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11/15

未来の我が家にお邪魔します。中編

 

 栄次君一人称。一万字弱。

 

 





 【友人の呼び名と紗々蘭(ささら)さんの職業】



 現在理事長と我が家の男性陣はリビングでお茶も飲まず、会話中です。


 紗々蘭さんがお茶を入れる間もなく母に暖炉の左隣りのドアから自室に連れて行かれたので、


 もう一方のもてなす立場な理事長は、


「んー、茶の置き場がわからん」


 とのこと、俺みたいに入れられ無い訳では無いらしい。


「あれ? 紗々蘭と奥様は?」


 そこに今璃いまりちゃん達紗々蘭さん付き使用人達が私服──制服は男女共にダークスーツだった──に着替えてやって来た。護衛のお兄さん達と小学生組はいない。


「ああ、紗々蘭と静留しずるは部屋に行った」


 ちなみに理事長は家の家族を全員呼び捨て、両親は理事長を君付け、俺達兄弟は理事長と呼んでいる。


「あー、そうですか、じゃあママ、深子みこちゃん、ゆずり、ボク達も行こう」


 そして、またリビングには女性がいなくなった。


「……お茶を入れます」


 六崎むざきはお茶の置き場がわかるらしく入れて貰えるようだ。うん、助かった。


「他の『七席』さんと護衛さんは?」


 こう君が間を持たす為か尋ねる。


「んー、基本的に護衛の兄さん等はここにはこんよ、後、年少組はアホ二人は謹慎、タクとノブは見張りだな」


 ああ、あの態度はやはりアウトだったか。


「そう言えば、あの一番小さな子、泣いてたけど平気なのかい?」


 父さんは気掛かりだったようだ。


「あー、あれはひとしとあれの兄貴にこっぴどく調教されたから……」


「当然だ、あれの行動は紗々蘭の評価を左右する。私情で客人に挨拶しないなど許され無い」


 ダイニングテーブルとリビングのローテーブルにお茶の準備をしながら六崎が言い切る。おお、さすがリーダー、


「そうだけどなー……あー、ショウタとクロエは紗々蘭が好き過ぎるからよく暴走するんですよ」


 ハニートラップが初めてでは無いらしい。そして何時も通り優美な手捌きで紅茶を入れた六崎が何時も通り唐突に言った、


「……ああ、そうだ……栄次えいじ、これからは俺のことは名前で呼べ」


 と、……ああ、確かに、


「そうだね、六崎さんがいっぱいだったしね」


 住んでるだけで十三人だとか、色々考えた結果、俺も圓城寺えんじょうじ式で史、と呼ぶことにした。



 お茶を飲みつつ、紗々蘭さんと皆さんの関係、プライベートでは史と緑郎ろくろう先輩と(あかり)先輩と風紀の三澤みさわ君は『兄』で今璃ちゃんは『姉』、そしてその他の『七席』が『弟』、とかの話をしていると、


「……ねぇ、司皇しおう君、紗々蘭ちゃんの部屋シンプル過ぎるんだけど」


 女性陣が戻り、挨拶もせずに母さんが深刻な表情で言った。


「ん? シンプル過ぎる?」


「私は問題に思わなかったのですが……紗々蘭の部屋は司皇の知っているままです」


 ほのかさんの言葉に理事長は数瞬考えると直ぐ娘の前にひざまずき、


「紗々蘭? 家具や小物を追加して無いのか?」


 と、聞いた。母さんに負けず深刻そうだ。


「? はい、だって揃ってますし」


 紗々蘭さんは父と未来の姑が深刻な表情になった理由がわからないのか首を傾げ応じる。


「……いや、必要最低限の家具しか置いた覚えが無いのだが」


「? ベッドとソファーセットと棚とライティングデスク。それ以上に何が必要ですか?」


「ええと、紗々蘭、ボクも前から思ってはいたけど、それだけじゃん君の部屋、棚は空だし」


「リネンが全部白なのもあれだわ」


「? だって本は別邸の書庫に置きますし、リネンは白い方が洗ってて達成感がありますから」


「え? 紗々蘭ちゃんが洗濯をしているの?」


「? ええ、この家の物と父と私の部屋着とお寝間着は」


 ……なんか凄い会話をしている。ええと、紗々蘭の部屋は物が無い、そして紗々蘭さんは、


「自室とこの部屋の掃除もしますよ?」


 主婦、でした。


「……司皇君?」


 ちなみに理事長がいる時は朝食も作っているそうだ。



 【紗々蘭さんの問題点と初めてのわがまま】



 理事長は母さんからお説教中です。紗々蘭さんと仄さんは何が問題なのか未だにわからないようだ。


「ええと、紗々蘭さん、その、来て一月ちょっとの私の部屋より物が無いのは……」


 楪さんが真剣に説明している。楪さんはかなりの新参らしい、


「? 問題なのですか?」


 だけど紗々蘭さんは問題点がわからないままだ。


「っていうか気付いた……あー、紗々蘭は自分の為には何も作ら無い」


 ……え? 今璃ちゃん、それ本当?


