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未来の我が家にお邪魔します。後編

 

 遅くなりました。後編、短めです。

 

 



 【圓城寺(えんじょうじ)邸は豪華で凄いです】



「こちらは数寄屋です。今はお茶のお稽古にしか使ってはおりませんがちゃんとしたお茶席も設けられます」


 だろうね! だって我が家と紗々蘭(ささら)さん&お付きさん達が入っても余裕だもんね!



「こちらは離れです。お友達とのお泊りや、冬の間は掘りごたつでくつろいだりに使っています」


 ……ここ普通の一軒家だよね。普通に五人家族が住めるよね?


「書や日本画、茶器など色々ございますが、何かご覧になりたい物はございますか?」


 キャパオーバーになりそうなので丁重にお断りしました。


 そして今、


「こちらのお庭はイギリス式? ……ああどちらかというとドイツ風ね」


 いっぱいお菓子を作ってある。と言われたので別邸のお庭を腹ごなしの散歩中です。


「はい、別邸は四季邸と同じ、ドイツで学ばれた建築家の方の設計ですのでドイツ風に」


 あー、確かに別邸の外観、家と似てるね。ちなみに我が家は日本に住むまではアパートメント暮らしだったので庭にかなりはしゃぎました。(こう)君なんてガーデニングが趣味になるくらいに、そして裏庭はほぼ家庭菜園化、今は茄子が美味しいです。


「今日はお天気もよろしいのでお庭でお茶にいたしませんか?」


「良いわね……あら可愛らしい東屋」


 ……うん、当然ガゼポもあるよね。



 【胃袋は既に白旗です】



「……お飲みものは紅茶でよろしいですか?」


 ガゼポの中にもうけられたテーブルセットに腰掛けるとたっぷりのスイーツが乗ったティーワゴンを押した(ひとし)がやって来てたずねた。今日の招待のホステスは紗々蘭さんだからその配下が頑張ってるみたいだ。


「ええ、お願いね」


 ワゴンのスイーツを確認した母さんが笑顔で頷く、うん、みずみずしい果物を使った品が何品もあるからここは紅茶だね。


 そしてサーブしてもらったスイーツは……全部絶品!! ……特に、


「紗々蘭さん! 全部美味しいよ。特にエッグタルトと南瓜プリン、凄い好み。歴代一位」


 もちろん感想を伝えました。率直に。……ん、あれ? 紗々蘭さんなんか頬が……、


栄次(えいじ)先輩。それどっちも紗々蘭のお手製ですよー」


「……お口にあってよかったです」


 この日俺は胃袋を掴まれたというよりも支配されました。



 【無茶ブリが過ぎますよお母様】



 美味しく楽しいお茶を終え、別邸を案内してもらいました。


 ……凄かった。教科書に載っているような芸術家の作品が当たり前のように置かれていて、で、その隣に若手作家の作品も同じ扱いで置かれているという……歴史がある家って……凄いよね。


 で、最後に案内してもらったサロンで、お呼ばれの御礼、両親のミニコンサートを開催、ここは良い、そしてヴァイオリンを習っている紗々蘭さんが得意曲を披露──グノーのアベマリア……素晴らしかった!──ここまでは良い……けど、


「栄ちゃんもそこそこピアノ弾けるのよ」


 ……ってお母様が……たしかに弾けるよ? でも……そこそこ。ほんとにそこそこね。子犬のワルツをなんとか弾ける程度のそこそこさね。


「合わせてみたら? ……あ、紗々蘭ちゃんは『鬼ごっこポルカ』は弾ける?」


 とかは……、


「はい、弾けます。楽しい曲ですよね」


 いや、俺も弾けるよ? でも……『鬼ごっこポルカ』とは両親の代表曲。軽やかな二拍子でピアノとヴァイオリンが追いかけっこをする華やかな曲。技術的な難易度はそこまで高くは無いんだけど……、


「初見で合わせるのは、ね……」


 この曲、テンポが一定じゃなく変則的な休符とかがあって息を合わせるのが大変なんだ。ちなみに俺は父さんとぎりぎり合わせられるくらい、他の知り合いのヴァイオリニストとはできなかった。


「あらじゃあ私が……」


 は? お母様?


「俺は良く一緒に弾くぞ?」


 え? 義父殿?


 ……………………、


「……やってみます」


 とは言ったものの、


「……足、引っ張るかも、ゴメンね?」


 年の功で技量自体はなんとかだけど、日々の練習量がね……、


「い、いえ……栄次さんと合わせられるだけで、うれしいです」


 …………………………、


 気合い入れるしか無いね!



 ……どうしよう、紗々蘭さんとアイコンタクトを交わしながら奏でるのは…………スッゴく楽しい!!


