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主の楽園 約束の地  作者: macchang
時代の終わり
5/23

主様、戦地に立てない

交通事故の翌日、めまいと共に大量の鼻血が。怖いな

平野に抜け、目的地が見えた。

動く鞄は快調だ

天気も晴れではないものの、暑くも寒くも無いのでまぁ良し

曇天も悪くは無い。

「悪くは無いんだ、天気は」

森を抜けた先の平野、魔物の影響で街道の無いそこには狼の群れが屯していた。

魔王討伐の為の森への侵攻が獣立を平野へ追いやっていたのだ

縄張りを追われた獣たちは気が立っていた。

こちらへ向ける視線は、敵意と飢えが混在する恐ろしいものであった。

鞄を止め様子を見る。片手は腰の短剣に添える

数にして16匹

今の自分の装備は、一見軽装だが、その実魔王の宝総動員の完全防御だ

短剣も時間と空間をも断ち切る代物だと、調べた奴が興奮して話してくれたものだ

もっとすごいのもあったが、欲しがる奴がくれてやった。

そんなわけで装備は充実だが、いかんせん使い手の腕が悪い。

頭ではわかっていても思うように体が動かない。

力も入らず、動きも鈍く感じる。

このままでは1,2匹切りつけて手傷を負わせた辺りで組み伏せられ、装備の隙間から妖精族の柔肌を食いちぎられることだろう。

以前の魔物の姿であったなら裸一貫でも無傷で撃退できたのに

逃げようにも見晴らしの良い原野では出て来た森に逃げ込むくらいが関の山。

元々森で暮らしていた狼たちを相手にそれで逃げ切れるかというと

成功の可能性は限りなく低い

それでも他に手はないのでいつでも剣を抜ける姿勢のままゆっくり後退していく。

一緒に後退する鞄の上のグレナは本物の植物のようにピクリとも動かない。

見事な擬態だ、多分私が食われてもコイツは生き残るだろう。

「薄情者め、一緒に食われろよ」

つい口から洩れてしまった。

そんな我らを囲い込むように広がりながら狼たちは追従してくる。

後ろに回り込まれ前に森に駆け込みたいが、背を向けて駆け出せば、向こうも全力で追いすがってくるだろう。

速さでは向こうが上なのは想像に難くない。あくまで向こうが慎重であるうちに障害物のある森に入り、逃げ切れる希望をつなぐのだ。

案外木に登れば安全かもしれない

そんな安易な考えで行動している。

そんなこちらの意図などお構いなしに、後ろに回りこむどころか、真横にも来ていない時点で一匹が此方に唸り声と共に駆け出してくる。

「そうあわてるなって」

言いながら身をひねり牙を躱しながら抜刀、前足に斬りかかる。

何の抵抗も無く刃は毛皮に食い込み、そのまま片足を切り落とした。

そこで気を抜かず、すでに次に行けるように構えを取りながら再び後退を開始する。

流石に警戒を強めたのか再度の攻撃は来ないが、取り囲む為の展開が加速している。

躱すだけにして反撃はすべきでなかったかもしれない。

足を斬られた個体は後方へ下がり蹲っている。

そうして森へ入る前に包囲は完成してしまった。

全方位からの視線が刺さる様に降り注ぐ。

その中に狼の物とは違う視線があることに気付いた刹那

後方に居た森に一番近いところに居た狼が悲鳴のような鳴き声を上げる。

続いて何かが森から駆け出してくる気配。

それに対応するようにか、群れの行動が乱れる。後ろの狼たちが森から出て来た何者かに意識を向け

自分の視界内に居るものは、あるものはその場に硬直し、ある者釣られるように飛び掛かってくる。

