだことを聞きます。


「んー、彼女とっても恥ずかしがり屋さんだからね~、先生無駄にモテてたし」


 とは言え実は覚先生が彼女にべたぼれであることは公然の秘密だったりしました。そして、彼女に危害を加えようとした生徒は消えて行……いえ、これ以上は止しましょう。


「……ええとぉ、実際にぃ、使われたことはぁ」


 使用例があった方が楽だと麗羅さんが聞きます。


「あるよ~、高等部一年担当の世界史教師のるー先生が結婚する前年に今の奥さんの大学部の准教授と、サプライズプロポーズといっしょに、それから中等部二年の国語のまー先生、彼女も結婚する前年に今の旦那さんと……まあ、大体結婚発表に使われたルールだね~」


 すると覚先生は愛妻家で有名な先生と、元教え子に捕まってしまったことが有名な先生の名前を出します。一例目の使用はルール制定の為に彼がたき付けたりしました。


「まあ! でしたらその二組を実例としてあげて残しましょう……ふふふ、それで先生? 今年のご出席は?」


 素敵情報を得た安曇さんが覚先生にチクリと聞きます。……出席するならば盛り上げて楽しもうという魂胆です。


「んふふ、残念ながら外堀工事中です。……予定では来年だね~」


 ですが覚先生は彼女達には祝ってもらえないと答えます。


「……あの、相思相愛、ですよね?」


 そんなにこやかに語る先生の、発言の不穏さに震えながら穂蔓君が尋ねます。……外堀を埋められて捕獲される彼女さんを心配しているのです。


「うん、付き合ってはいないけど相思相愛」


 そんな生徒達の不安を丸っと無視し覚先生は良い笑顔を浮かべます。……皆さんの不安は募ります。けれど、


「事実ですよー」


 兄には厳しい優菜さんが苦笑しながら安心して下さいと伝え、


「……なるほど、楽しみです!」


 ホッと胸を撫で下ろすのでした。



 その後。



「じゃあ、とりあえず体育祭編はこのままアップ、学園祭編はお聞きした情報を元にこれから加筆していきます」


「……え、もしかして作者は鴇田さん?」


「え、あ、はい、そうです」


「……漫画家になる予定は?」


「え、えっと、ありません」


「……そっか~」

 





 

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