古代の末裔は生きる古代人と歩く
始めまして
Macchangと申します。
どこまで続くかはわかりませんが
よろしければお付き合いください
タグーが幸運だったのは、自分に先んじて狼が待ち伏せる平原へ歩み出た男がそれなりの使い手であった事と、狼が一頭の獲物を狩る動きを取ったことにある。
小柄な一見少年とも見える男の体裁き、太刀筋は一つ一つは美しく寒気がするほど鋭利なものだった。
しかし、その動作の発生の瞬間に違和感がある。
まるで意識と身体が上手く連動していないかの様な、そんな印象を受けた。
そこでタグーは狼と戦う男も自分と同じ、先程体の自由を取り戻したばかりなのだと判断した。
自分も魔王の宝物を狙い、森の迷宮に挑み逆に捕らえられてしまっていた身の上だ。
そう思うと急に親近感が湧いて来た。
一緒にコレクションされていた連中は封印が自由になったとたん一気に老化し、最後は塵となっていった。
止まっていた時の流れが一度に押し寄せたのだ。
一部、塵にまではならず、白骨化や廊下だけで息絶える者も居たが生き残ったのは自分一人だ。
自分は体質により死を免れた。先祖に自身を封印し数百年先の時代で目覚めた人間が居り、その目覚めた後の子孫が自分である。時の反動への耐性がタグーの体には先祖帰りして顕現していた。
それこそタグーが殺されずコレクションとして封印された理由でもある。
そうして生き残ったタグーであったが、実際のところどれだけ封印されていたのかが分からない。
自分の知る世界と全く違う世界だったどうすれば良いか、小さな不安が彼の中にあった。
以前と同じ生き方が出来るかどうか、古い時代の自分が受け入れられる世界なのか
そんな不安を軽減してくれる存在が目の前にいる。
自分と同じ封印されていたと思われる男。
彼が居れば、少なくとも一人ではない。
このまま彼が食われる間に通り過ぎる事も考えていたが、その考えは完全に頭から消える。
直ぐ手の届く距離に狼相手に短剣を振るう男の後ろを取ろうとする狼の姿がある。
一流の冒険者であり探検家のタグーの隠密術は野生動物の鼻を誤魔化すことはたやすい。
腰の戦槌を無音で振る。
地面に叩きつけるまでは降ろさない。
少しのうめき声と共に息絶える狼。
続いてもう一匹、今度はこちらを狙って飛び掛かってくる。打ち下ろした姿勢からそのまま逆に打ち上げる。
先のとがった楔状の部分が下顎を貫き上顎と縫い留める。そのまま縦に円を描くように振り回し地面へと叩きつける。痙攣する狼の腹を踏みながら刺さった戦槌を抜き、もう一匹叩き殺すと、森から駆け出す。
平原では男が群れの攻撃をいなし切ったところだった。すぐにその右後ろに並ぶ。
防御の為か左は大きなカバンが置いてあるからだ。
「加勢するぜ、アンちゃん」
「感謝する」
一瞥もせず男は応える。
視線は群れの奥にいる。少し毛色の違う狼を睨んだまま離さない。
構える短剣は狼の血と脂が滴り落ちている。
おそらく脱出時にダンジョン内で拾ったのだろう。業物なのは間違いない。
タグーの持つ装備も同様である。
封印されていた部屋のドアを出たところに戦槌と胸当て、パンツが落ちていた。
何らかの手段で見張りだった魔族が装備を残し消失したのだとタグーは推察している。
それは今まで見たことが無いほどに高性能な代物だった。
彼の短剣も同様だとタグーは判断した。
そのまま構えていると、狼たちは諦めたのか去って行った。
「助かったようだなお互い」
「そのようだな、改めて助成に感謝する。」
振り返り薄く笑みを浮かべた男の顔はまるで少年の様でありながら、相当の年季を感じさせる者があった。
そこで一つの言葉が浮かぶ
妖精族
