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主の楽園 約束の地  作者: macchang
時代の終わり
2/23

主様、負けちゃいました2

まだ何も始まりません

激痛に悶えながら目を覚ます

痛いはずなのに、痛みと共にほんのわずかだが活力が沸いてくる

しかし、血管に何かガラス片の様なものを流し込まれ、内部から筋肉繊維や神経をズタズタにされるような

そんな痛みが体中に広がっている。

死の淵から目覚めたばかりだというのに、再び目覚めぬ眠りに落ちそうである。

そんな痛みに悶絶し、声も出せず歯を食いしばり身体をよじらせる

すると何か柔らかいものが体に触れているのを感じられた

そして痛みは何かが触れている場所から流れ込んできているようにも

必死でそれから離れ、そこで自分に手足があることに気が付いた

先の戦いで核も身体もほとんど消失したはずであるのに

今、自分は両手で地を這いずって膝を立てて、自分に触れていた何かに向き直った。

そこには触手の生えた肉塊が居た

グレナと呼ばれる陸生イソギンチャク、その幼体

4本の深緑の触手とレモン色の肉塊の様な身体をした魔物である。


確か勇者の最後の一撃を邪魔し自分を救ってくれた存在だ。

その能力の一つに触れた相手の生命力や精神力を吸収するというものがある。

その応用で吸い取った生命力や自分の生命力を触れた相手に注入することも出来る。

どうやら死にかけた自分に先ほど勇者から吸収した生命力を注入したようだ。

有り難いことではあるし、実際にそれでこうして生きているわけだが、どうにもよろしくない

というのも単に勇者の命と自分の命の有り方が違うのだ。それゆえ勇者の神聖な生命力に、我が邪悪な肉体は蝕まれているわけだ。

じきに自己進化により耐性ができればこの痛みも引くであろうが今はそうもいかない。

痛みに顔を歪めながら自分の今の体を確認する

視線の高さから今までの巨体は失われているのはすぐわかる。

手から見下ろしていき、途中で割れてはいるが姿見があるのを見つける。

魔王としての身だしなみは大切だったのだ

そこに移っていたのは懐かしい姿だった

かつての妖精族と呼ばれる小柄な亜人だった頃の自分がそこにいた。

「おお」

驚きに声が漏れる

その声もかつての自分の声だ。外見に見合う少年の様な声

と言っても人族基準だ、妖精族では平均的な声と容姿である。

外見は分かったので次に確認したいのは能力だ。

体感としてわかるのは自身の象徴とも言える晶気創造の能力。これは失われてはいないが非常に弱くなっている。その上生み出す晶気と反する勇者の生命力が入り込み作ったそばから中和されている状態だ。