しかしそのタイミングは統率の無いバラバラな動きだ。

それならばと冷静に一匹ずつ斬りつけていく。

2匹は絶命し、2匹は先ほど同様、足を切り落とす。

これで計5匹、戦力を削いだ。

そこで森から出て来た何者から横並ぶ。

「加勢するぜ、アンちゃん」

野性味を感じる少し枯れた声

人目に戦士と分かる風貌の男か小ぶりなハンマーを片手に立っていた。

ハンマーの片側、先端がとがった方には狼の物と思しき血痕と肉片がついている。

肌に胸当てとパンツだけと軽装だが、鍛えられた肉体が無言の説得力を感じさせる。

「感謝する」

応えて前進、目標は群れの長と思しき少し毛並みの良い個体。

後ろから狼の気配は無い。今だ正面と左右に5匹、中央が長っぽいやつ。

右手に短剣。左に鞄が並ぶように進める。ついでに取り出し口に手を入れ、使えそうなものを見繕う。

しかし、何か取り出す前に狼たちは左に迂回するように走り出し、そのまま森の中へ消えていった。

どうやらこちらを狩るのを諦めてくれて様だ。

気が抜けて溜息が漏れる。

そこに後方から声がかかる

「助かったようだなお互い。」

白い歯をむき出し笑いかける男。

「そのようだな、改めて助勢に感謝する。」

「ああ、だが実際のところ大した事ではないんだ。」

聞けば彼も平野に出はしたものの直ぐに群れに気付き、見つかる前に森に身を潜めていたのだとか。

こちらがノコノコ出て行って気を引いてくれたので、これ幸いと狼に不意打ちを食らわせてやったという。

「実のところ、さっきまで魔物に魔法で捕らわれていたんだが、それが急に解放されてな。逃げ出したはいいが身体が鈍って以前のように体が動かなくてよ。あの程度の群れ、以前は一人で何とかなったんだが。」

「そいつは災難だったな。だがそれでも助かった。こちらも本調子ではなくてな。」

「ああ、あんたも俺と同じクチだろう?足運びと体裁きでわかるさ。」

どうやらこちらの事を同じ境遇にあると勘違いしてくれたようだ。

それなら彼と同じように結界内に捕らわれていたが、今回の討伐で解放された人間がまだいるかもしれない。

彼らに交じれば案外、簡単に人間社会に紛れ込めそうな気がする。

「鈍ってるとは言え、あんたがそれなりに使えるのが分かったからな。おかげて二人生き残れた。」

「それは何よりだ。」

「そういや名乗ってなかったな。俺はタグー、唯のタグーだ。」

「セイリンだ。」

そんなやり取りもそこそこに再び歩を進める

そこから半日ほど進んだところで一度休むことにした。

一人なら鞄に腰かけてさらに進むこともあったろうが、連れができたのでそちらに合わせる事にした

急ぐ旅路ではない

早く安全な町に着けるのなら、それに越したことはないが、先ほどの狼を追い払ったことで見える範囲に脅威は感じられない。

なればこそ無理なく進もうというものだ。

身体も本調子ではないことだしな。


日没前に適当なところで鞄から野宿用の道具を取り出す。

「なんだそりゃ?何の鍵だ?」

訝しむタグーにまぁみてろという表情を向け

虚空に向かって鍵をまわす

次の瞬間、扉が現れる。まるで最初からそこにあったかのように特に装飾も無い質素な扉が

驚くタグーの表情を尻目に扉を開けば中にはやはりシンプルな木造の部屋が広がっている。

窓は無いが、ドアから観て正面に一つ、右の壁に二つ、他の部屋へ続くドアがあり、左はキッチンとカウンターになっている。キッチンの横にもドアがあり、その先は石造りの部屋となっている。

