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禁じられたアリス  作者: 右藤秕
Ep02 赤黒の月
11/26

Ep02_05 月へ02

20150705 2章全体を1話10000文字以内で再構成。他、細かい修正。


―――――――――――――――――――

◆月へ

―――――――――――――――――――


 軌道列車がステーションに到着し、乗客が一斉に吐き出された。


「わー、スゴーイ!! へー、結構ちーさいんだー。ね、(シイナ)くん」


 倫子が振り向くとそこに秕の姿は無く、上空で悲鳴が聞こえた。


「ひーっ 重力があーーー」


 静止衛星軌道にあるステーション内部はもちろん無重力である。秕はくるくると回転しながら飛んで行き、ステーションの反対の壁に激突した。たくさんの冷ややかな視線が、秕の背中に突き刺さる。


「たく、なにやってんだ。秕」


 秕の目の前に、優雅にアリスが漂って来た。


「ア……アリスちゃん? よかった。追いついたんだ!!」

「ふん。せっかくお前の顔を見なくてすむと思ってたのにな」

「そんなあ……」


 半泣きでアリスに近づこうとした秕だったが、体をうまくコントロールできない。


「もう、やっぱりダメね。お兄ちゃんには、わたしがついてないと」


 無重力に手間取る兄を妹がそっとささえてバランスをとらせた。どちらが年上だか分からない。


「ありがとう、菜乃(ナノ)

「……ふう。間に合った」


 壁をつたわって倫子もこちらにやって来る。やっとのことで皆と合流できた。


「遅いぞ、りんこ」

「へへ。ごめんね」


 恥ずかしそうに倫子は笑った。


「いやー、しかし、一時はどうなることかと……」


 額の汗を秕はぬぐった。ほっとしたのか、腹の虫が鳴く。


「そうだ、ご飯は?」

「もうみんな食べ終わったところよ。もうすぐ出発だもん」


 菜乃が残酷な事実を告げた。


「そこの二人はお昼ヌキね。遅れたバツよ」


 担任教師の鮎川(アユカワ)あゆかが二人の頭を軽くはたいた。


「そんなああ……」



**********



「それよりアリスちゃん」


 秕が、そっとアリスに近づいて深刻な顔で耳打ちする。


「あん?」

「無重力でスカートはまずいんじゃ……?」

「なんだ、そんなことか」

「そんなことって」

「心配するな。私はいつもブルマをはいている」


 ブルマとは、今世紀始めに絶滅したかと思われた女子用体操着だが、最近になって復活の兆しを見せ始めていた。特によく動き回るアリスにとってこれは必需品となっていた。

 アリスがスカートに手をかける。


「わーっ、見せなくていいからっ!! (いや、見たいけど) ここじゃだめーっ!!」

「ただの体操服だろ? 気にしすぎだ」


 まるっきり動じた様子も無く、堂々と答える。


「アリスちゃんが気にしなさすぎだよ。そういうのスキなマニアがいるんだから!!」

「お前か!!?」

「ち、ちがうよーっ!」


 秕の心配をよそに、当のアリスは全く気にしている様子はなかった。確かに、ただの体操着なのだから、ことさら騒ぎ立てることもないはずなのだが……。



**********



「MSL24便、12:20発、月面ネクロポリス行き。ただいまより機内へご案内いたします。搭乗のお客様はすみやかに発着ゲートまでお越しください」


 アナウンスを聞いて、担任の鮎川が手をあげる。


「はーい、みんな集合!! それではここで高速観光シャトルに乗り換えて、月面の枢機軍本部まで一気に行きまーす。せーれつしてくださーい!!」


 ステーションのシャトル発着ドックが開き、秕達の乗った中型のシャトルが出航する。静止軌道ステーションを出たシャトルは、そのまま月へは向かわず、一旦、軌道列車のレールにそって終点の高軌道ステーションまで移動する。高軌道ステーションには高速で艦船を射出するためのカタパルトがあり、彼らのシャトルもそれを利用するのだ。

 それなら最初から高軌道ステーションまで軌道列車で行けばよさそうなものだが、静止軌道ステーションから高軌道ステーションまではさらに数万キロあるので、軌道列車だと時間がかかりすぎるのだ。


 秕達を乗せたままカタパルトに入ったシャトルは、地球の自転による遠心力の力を借りて、宇宙に射出された。秒速約20Kmのスピードで一行は月へ向かう。

 シャトル内では、ゲーム大会やカラオケ大会等をしながら航海は順調に進み、約半日でシャトルの眼前に白く荒涼とした天体が出現した。生徒達は一気に静まり返り、息を呑んでその衛星を見つめた。しばらく誰も声を出さなかったが、耐え切れず秕が声を漏らした。