 自分の実力を超えた力が出せてるよ。父さんとだってなかなか合わない鬼の交代部分もなめらかで……ああほんとに、


 ──ずっと弾いていたいな。



 【帰宅後即フォトフレームをカートに入れた】



 楽しかった演奏会を終え、俺は週の始めに抱いた欲望を叶えることにした。


「紗々蘭さんのアルバムが見たいです」


 乳幼児時代の婚約者(仮)を愛でる。と、


「……アルバム。お家に帰ればありますがあんまり面白い写真無いですよ?」


 大丈夫。求めているのは面白さじゃないから。


 そう、求めていたのは……、


「「「「「か、可愛いー!!」」」」」


 萌えとか癒しだから!


「紗々蘭さん乳児から紗々蘭さん」


 生まれた時から出来上がった美貌!


「……でも想像してたより薄いわね」


 ああうん、アルバム一冊に約十年間がまとめられてるし、


「ん? それは紗々蘭オンリーのアルバム。香奈子(かなこ)や俺と写ってるのがこれで……」


 ほぼ同じサイズ!?


今璃(いまり)達家のガキらで写ってるのがこれで……」


 倍の厚み!?


「よその……大体桜花院(おうかいん)だがと写ってるのがこれだ」


 ……ほかのと比べると薄めだけどそれでも結構あるね。


「当然映像もあるぞ?」


 …………………………、


「理事長のオススメを時間いっぱいまで見せて下さい!」


 とりあえず今日は、ね。



「……香奈子さんの子守歌で育ったのか……そりゃ音楽の才能が花開くよね」


 シアタールームに場所を移し──……シアタールーム──やっぱりこれからだろ。と見せてもらったのは生まれて間もないっぽい紗々蘭さんが香奈子さんにあやされている映像。


「天使が二人!!」


 ついで見せてもらったのはお揃いの洋服を着て微笑み会う今璃ちゃんと紗々蘭さんの写真。


「……赤ちゃんが増えた」


 二人、紗々蘭さんよりちょっと大きい。


「タクとノブな。クロエはある程度育つまでは母親と暮らしてたから」


 そして……、


「ええと、(あかり)先輩と史と三澤(みさわ)君と……え、緑郎(ろくろう)先輩?」


「緑郎、一桁まで可愛かったんだよなー……」


 今と地続きな容姿の三人と面影はわかる緑郎先輩──この頃はアイドル系美少年。


 で、続いて、


「桜花院兄弟と梅子(うめこ)な」


 桜花院兄弟は変わらないけど……、


「梅子さんになにが!?」


 体型が……、


「大学で家出てる間にほっそくなっちゃったんだよなー……可愛かったのに」


「……梅子ちゃんの努力を認めるべきですよパパ」


 そして育っていく紗々蘭さんとその家族。松太(しょうた)君とクロエさんが増えて……、


「で、初等部入学。……城生院の制服、紗々蘭の為にデザインされたみたいに似合うだろ?」


 ………………はい、っていうか、


「下さい! 紗々蘭さんオンリーの写真焼き増しして下さい」


 代金代わりの労働を後々取り立てると言われましたが当然怯みませんでしたよ?


 そんな取り引きを交わしていたら、


「……あの。一緒の写真、撮りたい、です」


 ……俺の婚約者(仮)可愛すぎじゃない!?


 ってことで家族みんなや個々での紗々蘭さんともツーショットやらを撮りました。


「ちけぇぞコルァ!!」


 怒声を無視して撮ったツーショットは宝物です。



 【死ぬ以外なんでも】



大悟(だいご)。コイツが紗々蘭の婚約者(仮)な」


 夕食の支度を始めた紗々蘭さんにばれないように連れ出された先でどうにも印象に残り辛い凡庸な容姿の青年に引き合わされた。


「で、ガキ。これが俺の『七席』七瀬(ななせ)の大悟。……まあなんだ。ウチの暗部、だな」


「いやだなー、しがない公務員だよー、僕は」


 ……うわー胡散臭い笑顔だ。


「んで、このガキは紗々蘭の為になんでもやる……やるんだよな?」


 んー、


「なんでも、じゃないですね。紗々蘭さんの為には死ねないので」


 まあつまり、


「死ぬ以外なんでもやります」


「……アハ、イイコじゃん。よかったねー」


「……こういうとこがケチつけようがなくてムカつくんだよ」


 こうして俺は大切な相手を守ることを認められた。



 【いつかは肉声で】



 あの後美味しい夕食をご馳走になり──料理長の専門だというイタリアン──直通門から帰宅した俺は自室のパソコンに直行しショッピングをしていた。……すると、


「……九時ちょっと前、本当に規則正しい生活だなぁ」


 電話が鳴る。すぐに通話を押すと、


「こんばんは。さっきぶりですね栄次さん」


 聞くだけで幸せになる声が、


「こんばんは紗々蘭さん。今日はありがとう、ご馳走様」


 何時も通り取り留めのない会話をし、


「……ではお休みなさいませ」


「うん、お休み」


 彼女が今日最後に聞く言葉を告げる。


 いつかは肉声で、


 そう願いながら。





 

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