「あー、そういえば料理も菓子も洋服も全部人の為だわ」


 緑郎先輩もグッタリと呟く。


「? 自分のお寝間着は作ってますよ」


「生地が良い以外の特徴の無いねー」


「……ねぇ、紗々蘭ちゃん、今日のその服は?」


「え? 屋敷のおねえさん方に選らんでもらいました」


 部屋だけで無く服にもこだわりが無いらしい。


「……ねぇ、紗々蘭さんはもしかして自分に興味が無いの?」


 俺は思わず尋ねた。いや、つまりそういうことだろ? 空っぽの部屋、周囲の言う通りの服、は、


「……あ、はい、そうですね。興味は無いです」


 紗々蘭さんの問題点がわかった。


「ええと、大事ではあるよね?」


「? はい、生きるのは楽しいですから」


 ……うん、良かった。でも、自分に興味は無い、


「紗々蘭は欲が無さ過ぎると、思っていたが……」


 理事長は深くうなだれる。そりゃそうだろう、娘が自分に興味が無いとか、俺もショックだ。


「わがままも言わないし……いや、最近言われたな?」


 え、紗々蘭さんとわがまま? ……対極にある言葉だな。


「あ、そういえば最近ものすごく欲しがったものがあったね」


 深子さんも思い当たったようだ……欲しがったもの?


「……初めてのわがままが……欲しがったものが……これとか……」


 理事長に忌ま忌ましそうに睨まれる。ん? どういうこと?


「紗々蘭の初めてのわがままは婚約」


 は?


「あー、ご当主プラス1の反対を押し切り出張中に強行したもんなー」


 え、


「うん、ボク達に集合かけて相談したり」


 ………………、


「半年近く、執拗に調べていまたし」


 結論、紗々蘭さんの最大の問題点は可愛すぎるところ、無欲過ぎるところはおいおい直して行こうと思う。



 【厩の主と麗しの母と息子】



 俺と理事長の精神にダメージを負わせた親子の家訪問。それは深子さんの、


「それより歩きならもう出ないと、料理が冷める」


 発言で終わりを迎えた。そして現在全員で、てくてくと昼食会場の本邸に向かっています。


「あ、そういえば、皆さん馬は平気ですか?」


 すると唐突に紗々蘭さんに聞かれた。ん、馬? そういえばもう直ぐ厩舎だな、だけど何故?


「え、うん、家みんな動物好き」


 兄さんが不思議そうに答える。そう家は動物好き、だが引っ越しが多かった為、飼ったことは無い、ちなみに俺は猫アレルギーの猫派です。


「ああ、良かったです。これから厩から一人引っ張って行かなければならなかったので」


「引っ張って? 少し不穏だね?」


「あー、いや、不穏では無いぞ、イヴァン。ただ厩の主が重度のコミュ障なだけだ」


 ……ええと、


「重度のコミュ障は不穏では?」


「え、じろちゃんはただ人より馬が好きなだけですよ?」


「そのじろさんていったい……」


「家の兄」


「深子の兄……あ、何と無くわかった気が……」


四倉よつくらは下に行くほど対人スキルが増すんだ」


 理事長がため息混じりに説明する。


「あー、大丈夫っすよ、じろ兄は馬と紗々蘭を傷つけられ無い限り無害だから」


 その言葉を受けた対人スキル最高の末っ子が苦笑しつつ補足する。なるほど……、


 どちらも傷つけることなどありえない俺達家族はなら良いか。と頷いた。



 厩舎の前で栗毛の若い男性──この人はじろさんでは無いらしい──と一言二言言葉を交わし、紗々蘭さんは厩舎に入って行く。じろさんは紗々蘭さん()言うことは聞く人、だ、そうだ。