中和される際に触れている内臓や肉を消しているので、それが体を蝕む激痛となるわけだ。

今後、生み出す晶気の質が変化するかもしれないな。

それにしても晶気がまともに生み出せないのは少し困る。

今自分がいるのは、この晶気を基に作りだした結界の中だ。

維持するのには当然、晶気が必要でありこのままではいずれ消滅してしまう。

そうなれば中にあるものは生物無生物関わらず全て消滅してしまう。

過去の魔王の中にも、勇者は撃退したものの、結界を維持できずにもろとも消滅してしまったものもいる。

そうなる前に脱出する必要がある。

幸いな事に、今回の勇者は速攻を仕掛けてきたので結界を維持する晶気は内部に大分残っている。新しい魔物が生まれるくらいだ、しばらくは大丈夫なはずである

しかし、能力が戻らねば遠くないうちに、少しずつ崩壊し始めるだろう。

さらに生み出す晶気の質が変わればそのまま補給もできずに完全に消えるだろう。

今後の事を考えるなら適度に荷物をまとめて一度脱出し結界の消滅を待った方が良いだろう。

それに下手に維持すれば、魔王の生存を疑われ再度討伐に勇者が現れる可能性ある。

それは非常に困る。

心臓核の大半を破壊された今の状態から以前の力を取り戻そうとしたら何百年かかるか分かったものではない。

先ほどの勇者が数年で傷を癒し再度現れたなら、いや、勇者でなくとも多少腕に覚えがある神官や浄化の力を持つ冒険者でも危ないかもしれない。


気持ちが落ち込むのを自覚しながら能力の確認を続ける。

足元の少し大きめの瓦礫をつかむ

以前の体なら息の一吹きで吹き飛ばせたものだが

持ち上げようとしてもびくともしない。力んだ指が食い込み新たな痛みを覚える。

ああ、これはだめだ

平均的な人族でも両手で持ち上げることが可能な水準の瓦礫が動かせない。

肉体能力はあてにならない。


魔力はどうか

かつては体内から生み出す晶気を使い高度な魔法を操っていたのだ。

晶気の操作能力こそが魔力ともいえる

一度に操れる量と捜査の精密性それはどうか

身体を走る痛みに集中を邪魔されながらも、意識を集中させる。

体内に晶気は無い。周囲に漂う晶気に意識を向ける。

それなりの濃さのでその存在を感じる。

意識の中で手を伸ばすようにして干渉しようとする。

ああ、ダメだ

正確性はともかく操作できる量がまるでない。

試しに火を出してみるが、指先に少し火花が散っただけだった。

火打石にはなりそうだ。


うむ

決めた

逃げよう

自分はもう魔王にはしばらく戻れない

このまま人に見つかりとどめを刺されるか、自分の影響下に無い魔族か魔獣のエサになって終わるのが精々の状態だ。

そもそも元は妖精族、望んで魔王になったものでもない。

力が失われたのなら幸いだ。

このまま逃げて、新たな土地で妖精族の流れ者として新たな人生を送れば良いのだ。

そもそも魔王に戻る必要も無い。

力が戻ったなら、今度は人の立ち入らない辺境に結界を作りそこに住みやすい環境を整え引きこもっていればよい。

どうせこの世界は遠からず崩壊するのだ

今は神界の援助もあって魔界からの浸食を退けているが、それは摂理に反した事だ。

最近、その限界が来ている。

勇者が自分の様な魔王を倒そうと、いずれ魔族の時代になる。

その前に大きな戦争の時代があるだろう。過去にも同じことが起きている。

それまでに結界を構築する力を取り戻し、良い場所を見つけ、今度は能動的に結界内に理想郷を作るのだ。

力が戻るまで、世界を漫遊し結界を張る場所を選定する。

そうときまればさっそく行動だ。旅支度をしよう。

結界内はとても不思議な空間だ、魔物も生まれるし、なぜか無生物である金属器や彫刻も発生する。

過去の魔王の研究によると、自己進化可能な魔王種の作る結界内に発生するそれらの道具は、発現しなかった進化の可能性が実体をもったものらしい。

故に古く強い魔王の近く、つまり結界の最奥には魔王の能力に比例した性能の道具や凝った芸術品が多くあり、それを狙った冒険者が侵入してきたりもするわけだ。

今回、勇者は私を倒しはしたがすぐに去って行った。

つまり、それらの宝はまだ手付かずで残っている。

結界と共に消えてしまう前に良いモノを集めて脱出だ。


身体の調子も確認し、今後の方針も決まりいざ部屋を出ようというところで足元の存在に気付く。

生まれたばかりのグレナ

少し目を離したうちに急激に弱ったように見受けられる。

目を凝らし魔力を通して観察するとその原因が分かった。

こいつも勇者の生命力を身体に取り込んだのだ

反する属性を取り込み、今の自分の体と同じ痛みに蝕まれているのだ。

生まれたばかりで痛みに耐性も無く、自分のように自己進化でいずれ身体に馴染ませられる自分と違い、

このグレナは蝕まれた場所を切除でもしなければ死ぬまでその痛みを味わ続けることになる。

このままでは、まだ弱いこの魔物は耐えきれず衰弱死するだろう。

それは気分が悪い。

腹をくくり、力なく垂れ、時折痙攣する触手の一本をつかむ。

そこから魔力を通しグレナの生命力に触れる。自分の晶気から生まれた魔物だから出来る事である。

そしてそこから勇者の生命力を吸い出す。

一度にやると、それはそれで危ないので生命力が減り過ぎないようにゆっくり勇者の力を吸い出していく。

