とある日のプロポーズ
雲が少ないせいか今日の星はとても綺麗に光り輝いているように僕には見える。
自宅へと帰るため街灯が少なく暗い住宅街を僕の前を彼女が歩き、僕は彼女の後を追うように歩いている。不意に彼女が僕を呼んだ。
「…もうすぐ私の誕生日なのだけれどプレゼントは買った?」
「それを言ったらサプライズができなくなるよ」
「キミのサプライズはいつもサプライズにならないから平気よ」
くすくすと彼女は笑いながら言った。
僕は「そうかな?」と今までのことを思い返そうとするが彼女は「そうよ」とすぐさま肯定する。僕は「そうだね」と答え彼女と同じように笑う。
「キミはたまにロマンチックな言葉の1つでも言ってみればいいんだよ」
「んー…そう言われてもなぁ」
「何かあるでしょ?」
「んー…あ。“君の瞳に乾杯”とか」
「そんなありふれたものじゃなくて。もっとこうアレンジというかオリジナリティなものを言わなきゃ」
「そう言われても…んー。なんだろ。…あ。“僕の心がバスガス爆発”」
「なにそれ!」
可笑しそうに彼女は笑う。僕も笑いながら「誰かからか聞いたんだ」と経緯を言う。彼女はとても面白かったのか笑い続けている。僕は不意に先ほどまでの誕生日の話題を思い出し、彼女に問う。
「そういえば。ほしいものでもあったの?」
「え?あー…まあ、あると言えばあるし無いと言えば無いかな」
「なにそれ?欲しいのあるなら言いなよ。僕が準備できるものなら準備するから」
彼女は止まる。つられて僕も止まる。彼女はちょうど街灯の下でまるでスポットライトに照らされ、僕はその中は居らずまるで外野の人間の様に感じた。そんなどうでもいいことを思っていると、彼女は振り返る。
「…それならキミの名字を私にちょうだい」
「え?それって…」
「これ以上は私からは言わないからね」
彼女は口を尖らせ言う。僕は思考が停止してしまい、彼女はそれを頬を膨らませ不満げに睨む。
「えっと、そういうことだよね?」
「キミと私がちゃんとシンクロしてればそういうことだね」
「…そっか」
「そうよ。で。何か言うことは?」
両手を腰にあて、口を尖らせ彼女が言った。僕は彼女へと近づき、両手を握る。
「…結婚しよう」
「…遅すぎるよ、ばか」
彼女は顔を赤らめながら口を尖らせたまま言う。僕はそれに「ごめん」と小さく笑いながら謝った。そのまま僕たちは手を繋ぎ、足を踏み出す。
時間差でだんだん恥ずかしくなり僕はそれを隠すように空を仰いだ。相変わらず星は綺麗に輝いている。ふふふと隣から笑い声が聞こえ、彼女を見るとなにやら楽しそうな顔で僕に言う。
「なんかあれだね」
僕はなにを指してるのかわからず首を傾げながら「あれって?」と聞き返す。しかし彼女は「あれはあれだよ」とそれしか言わない。何度か繰り返したのち呆れたように、けれど楽しそうに言った。
「もう。…今の気持ちをね。あなたに言うなら」
「うん」
「“私の心がバスガス爆発”だよ」
僕は彼女の言葉に小さく笑い、僕の気持ちも伝えるため口を開く。
今日の三日月がまるで僕らを見て笑っているようだった。
「僕も――」