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24)シャカル <悪夢2>

 シャカルの知り合いの魔法使いの老婆のもとに、若い少女が弟子入りした、らしい。

 名前はアンボメ。いけ好かない少女だった。自分は頭が良くて、しかも美しくて、周りとは違う特別な人間だと思い込んでいるようなのだ。


 確かに人目を惹く容姿をしているが、息を呑むほどの美しさではない。それなりに整った容姿と、控えめな胸の膨らみ以外、別に魅力もない。

 自分で自惚れているほど、賢くもないようだ。所詮、田舎者。この老婆に弟子入りしたこと自体、センスに欠ける選択だとシャカルは思った。

 何より、自分が特別だと思い込んでいるその感性が、あまりに凡庸ではないか。魔法使い志望の若者にありがちだ。特に女にな! 


 「ちょっとそこをどいてくれる」


 玄関先で老婆と話しこんでいたら、居丈高にそのように言われた。それがアンボメとの出会いだった。


 「そこをどいてくれる、だって? あいつ、どこかの貴族のお嬢様か?」


 シャカルは老婆に尋ねた。当然、どこかの貴族の娘が、このようなみすぼらしい魔法使いの家に出入りするわけがないから、それは皮肉であったが。


 「さあね。ただの家出少女だよ」


 老婆が言う。


 「しかし下女じゃないだろ、あれは」


 「魔法使いになりたいそうね、とりあえず熱心に勉強しているわ」


 「あんたの弟子か」


 魔法使いは、性格の悪い女に向いている職業だ。案外、彼女は天職を見つけたのかもしれない。「すれ違ったときに乳臭い匂いがした。その臭いは嫌じゃない。俺の弟子にしたいくらいだ」


 シャカルはアンボメの後ろ姿を舐めるように見続ける。

 ほっそりとした身体つきだ。痩せっぽっちでまだ女の気配は漂っていない。しかしそれこそ、まさにシャカルの好むタイプだ。


 「あれ? あなたは男にしか興味なかったんじゃないのかい?」


 老婆が真剣な口調で言ってきた。「この前、追いかけ回してたのは、男の子だったじゃないか」


 「女は嫌いだよ。柔らか過ぎて気持ち悪い。しかしあれくらいの年頃なら、少年も少女も、身体つきに大差ないんだぜ。知らないのか、そんなことも」


 「知りたくもないわ。あんたの趣味なんて」


 老婆が吐き捨てるように言う。シャカルはそんな老婆を笑う。

 男も女も、シャカルにとって獲物でしかない。自由を奪い、組み伏して、殴りつけながら、姦る。「もう止めて下さい」と哀願されるのが心地良いのだ。その声がないと、絶頂に達することが出来ない。


 (俺は呪われた生き物さ)


 しかしシャカルは小柄で、力も弱いから、その行為のときは専ら魔法に頼る。この為に、彼は魔法を覚えたのだ。魔法で攻撃して、脅かし、獲物を縄で縛る。


 「なあ、婆さん、あの子、俺にくれよ」


 「馬鹿を言うんじゃない。あんな金づる、私が手放すわけないだろ。ちょっとでも、ちょっかいを出せば、あんたを殺すよ」


 「金づるか。やはり金を持っているのか」


 この老婆に勝てるだけの魔法の力は、シャカルにはなかった。

 しかし老婆を殺してでも、この少女が手に入れたくなってきた。さっき言われた、「そこをどいてくれる?」という言い方がとても気に障ったからだ。あるいは、そこが気に入ったのかもしれない。


 いつか老婆を殺すことにしようとシャカルは思った。正面から立ち向かっても勝てないが、戦い方はいくらでもある。

 しかし老婆を殺すために、最低でもエメラルドが三つは必要であろう。それくらいの宝石がなければ勝負にならない。


 更に老婆を殺したあと、あの少女を捉まえて、自由を奪わなければいけない。

 彼女も魔法の嗜みがあるようだ。力づくでは無理だ。それを行うためにも宝石が必要である。この想いを遂げるためには、それなりの大金を貯めなければいけないだろう。


 (だとすると、いつもの楽しみをしばらく我慢しなければいけないな)


 シャカルの人生の楽しみは、好みの男や女を組み伏して、弄んだり、殴ったりすることである。それを行うためにだって魔法を使うのだから、宝石が必要なのである。

 シャカルは貧乏だ。蓄えは一切ない。手に入った金をすぐに宝石に買え、獲物を待ち伏せするのが彼の人生。


 (大きな殺しの仕事を請け負うか、でかい屋敷に強盗に入るか、どっちにしてもリスクがある。失敗すると、何もかも失う。下手すると死ぬ)


 しかし、この少女が簡単に手に入りそうにないことがわかると、尚更、その欲望が胸を突いてくる。

 その欲望で胸が掻き毟られ、夜も眠れない。

 手早く欲望を抑えるために、稼いだ金を宝石に変えて、手近の男や女を襲う。あの少女の姿を重ねながら。

 しかしそのせいで、少女の存在はますます遠ざかっていく。


 (俺がこんな小娘に執着するなんてな)


 シャカルはそんな戸惑いを感じる。しかし老婆の家でその少女とすれ違うだけで、下半身が熱くなるのだ。


 (俺を虫けらでも見るようなあの視線が、堪らなく刺激的なんだ。あいつの心には、俺と同様、優しさの欠片もない)


 シャカルは、気に入ったものを前にして物怖じするタイプではない。彼は何度もその少女に話し掛けた。あわよくば、言葉巧みに誘い出して、手足を縛るチャンスがあるかもしれない。

 もちろん、少女は彼の誘いにまるで反応を見せず、ただシャカルの前を素通りするだけ。


 しかし、あるとき奇跡が起きた。

 その奇跡は決してシャカルにとって全面的に好都合なものではなかったが、結果的にアンボメを手中に収めることは出来たのである。

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