「……月だ」




―――――――――――――――――――

◆統括本部

―――――――――――――――――――


 ネクロポリスと呼ばれるこの都市は、月の南極付近にある人類初の月面基地を大規模に改修増設したもので、約80万の人々が生活をしていた。

 都市の中心は軍関係の建物がしめていて、そのまわりを取り囲むように住居や商業、娯楽施設等が立ち並んでいる。また都市の港や上空には、枢機軍の火星機動艦隊、月機動艦隊、寄港している米軍の第二艦隊などが駐留していた。

 都市の中心に「国連軍統括本部」はあった。この施設は、国連枢機軍の中枢である宇宙艦隊総司令部も兼ねており、約六万人の将兵や技官などの軍関係者が常駐していた。



**********



 ネクロポリスに到着した浦上学園の遠足一行は、街のはずれにあるホテルに落ち着いた。隣には小奇麗な公園がある。


「それでは、夕食まで自由行動です。迷子にならないように、グループで行動することー」


 担任教師の声を半分聞き流して生徒達の歓声がひびいた。彼らの大半は隣の公園や娯楽施設に出かける。公園の中には草木が植えられ、池や小さな丘が作られていて、月で生活する人たちのささやかな癒し空間になっていた。生徒達は思い思いの場所に散らばって、それぞれ1/6の重力を堪能していた。


「スゴイスゴイ、ろくぶんのいちー!!」


 同じく公園に出た菜乃が、低重力を利用してぴょんぴょん飛び跳ねている。その横で秕がぐったりと座り込んでいた。シャトルに酔ったのだ。


「うう、きもちわる……」

「まったく、情けない奴だな」


 秕の前に、ふわりとアリスが着地する。


「そんな事でホントにPM(プレイトメイル)パイロットになれるのか?」

「もちろん!! ……うぷ」


 青い顔をして、口元を押さえる。


「まあいい。そろそろ行くぞ」

「どこへ?」

「聞いてないのか? 私とお前とクロウは、明日から枢機軍統括本部で特別研修がある。クロウも探したんだが、見つからなかった」

「ええー? そんなの聞いてないよっ! どーして突然そんな?」

「突然なものか。遠足のプリントの裏にちゃんと書いてあったじゃないか」

「裏……」

「お前はPMのパイロットになるんだろ? だったら宇宙活動訓練は必須だ」

「じゃあ遠足は?」

「これで終わりだな」

「そんなあ。せっかくアリスちゃんと幼なじみを卒業……」


 アリスの無慈悲な平手打ちが秕の頬を5往復した。


「さあ、アリスちゃん、行こうか……」


 秕は、頬をはらして力なく言った。


「菜乃は新しい機械の実験するんだよね? ここからは別行動に――」

「わたしも行く!!」


 兄のセリフをさえぎって妹は言った。


「実験は?」

「いいのいいの。そんなの後で」

「菜乃、一体なにしにきたのさ?」

「も、もちろん実験するためだけど……それともう一つ」


 菜乃はあたりの様子を伺い、声をひそめて話した。


「……実は、この月で『対霊兵器』の開発が進んでるって噂があるの。統括本部に行けば何か分かるかもしれない」

「対霊兵器?」


 三人は統括本部に向けて歩き出した。



―――――――――――――――――――

◆市内

―――――――――――――――――――


 ネクロポリス市内は活気に満ちていた。レゴリスから作られた町並みは、都会的SF的ではあるが、緑が多く、天井を覆う巨大なドームには空が映しだされている。通行人が跳ねるように歩いているのを除けば、地球とさほど変わらない風景が、ここにはあった。

 それでも、未知の敵による侵攻の噂は、人々の心に暗い影を落としていた。


「木星に続いて、土星、海王星、天王星が敵の手に落ちたようだな。どんどん包囲網が縮まっていく……。このままだといずれ、地球も……」

「最近、ここネクロポリスでも変な気配を感じるんだ。背筋が凍るような、変な気配を……」

「敵の正体がゴーストだって噂、ほんとかな」

「さあな」


 住民の無責任な噂話が近くを通りかかった軍関係者の男の耳に入った。男は短く舌打ちをする。


「霊なんて存在するわけが無い。馬鹿らしい」

「そんなのわからないじゃないですか」


 男の同行者の一人、侮りがたい眼光をたたえた少年が反論する。少年は別に男の同僚ではなく、所用で一時的に同行しているだけだ。


「ちゃんと科学的に調べれば、ひょっとするとなにか証拠が出るかもしれません」

「これだから素人は度し難い。再現性の無いことは科学では検証できない。科学的に霊の存在を証明するには、同じ現象が検証可能な状態で何度も起こらなくてはならない。それが出来ないってことは、これは科学的な現象じゃないってことだ」