そして入り口の左隣にもう一つドア。こちらは短い廊下を挟んで厠と浴室へつながっている。

「なんなんだよこれは」

感情を隠さないタグーの反応はとても気持ちが良い。

「やはり大物魔王の宝物庫はモノが違うな」

「宝物庫だと!?見つけたのか!!」

魔王の結界というダンジョンの宝物庫は冒険者の憧れだ、とくに以前の自分の様な長く力と可能性を蓄えた魔王のそれは彼等が人生をかけるに値する。

「そうか、アンタ妖精族だもんな」

突然タグーが妙な事を口走る

「確かに私は妖精族ではあるが、それが何かあるのか。」

「いや、俺も確信が無かったんだ。妖精族は一部を除いて絶滅したと聞いていたからな。

「なんだと?」

驚いた、自分が魔王として結界に籠っていた間に外では何が起きていたのか

「なんでそうなったのかは、俺も詳しい事は知らねぇ。学が無いもんでな。ただ生き血が魔道具の材料になるだとで狩りに合ったらしい。」

「とんでもないな。だがそれでどうして私が宝物庫にたどり着くんだ」

「魔王の配下に珍しい種族や、勇者を生きたまま標本してコレクションしてる奴がいてな。アンタ自身がそうした経緯で宝物庫に保管されていたなら」

「成程な、」

ここは話を合わせておこう

「宝物庫の近くの部屋で目が覚めたのはそういった理由もあったのかもな。ただ、それなら他の標本の連中ともそこで合流出来たろうから、何か別の要因もあるのかもな。」

「他の連中なら俺と同じ部屋に居たよ。俺もコレクションされたんだからな。ちなみに他の連中は保存魔法が消えた瞬間、一気に老化してくたばちまったよ。」

話を聞きながらカウンター備え付けの椅子に腰かけ鞄から水差し始め生活用品を出し並べていく。

「俺の場合、そういう魔法の反動に耐性があってな。それが理由でコレクションされちまった。」

古代人の先祖返りらしく、見た目にはわからない所が人と違うらしい。

「あんた捕まった時の事は覚えていないのか?」

「覚えていないな、そもそも妖精族が居なくなったのはいつなんだ」

「200年から300年前の間に狩られて行っていなくなったという話だ。」

かなり昔だな。

「今じゃあ、エルフが一部匿っているのが最後の妖精族だと言われてるな。」

「へぇ」

「他人事だな。」

「実感がわかない。」

「というかその鞄、何が入ってるんだ?さっきからとんでもないお宝ばかりじゃねーか。」

燃え尽きない炭を竈に放り込み火をつけたところで、いよいよ我慢できんとばかりに話が切られた。

「まぁ落ち着け。」

「ならもっと落ち着ける状況にしてくれ」

「宝物庫の有用そうなものをあらかた詰め込んできたからな。ならばこれをやろう。」

そういって薄手の服を投げ渡す

胸当てと痛んだパンツだけというのも、見栄えが良くない。

「・・・・・・・!」

何とも言えない表情で黙ってしまった。

「防刃の加護のかかった服だ。絶対に切れんし、並みの打撃や刺突では貫けん。代わりに防寒性能は見た目通り皆無だ。」

「お、おう。」

次にズボンとベルト

見た目は若木色の普通のズボンだ。柔らかく動きを一切制限しないズボン。込められた植物の生命力で病魔を払い、弱い癒しの魔法が常にかかる代物だ。上級の賞金稼ぎや冒険者なら持っていても不思議ではない程度の品になる。十分高級ではある。

ベルトは高位のモンスターの皮と角から削りだしたバックルのついただけの特別な効果のない普通のベルトだ。

中級冒険者が見栄を張るのに好んで使いそうなものだ。

「このベルトは、落ち着くな。」

「口止め料だ、街についてから俺の鞄の事を広めないでくれよ?」

あまり知られると面倒に巻き込まれかねないが、隠して使わずにいるには不便である。

「わかってるさ、一個二個売ったら、後は自分で使うんだろう?冒険者の憧れだからな」

「一足先に引退させてもらうよ。体もこんなだしな」

「そうか、俺は鍛えなおして復帰ばかり考えてたが、そういうのもあるか。」

すこし湿っぽい空気になってしまった

なので鞄から新たに物品を取り出し彼を驚かせながら一夜を明かした。

魔法の部屋は快適で十分な休息が取れた事も重ねて報告しておこう。もうこの先自宅として使おう。

新たな魔王の居城である。


事故事態は渋滞中に後ろから軽くぶつかられた程度だから、そんな大したことじゃあないけど。


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