とうぜん自身の体に走る痛みは増していく。

歯を食いしばり耐える

やるんじゃなかった、見捨てればよかった、どうせ自分から生まれた存在だ生殺与奪の権利はあるしという思いが頭をよぎるがもう遅い。

始めてしまったのだからやるしかない

「いてててててててっ・・・・・・」

途中から声も出ない

体内から勇者の力が減っていき心なしかグレナの顔色が良くなった気がする

正直、顔とかないから気がするだけだがなんとなく伝わる

もうすぐ全て取り込める。

大した量ではないのだが、それでも今の自分には身に余るものだ

そして流れ込む力が、痛みを伴わないものになった時に手を放す。

その手をみれば血管が浮きあがり、ところどころから白い光の粒子が血の代わりに噴出している。

肘から先は感覚が無く、身体側には激痛の他は感じられず、しかも徐々に痛みは広がっていく。

腕から肩、そして胸へと広がるのを感じたところで、ついに意思を手放した。


再び目を覚ました

再度身体を確認する

まず分かったのは先程までの痛みがなくなっている事だ。

体内を探り理由を見つける

心臓核周りに勇者の生命力が集まっており、生み出される晶気とゆっくりと打ち消し合っている。

そして体に別の生命力は満ちている。

そこで自分が仰向けに寝かされている事に意識が及ぶ。

頭の下に枕の様な柔らかい感触

そこに元気になったグレナが挟まっていた

何故か体色が真っ白になっている。

おそらく倒れた自分を介抱?していたのだろう。体に満ちるのはこのグレナが送り込んだ生命力だ。

自分の晶気から生まれた魔物は良く懐く。

まぁ親の様なものだし当然と言えば当然なのだが

このグレナも例にもれず良く懐いてくれているのだろう。

こうしてみると一般的な人族に美観からは到底でてこない発想だが、この白いグレナが可愛くみてくる。

身体を起こしたこちらの様子を伺うように触手をうねうねと動かしている、様に見える。

「ありがとうな」

言いながら触手の付け根付近、胴体の上部撫でる

すると身をよじりながら手に身体を擦り付けてきた。多分、喜んでる。

ともあれいつまでものんびり寝てはいられない。

直ぐにではないがこのままでは確実に結界は消える。

早々に荷物をまとめて旅立たねば

手を放し、部屋を後に廊下へ出る。

高い知能の魔物や魔族が自分に代わり館の管理をしてくれていたのだが、それらは勇者に倒されてしまっている。

護衛も何も配置していなかったのは良くなかった。そもそも結界の内部は魔界とも呼べる魔獣、魔物の巣窟だここのたどり着く時点で弱っていると警戒していなかったのだ。

次の結界はその辺りも考えて管理しなくてな

思案しながら倉庫部屋に入る。

館内に発生した道具をとりあえずまとめている部屋だ。

彫刻や絵画が出た時は飾ればいいが、すぐに使い道が浮かばないものを入れていたハズだ。

部屋の中には数個の箱と袋が並んでいる

どうやらこの箱と袋は見た目以上にモノを収納できる魔道具のようだ。

袋を丸ごと持っていければ楽かなぁ

と思うが持ち運ぶにはサイズが大きすぎる

今の妖精族の自分のが上に手を伸ばして持っても、袋の一部は床につく大きさだ

「これは持てないな。」

どれも性能は良いモノばかりだ

持っていきやすいものだけを選んで適当に選べばよいだろう

まずは鞄を選んだ。キャスター付きの大きめの旅行鞄だ。

見かけ以上にモノが入る魔道具でその容量も多い。

何より選ぶ理由になったのは整頓機能だ。雑に詰め込んだ中身が、鞄を開くと綺麗に整理された状態で鞄にならんでいる。クシャクシャの服もアイロンをかけたように皴が伸ばされ折りたたまれて出てくるのだ。

さらに、呼べば自動で持ち主の所に移動してくる機能に指定した場所に移動する機能がある。

上に腰かければ持ち主も運んでくれるというわけだ。

その移動も悪路をモノともしない壁すら登ってしまう高性能。あまり速度は出ないが充分だ。

小物の取り出し口もついており使い勝手もよさそうだ。

欠点は収納するとき続けて大量に入れる事は出来ず、一度蓋をして収納空間に収めて、再び蓋を開けて入れるという行程を経ないといけない事だが、元が大きめの鞄なのでそうそう困ることはなさそうだ。

次々に旅行に必要そうなものを入れていく。

無限に水の出る水差しや、燃え続る炭、食器に携帯式組み立て暖炉なんてものも入れていく。

服も礼服から動きやすい服まであるだけ入れる。

どれも冒険者が持ち帰れば、その後の人生遊んで暮らせるだけの価値があるような道具や、持ち帰って国を興したちうような昔話に出てくるような道具ばかりだ。

魔王の住居、魔界の最奥の宝物なのだからそれ位は当然である。

そしてこれらは、いずれ人の来ない辺境に結界を作るとき、その厳しい環境であることが予想される所へ赴くのに役立つだろう

ここで持っていかないと同様の道具をそろえよう思ったら、それこそ力の完全回復を待った方が早いかもしれない。

結界を張れるだけ回復すれば良いんだ

そんなに時間はかからないだろう早ければ10年もしない。

「準備はもう始めないとな」

ここでの荷造りは今後に大きな影響を与えそうだ

誰に言われるでもなく真剣になるものだ。

年が明けました

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