 バカにしたように、男が少年の言を否定する。


「それに、あらゆるセンサーに霊は引っかからないんだから、検証のしようもない。よって、霊は存在しない。幻覚なんだよ、幽霊なんてものは」

「あらゆるセンサー? 人間は、宇宙の全ての事象を観測できるセンサーを持っているとでもおっしゃるのですか?」

「いや、それは……」

「それに、幻覚。それって、科学的に検証出来ないのですか?」

「あん? 幻覚を? ……出来ないことは無いと思うが。だが、霊の正体が幻覚だとしたら、話はそこで終わりだろう」


 少年が、メガネを軽く押し上げた。


「こんな話を聞いたことがあります。人間の頭に、ある種の低周波を当てると、目を閉じていても何かモヤモヤした影が見えるそうです。もし、霊が幻覚だとすると、霊の正体は『何らかの波長を発し、人に幻覚を見せる存在』、ということは出来ないでしょうか?」

「…………」

「その存在が果たして死者の魂なのか? 異次元の生命体なのか? 意思を持っているのか? 等はおいておくとしても、少なくともまだ検証の余地は残っていることになる。つまり、あなたが言う『検証できないから霊は存在しない』という説は成り立たない」

「う……。そんなのはヘリクツだ!! だからといって霊がいる証明にはならないぞ!!?」


 男がムキになって反論した。


「まあ落ち着いてください。私は何も『霊は絶対存在する』と言っているわけじゃありません。ただ、あなたが『絶対いない』とか言うから、断言するのはおかしいんじゃないか、と思っただけです。『限りなく可能性は低い』というのならまだわかるんですが」