「ああ、放牧中はリンデとフリードだけか」


 無表情で楽しそうな深子さんは、そう言うと放牧場を仲良く駆けている二頭を呼ぶ。すると優美な鹿毛の馬がしずしずと、立派な馬体の青鹿毛の馬が不満そうにやって来た。


「紹介、この美女がリンデ、紗々蘭の愛馬その1、で、偉そうなのがフリード、リンデの息子で紗々蘭の愛馬その2」


 へー、二頭共紗々蘭さんの愛馬なんだ。


「よろしくお願いします。レディリンデ」


 とりあえず目の前の美女に挨拶する。おお、優雅に答えてくれた。


「それから、君も、よろしくフリード」


 そして息子にも挨拶した。うん、予想通り無視だね。何と無く敵意も感じる……くくっ、なるほど、ね、これは、


「よろしくフリード」


 もう一度声をかける。フリードは無視しようとして、俺の笑みを見て止まった。


「よろしくフリード」


 三度声をかけると目の前まで来て頭を下げる。うん、やっぱり動物は賢くて素直だ。小学生ではこうは行かない。


「おお、極上の毛並み」


 イイコになったフリードの顔を撫でる。あまりに触り心地の良い毛並みに思わず声が出る。大事にされてるんだなぁ。


「……フリードが撫でさせてる」


 楽しくフリードを撫でていると、背後からぽつりと声が聞こえた。振り向くと長髪の男性が俺を見ていた。


 その男性はグレーのつなぎ姿、小柄で年齢のわからない顔で──とても綺麗な目をしていた。


「……いや、それもびっくりだが、慈郎じろうがしゃべったことの方が驚きなんだが」


 つなぎの男性──じろさんこと四倉家の兄の慈郎さんは理事長の言葉には反応せずに俺とフリードを交互に見る。


「あれ? 栄次さん、フリードと仲良くなったんですね」


 そんなじろさんの後ろからピョコンと出て来た紗々蘭さんが俺がフリードを撫でて──うん、未だに撫でていた──いるのを見て頬を緩ませる。


「ああ、彼はイイコだね」


 俺はニッコリと応じる。


「よかったです、フリードは人見知りなので」


 紗々蘭さんは安心したようにクスクス笑う。うーん、紗々蘭さんは何時も可愛いなー。


「仲良くっていうか……マウンティング……」


 すると近くにいた厩務員の青年がボソリと言った……ん? 仲良くなったよ?



「わー、最高! 艶やかで無駄の無い馬体! ホント美女だね! レディリンデは!」


「ふふ、フリード君のがっしりとした馬体も良いわぁ」


「他に四頭いるんだよね? 今度で良いから紹介してくれるかい?」


「ふふ、もちろんです父様」


 現在、俺達親子はレディリンデとフリードを堪能しています。じろさんと厩務員の青年──獣医の三澤さん──の着替え待ちです。じろさんには緑郎先輩と理事長が付き添って行った。……本当に理事長のこの家での立場が謎だ。


「……待たせた……行くぞ」


 しばらくしたら、こざっぱりとした格好になったじろさんと彼を両側から挟む弟と厩務員さんを引き連れ少しグッタリとした理事長が戻って来た。ええと、


「お疲れ様です」


 ……苦労性のお兄ちゃん?



 【影のボスと尊敬の在りか】



 現在、二十人以上の大人数で本邸に向かってます。


 向かう道すがらあっ、て感じで職務中の方々がバッと手を止め合流しているからだけど……、


「なんでみんな遅れたらやばい感がハンパないの?」


 光君がキョトンと尋ねる。うん、うん、本当に皆さん必死だ。道具を投げる勢いでしまったり、うわーと言いながらその場で着替えたり──彼は理事長が叱り飛ばした。紗々蘭さん達女の子は平然としていた──えらく焦ってる。


「ああ、それは……料理長怖えぇし……むしろ最強?」


「……あいつは笑顔で出刃をちらつかせる奴だ」


「……以前、鴨居にぶら下げられたことが……」


「………………」


 そんな素朴な疑問に男性陣が皆一様に怯えながら答える。ちなみにじろさんは無言で震えた。


「え、昔から親切ですが」


「ん、ご飯を美味しく食べれば怒らない」


「礼儀正しく接すれば安全っすよー」


「とても親切な方ですよ?」


「優しいお料理の師匠です」


 対して女性陣はにこやかに答える。……つまり、


「あいつはフェミニストな頑固親父だ」


 ……何だろう、圓城寺のキャラの濃さは。



 弟子であるらしい紗々蘭さんによると、料理長さんは食と職に真摯で自他に厳しい方。そして圓城寺親子の食事だけで無く使用人達の賄いも取り仕切っているのでみんな逆らえないそう。とは言え、