自分の知る限り、はるか昔に狩り殺され絶滅したとされる種族。
辛うじて6人、女がエルフの神域に匿われているらしいが、真偽のほどは定かではない。
妖精族の男は女子供を守るための防衛線の前線に立ち、殺し尽くされたという話だ。
宝として封印されていてもおかしくは無い存在である。
浮かんでくる諸々の考えを脇に、身の上を話し同行することに成功する。
「そういや名乗ってなかったな。俺はタグー、唯のタグーだ。」
「セイリンだ。」
その後の道中を共にすることになったが、セイリンを名乗る妖精族は随分変わっているように思われた。
持っている道具の数々もそうなのだが、人格的に達観しているというか、あらゆるもの事への関心が薄い様にみえた。
自分の種族が狩られたという話にも相槌を打つだけで感情を見せる事は無かった。
またその話題から、彼が妖精族が狩られる以前の時代の存在だと判った。
妻子もいたというが、いくら不老不死と言われエルフ以上に亜人の中で最も長寿な妖精族といえど、
再会は困難な時間が経っていると思われた。例え狩り出される事が無かったとしてもだ。
魔王の宝物庫から持ってきたという規格外の道具について追及すると、少し分けてくれた。
セイリンはこのまま隠居するつもりだという。
備え付けのカウンター席に座り、鞄から取り出した楽器の整備を始めるセイリン。
知識の無いタグーにもその手つきが慣れたものであると思えた。
「弾けるのか?」
「それなりにな、町に付いたら聞かせてやるさ。」
ニッと笑うセイリンの楽し気な笑顔にタグーはようやく親しみを覚えた。
「楽しみにさせてもらうぜ。」
そう返して寝る事にする。
一室使用の可否を確認し横になる。
寝具は何もないが安全で温かい室内というだけで充分だ。
ドアの向こうから試しに鳴らしているのか楽器の音が時折聞こえてくる。
それを子守歌代わりにタグーはひとまず意識を手放した。
自身の疲れ振りは自覚していた。
それゆえ、目覚めたのが日が中天を過ぎた後だったと知っても驚くことは無かった。
疲れは大分取れたが、空腹は満たされず眠り続けるのが困難な為起きて来たという状態だ。
そんな自分に柔らかいパンとミルクを渡し、食べ終わるなりセイリンは外へ出る。
続いてみれば周囲は昨日の平原だ。
ドアを閉じ鍵を閉めればトビラは消え去り、本当に元の平原になる。
なんとも言えない気分を理性で噛み潰し飲みこむと、出発を促すセイリンに続き歩を進める。
それからは何事も無く、平和な夜をもう2回繰り返したところで、前線基地も兼ねているであろう街の防壁にたどり着いた。
このまま壁沿いに歩いていけばいずれ入り口にたどり着くだろう。
途中、壁の上を見回る兵士が居れば、案内も望める。
ここでは人目に付くからアイテムが使えないと、セイリンは少し残念そうだったが、
タグーとしてはようやくの人の住む領域に内に入れた事が何よりもうれしかった。
街に入ればどこも浮足立ったような空気に満ちている。
耳を少し立てれば、その理由は簡単に解かったし、そもそも予想していた事態だった。
「解放されたって事で、予想はしてたがカリアスが倒されたんだな」
「んー、森の異変はその魔王のせいだったのかねぇ?」
どこかズレたセイリンの言葉に苦笑する。
彼は自分の住む集落の有る森に魔物が増えだし、森を捨てて移住する際、残って森を見張る役目を受けそのまま魔族に捕らえられて今に至るらしい。
そんな様なことを道すがら話してくれた。
外壁から離れ、反対側の居住区の方へ行けはその浮かれ具合は顕著であり、非番と思われる兵士や傭兵、そして非戦闘員の住民たちがさながら祝勝会が継続しているかのように浮かれている。
