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まだ平穏だった高校生活

県立春名見(ハルナミ)高校。

日本全国どこにでもあるような、普通科だけの公立高校。

俺、橋谷尚広と幼なじみの白沢美羽はそこの1年6組に所属する学生で、共に軽音楽部の部員だ。


「タカ、宿題やってきた?」


朝、笑顔で俺の前にくるときは大体用件は決まっている。


「メロンパンとブラックコーヒー。」


そう言いながら、俺は宿題をやり終えたノートを美羽に渡す。


「さすがタカ、話がわかる♪」


美羽は上機嫌でノートを受け取ると去り際に、


「メロンパンはいいけど、コーヒーは勘弁ね。」


と言って自分の机に座ると、一心不乱に宿題を写しだす。

中学生の頃から変わらず続く、朝の伝統行事と言っても過言ではないだろう。

夏休みの終わりには毎年俺の家で、勉強会という名の写経大会が行われている。


「タカ~、ここ間違ってない?」


が、不思議なことに成績は俺とほとんど変わらない。

悲しいかな、この世界には努力しなくても頭のいい奴が存在する。

白沢美羽もその1人だろう。


「これでメロンパンもチャラだね。」


どうだと言わんばかりのドヤ顔で、俺の顔を見る。

どうやら俺の返答を待たずして、コーヒーはなかったことになってるらしい。

そんな他愛のないやり取りをしていると、聞き慣れたチャイムが鳴り響き始業を告げる。

その後はお互い適当に授業を聞き、休み時間は同性の友人たちと過ごしながら放課後を待つ。


「タカ、僕は先に行ってるよ‼」


最後の授業とホームルームが終わると、美羽は我先にと教室を飛び出していった。

部活の時間だ。

俺は自分のベースケースを手に持って部室へ向かう。



第2音楽室。

そこが俺たち軽音楽部の部室であり、練習場所だ。

軽音楽『部』と言っても、部員は俺と美羽を含めたった3人。

部室にはすでにギターを持った美羽と、ドラムセットに座るもう1人の女子部員の姿があった。


「遅いよ、タカ‼」


『大して変わらないだろ』と言おうとしたが、それよりも早くドラムセットに座っていた女子部員が、


「美羽さん、あなたが来てからも30秒くらいしか経ってませんよ。それに橋谷君はベースだけですが、美羽さんはギターとマイク両方用意しなければなりません。きっと準備が終わるのは同じくらいですよ。」


まるで駄々っ子をなだめる母親のように話すのは若宮陽花(ワカミヤヨウカ)、俺たちより1つ上の2年生。しかし、高校生とは思えないくらい落ち着いていて、失礼な言い方かもしれないが、まるで田舎にいるおばあちゃんのような安心感すらある。


「焦らなくても大丈夫です、まだまだ時間はたっぷりありますから。」


そんな先輩の言葉に感化されたのか、美羽も大人しく準備し始める。

それぞれがマイクやアンプの音量チェック、チューニングを順にこなし、少し軽く弾いたところで美羽がギターの音を止めて合図を出す。

その合図を見て俺と陽花先輩も弾くのやめると、部室は一瞬静まり返る。そして、


「それじゃ、早速始めよう‼」


美羽が始まりを宣言する。

その言葉を聞いた陽花先輩が、スティックでカウント出しをして俺たちは一斉に演奏を始めた。





…ここまでが夏休み前、俺がまだ『平穏』な生活をしていた頃の話だ。

当時はまだ当たり前すぎて、その生活が『平穏』だなんてことは一切考えてなかった。

しかし、俺はそのとき過ごしていた日常は、ありがたいほどの『平穏』だったことを俺は思い知らされることになる。





入学してから3ヶ月半、俺たちは高校生活で初めての夏休みを迎えた。

部活漬けの運動部や遊び放題の帰宅部など様々だが、軽音楽部は週に3回練習することになっている。

今日はその初日、7月22日だ。


「おはようタカ、頼みがあるんだ。」


会って早々何か要求してくるのはいつものことだ。が、夏休みはまだ始まったばかりだ。


「どうした、宿題写すにはまだ早いだろう。さすがに俺も終わってない。」


「いや、宿題は2学期の直前でいいよ。僕も高校生になったし、少しは自分でもやるつもりだし。」


全部自分でやるということは全然考えてないらしい。


「僕が作詞するから、作曲して欲しいんだ。夏休み終わった後の文化祭でそれをやろう。」


…美羽はたまに突拍子もないことを言い出す。が、今回は特にひどい。俺は作曲なんて1度もしたことがないし、美羽だって作詞なんてしたことはないはずだ。


「」


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