「からっとした気質ですから、怒りは持続しませんし」


 きちんと謝れば許してくれる人だとか……んー、


「それにしては怯えかたが……」


 尋常では無い。すると理事長がぼそぼそと言った。


「……正月、賄いが休みで……うっかり闇鍋会をしたんだ……」


 男性陣だけで、ちなみにその頃女性陣は屋内プールで遊んでたそう……プールもあるんだ……、


「で、バレてお説教を受けたのですよね。司皇?」


 そこに突然艶っぽいバリトンが響いた。……この美声は……、


「ああ、失礼、突然会話に割り込んだりして……私、圓城寺グループ本社秘書室長を任せられています、一戸淳司いちのへあつしと申します、よろしくお願いします」


 両親とそれから兄弟にまで名刺を差し出し挨拶するスマートなスーツ姿のノンリム眼鏡の壮年男性の淳司さん。彼には実地研修バイトの説明や本社の案内等でこの一週間の間に何度も会っていて、そして知った。


 ──うわ、この人本社のトップだ。と、


 肩書的には違うけど、心情的にはそうみたいで、もう社員全員から熱狂的とも言える信頼を寄せられてるんだ。そしてそれはこの屋敷でも同じらしく……、


「「「お帰りなさいませ淳司様、お勤めご苦労様です!」」」


 と、野太い声で挨拶され最敬礼を受けていた。……体育会系。


「お帰りなさい、父、もしかしてこれから着替えに行くところ?」


「ああ、ただいま今璃、ふふ、そう考えてたのですけどね、ここですれ違うならば……食事に遅れる訳には行かないから、このまま本邸に行きます」


 そんな淳司さんは今璃ちゃんのお父さんで……、


「ほら、兄上も竹生たけおは恐いだろうが」


 理事長の異母兄だ。


「………………お兄、さん?」


「ええ、愚弟が失礼を申していなければ良いのですが……なにぶん友人も少ない可哀相な子ですので……まあ紗々蘭はいい子でしょう?」


「ええ、はい、紗々蘭ちゃんはいい子です」


 父さんがびっくりした表情で答える。うん、オープン過ぎて反応に困るよね。


「淳司さんは理事長の異母兄なんだ。公然の秘密なんだって」


「まあ、見ればわかります故」


「同腹のあれらより、腹違いの兄上と梅子うめことの方が似ているからな」


 ……え? なんか初耳のえらい情報が……、


「ああ、梅子ちゃんは叔母様なんです」


「こちらはあまり知られていない情報ですけどね」


「梅子は箱入りにしてるからな」


 ……圓城寺の地雷がわからない。



 【婿の条件と美味過ぎる昼食】



 道すがら淳司さんがにこやかに説明してくれたところによると、


「ふふ、私は当時絶滅危惧種だった『圓城寺』を作る為、母を借り腹とし、生まれまして、そして梅子は双方の配偶者公認の愛人であった先代の三澤の妻が産んだ娘です。ふふ、ですが各所に種をばらまいたという先代の庶子は、多分私と妹だけです。ご安心を」