実のところ、その物ズバリ、祝勝会が終わっていない状態なのである。
タグーの感覚ではそれも納得の理由である。
過去に魔王討伐に成功した時は10日に及ぶ祭りだったという。
今回討伐されたのは歴代でも稀代の大物である。まだ5日も経っていないといないと言われても、
おかしくないような事態がおきているのである。
喧騒の端々から聞き取れる情報でタグーが捕らえれてから1年程度しかたっていないことが分かった。
体質に関係なく助かったかもしれないと思ったが、一年の時が一気に体に現れたら、飢えやらなんやらで結局死ぬだろうから、やはり体質の御蔭だと思いなおしたのは、一人心にとめる事にする。
「宿をとるのか?」
「町中であの部屋を使うのは気が引けるし、その為に人目につかない場所に行くというのもね。」
そういいながら酒場兼食堂に隣接する宿に部屋をとる。
幸いなことに、祭りのせいか素泊まりならほぼ無料という状態だった。
食事や風呂は金をとるみたいだが。
討伐の為に運び込まれた物資が尽きるまでこの祭りは続くようだ。
その割には酒や食料が後から後から街に運び込まれている。
「勇者様が祭りを盛り上げて下さっているのさ」
と酔った酒場の店主が教えてくれた。
勝利の宴を勇者一族が準備していたらしい。
さらに魔王の支配から脱して人類の資産となる新たな土地の権利に関して、戦闘の準備は勇者一派が全て行った為、この祝勝会への出資が国内貴族が新たな土地の権利を得る機会になる空気を作っているのだとか。
戦後の政争、武器は酒と飯。
それがこの祭りの本質だという。
「勇者すげぇな」
政治になどまるで関心の無かったタグーからは想像もつかない世界を垣間見た気分であった。
「さて、稼いでくるか。」
そういいながら部屋から出て来たセイリンの背中にはアコーディオンが背負われていた。
あの自走する旅行鞄は置いて来たようだ。そしてなぜか鞄に取り付けていた植木鉢と花を持っている。
紐を肩から掛けて植木鉢をぶら下げている美少年。楽器を背負っているので何か意味がありそうに見えるので、思いのほか違和感がない。無いわけでは無い。
「町に着いたら聞かせるって話だったな、剣の腕は大分鈍ったが、こっちはまだまだ若いのにはまけないよ。」
妖精族の若い見た目で言われても苦笑いを浮かべる事しかできなかったタグー。
思えば、話を聞く限り千年以上前の人物であり、魔族に捕らえられる前に既に100年近く生きている男である。
いったいどんな曲を聞かせてくれるのか楽しみになって来た。
植木鉢の位置を調整しながら背負ったアコーディオンを前に抱えなおし、一呼吸しから演奏を始める。
聞いたこの無い旋律だが、穏やかに気分になる心地よい曲だ。
奏でながら人の多い方へ歩いていくセイリンに皆一瞬目を向け、次に耳を向ける。
祭りの喧騒がゆっくりと彼の奏でるリズムと重なっていく。
「やっぱりただもんじゃないかぁ、こんなに目立って隠居とか出来るのか?アイツ」
良く見れば植木鉢の花がリズムに合わせて動いている。
踊る花の魔物は聞いたことがある。無害なものが多く、薬の材料にもなるらしい。
演奏者の持つ装飾品としてもなかなか魅力的な物のようだ。
人波の中心へどんどん進んでいく。
途中からついていけなくなったので、追うのを諦めアコーディオンの音楽が聞こえる範囲に留まる様に動いた。
その後、宿の前で合流した時にセイリンが持っていたおひねりの額に閉口した。
確かにこれならアイテム売って金にする必要も無いか。
楽師で食べていけそうだ。
ファンタジー世界で巨大怪獣パニックものがですね書きたいんですよ
巨大怪獣の置き場所というか生息地がね、怪獣島みたいなのを・・・・・・
そういう方向に持っていけたらなぁ