 とのこと……絶滅危惧種……そして安心ポイントが謎です。続けて理事長がどうでもよさそうに、


「あの男は繁殖力が皆無に等しかったからなー、俺、奇跡的に出来たらしいし」


 と、補足……あの、にこやかに説明することでも、どうでもよさそうに補足することでも無いと思います。


「んー、数代続けて血族婚を繰り返した弊害でしょうね。現に全く関わりの無い血のママや、ずっと圓城寺を迎えてなかった一戸の伯母様は普通に妊娠したんだし」


 そして紗々蘭さんも普通に会話に入る。血族婚……ええと、もしかして婿の条件の孕ませられる能力ってのは……、


「だから婿選びの最初の関門をDNAにしたんだろうが」


「ええ、心身ともに健やかな次代が生まれてほしいですから」


 結構切実な条件でした。



 そんな明け透けな会話をしていると着きましたよ本邸に、


「近くで見ても本当に立派だね……」


 兄さんが思わず感嘆の声を漏らす。……うん……本当に立派なお屋敷だ。


「どうぞお入り下さい」


 俺達家族が圧倒されていると、紗々蘭さんがクスクス笑いながら招き入れる。それに答え少しおっかなびっくりしつつ入る。すると……、


「……うわあ、玄関から凄い! 広い! なんか置いてある物も豪華! 活けてある花も綺麗!」


「……言葉が出ない」


「……凄いとしか言えないわ」


「……うん、日本に来てから色んなところを観光したけどここまで素敵な日本建築は見たことが無いよ」


「……現実味が無いくらい綺麗なのに生活感も備えているとか」


 と、言った感じで上手く言い表すことが出来ないほど、椿屋敷は見事だった。けれど、


「んー、普通に使ってるからな、住んではいないが」


「ふふ、気に入っていただけたようでよかったです。ですが、時間も差し迫っていますし先に昼食を、食後にゆっくりと離れや数寄屋も含め案内させていただきますので」


 親子は当然かも知れないが普通に自分の家という認識。そして離れ、数寄屋……将来俺もこんな風にサラっと言えてくつろげるようになるのかな……、


 結論から言うと二ヶ月ほどで麻痺し、普通に過ごせるようになりました。……人って慣れる生き物だね……。



 感嘆の声を漏らしつつ、どこもかしこも見事な屋敷内を進み、案内された昼食会場は予想通り広かった。貧弱な語彙で言うなら旅館の大宴会場ぐらい、もちろん美しさと豪華さは比較出来ないほどですが。


 そして既に半分ほどの席が埋まっているそこの奥、当然と言えば当然なんだけど上座に設けられた席に着きました。既に一席埋まっています。……ええと、誰ですかこのノンリム眼鏡の色っぽい知的美女。ここに来てから初めて見る系統の美形です。


「ああ、紹介する。俺の第一秘書で『七席』の一戸一玻(かずは)。兄上の長女だから姪になる」


「……はじめまして、一戸一玻と申します」


 美女を理事長に紹介されました。ハスキーなアルトヴォイスの彼女は今璃ちゃんのお姉さんらしいです。父とも妹とも──二人は圓城寺の系統の美形です──余り似てません……お母さん似なんだね。ちなみに同席者は俺達岸元家五人と圓城寺親子、そして一戸親子の十人でした。


 そして始まった昼食会は会話が弾まなかった。……だって料理美味し過ぎる!! ジャンルで言えば創作和食のフルコースをもう家族全員感嘆の吐息しか出せず無言で水菓子──皮ごと食べられる葡萄でした──まで食べ尽くした。


「ふー、ご馳走様でした」


 紗々蘭さんが手ずからいれてくれた煎茶をゆったりと飲みながら心からそう言う。ちなみに量は個々で違っていた。先週の晩御飯の際に紗々蘭さんは家の家族の食事量を把握していた模様……俺の婚約者(仮)は実に気遣い上手です。


 そんな感じでまったりと昼食の余韻に浸っていると、襖が開き栗色の髪の白い調理服姿の男性が顔を出す。中性的な童顔系統の美形は三澤さんだね。影のボスだという料理長かな?


「料理長の三澤竹生と申します。料理はお口に合いましたでしょうか? ご満足いただけたならば幸いですが……」


 もちろん料理長だった竹生さんに感謝と感動を伝えましたよ。全員で、全力で。そして現在、母さんと兄さんがレシピを教わっています。紗々蘭さんも参加しました。聞いてもちんぷんかんぷんな俺は他の席を眺めてます。……本当美形揃いだよな、と、


 華やかで闊達な美形の二条(にじょう)さんに、中性的な童顔美形の三澤さん、パーツがクッキリとした美形の四倉さん──身長差はともかく顔は似てる──と、スッキリと繊細な美形の五藤(ごとう)さん、中性的で凛とした美形の六崎さんと一人しかいないし多分系統とは違うんだろう七瀬(ななせ)さん、うん、眼福です。男が多いけど、ほぼ男だけど、まあ美形は見ていて楽しいよね。ちなみにわかりやすいようにって家ごとに席に着いている。同席している系統が違う美女や男前は嫁や婿──嫁婿も美形──だ、そう。……ん、あれ?


「楪さんって五藤さん系統の美形も混じってるよね?」


 光君も同じ感想を得たのか食後にナチュラルに混じった六崎家のテーブルで、楪さんに尋ねてます。そんな光君のヒロインさんは凛とした雰囲気もありながら繊細さがある美少女……本当光君も面食いだったね。


「……父が五藤の分家筋なので」


「おお、ハイブリット。じゃあお母さんが六崎さんなんだ」


「……ええ、六崎の分家です」


「ふふー、そっか、で、楪さんは今いくつ? 中学生くらいだよね?」


「……十五です。中三です。……転入試験に失敗したので通ってませんが」


「ん、そう、で、彼氏いる? 好きな人は? まあ、いても諦めないけど」


「…………堂々と怖いこと言わないで下さい」


「で、いるの?」


「………………いません」


「ふふ、よかったー」


 ………………光君の本気ってああだったんだ。今までの彼女とは全然違うね。実は初恋かな? ……まあ、人のこと言えないけど、


 料理談義に盛り上がる婚約者(仮)を五秒に一度はニマニマと見ちゃっているような俺ですが何か?





  

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