「低いも何も……それは……あーもう、やめだやめ! こんな話、議論することすらバカバカしい!!」

「バカバカしくて深く考えても無いのに、よく完全否定なんか出来ましたね」

「常識で考えてみろ、霊なんているわけないんだよ、絶対に!!」

「常識で考えてたら、常識外の存在を発見することは永遠に不可能でしょうね」



―――――――――――――――――――

◆ヨシュウ

―――――――――――――――――――


 しばらく歩いて秕たちは統括本部に到着した。普通の施設とは違って、軍隊特有の張り詰めた空気が漂っている。兵士達は皆真剣な表情で一分の隙も見受けられない。

――いや、中には例外もいるようだ。


「やあ、よく来たね!!」


 統括本部ビルの玄関ホールに入った秕達を迎えたのは、受け付け係の青年だった。……少なくとも秕にはそう見えたが、アリスが肘で彼をつつく。


「よく見ろ、階級章を」

「……!? しょ、少将!!?」

「いやー、申し遅れました。私は火星機動艦隊司令官ソン=ヨシュウ少将です。どうぞよろしく」

「か、艦隊司令!!?」


 少将というと、普通は年季の入った中年以降の人物を思い浮かべるものだ。もちろん、枢機軍でも大半の将校はそれ相応の年齢に達している。ヨシュウの場合が例外なのだ。


「おや? クロウ君がまだのようですね。まあいいか。行きましょう…………と、その前に」


 歩きかけた足を止めて、ヨシュウが菜乃に向き直った。メガネがキラリと光る。


「そちらのお嬢さんは?」

「ああ、スミマセン。妹の菜乃です。ついて来ちゃって。やっぱりマズイですよね。部外者が勝手に入っちゃ……」

「菜乃さん? ああ、あなたが……」

「え? わたしのこと知ってるの?」

「あ、いえ」


 あやふやな返事をしてから、若い少将は続けた。


「まあいいでしょう。私が許可します。一緒に来てください」

「あ、ありがとうござ――」

「――だだし!!」


 秕の返事にかぶせるように、ヨシュウは少し強い口調で言った。菜乃の正面に立ち、それまでのお気楽な調子からうって変わって真剣な表情で続ける。


「ただし、菜乃さんには私の『いもーと』になっていただきます!! これからは、私が兄として菜乃さんの面倒を見ますので」


 ぽっと、ヨシュウの顔が赤く染まる。


「は!!?」


 ヨシュウ以外の全員が、一瞬あっけにとられたが、菜乃は迷わず断言した。


「お断りしますっ!! 私の兄はおにーちゃんだけですっ!!」


 そういって菜乃は秕にくっついた。


「…………!!」


 ヨシュウの顔が凍りつき、うつむいて何かに耐えるように黙りこくった。


「……そう……ですか……」


 蚊の鳴くような声でそれだけ言うのがやっとだった。


「て、提督……?」


 心配して秕が声をかける。だが、それは無用の心配だった。


「ま、しかたないですね」


 次の瞬間にはヨシュウはもとの明るさを取り戻していた。驚くべき切り替えの速さだ。


「では、気を取り直して先を急ぎましょう!!」


 ヨシュウはさっさと歩き出した。


「……このひと、ただものじゃない」

「……いろんな意味で……な」


 秕とアリスが不安げにつぶやいた。




―――――――――――――――――――

◆辞令

―――――――――――――――――――


 三人はビルの最上階にある一室に案内された。豪華な内装の広々とした部屋で、気難しそうな大人たちが数人、一行をにらみつけていた。国連防衛委員会の首脳陣と、枢機軍艦隊司令長官が彼らを待っていたのだ。


「……なんだ、このガキどもは」


 最年長の国連防衛委員会、防衛委員長がしわがれた声で言った。


「は。彼らは浦上学園の生徒で、このたび辞令を受けるために出頭させました。防衛委員長閣下」


 ヨシュウが秕たちを紹介した。秕が緊張で硬直する。


「(え? 防衛委員長って……まさか、国連防衛委員会の?)」


「ご苦労」


 モーガン=ベルアルビ元帥が落ち着いて答える。


「(はっ? あああの人は、授業の資料で見たことある……た、たしか枢機軍の艦隊司令長官!!?)」


 秕の顔から一気に血の気が引いた。


「(そそそんなっいきなりこんな偉い人たちに会わされるなんてーっ!!)」

「(お兄ちゃん、落ち着いて……!!)」


 動揺丸出しの秕を、菜乃はヒヤヒヤしながら眺めていた。


「こやつらが浦上学園の。……ということは、この中に例の『切り札』がいると言うことか?」

「はい。秕くん。前へ」

「は、はひ」


 ヨシュウに促され、ふらふらしながら秕が一歩前に出る。


「これが、『切り札』だと?」

「…………」


 緊張で、金魚のように口をぱくぱくさせながら、秕は、倒れないように立っているのが精一杯だった。


「これは何の冗談だ、ベルアルビ!!」


 老人が青筋を浮き立たせて怒鳴り声を上げた。委員会の首脳陣にも落胆の色が隠せないようだ。そこここでため息が聞こえる。


「……冗談ではありません」

「ふざけるなっっっ!!!! こんなコゾウが『切り札』だと!!? ワシをバカにしとるのか、キサマ!!!」

「……事実です。現に彼は、幾度もマガツカミを撃退しております」


 ベルアルビのフォローも効果なく、老人はがっくりとイスに沈み込んだ。


「……枢機軍の堕落、ここにきわまれり」


 切り札は老人にとって最後の希望だった。その大きすぎる希望と、秕の第一印象とがあまりにもかけ離れていたために、老人の受けたショックは相当なものだった。彼の最後の望みは、ここで見事に断ち切られたのだ。まるで今この瞬間に、地球が滅びてしまったかのような落ち込みようだった。


 ここまで言われると、秕は逆にほっとしていた。過度の期待をかけられるよりよほどラクだ。次第に緊張もほぐれていった。


「ソン少将」

「は」


 ベルアルビがヨシュウに書類を渡す。いつまでも老人にかかわっているヒマは無い。さっさと用件を済ませることにしたのだ。


「辞令を言い渡します。『ヒノミヤ アリス、ユヅキ シイナ、ミズナギ クロウの三名を、本日1900をもって枢機軍火星艦隊所属、少尉候補生に任ずる』」


 辞令を受け取る秕の顔が輝いた。


「……ぼ、ぼくが、少尉候補生?」


 少尉候補生とは「士官学校」の生徒に仮に与えられる階級で、本来ならば「士官学校付属中学」の生徒である秕達には与えられる事はない。これは特例措置なのだ。


「し、信じられない……」


 心の中で、秕は飛び上がって喜んだ。仮とはいえ少尉候補生に任官されるという事は、枢機軍に入隊することを意味する。しかもアリスと一緒に。彼の夢にまた一歩近づいたといってよい。もっとも、防衛委員会には別の思惑がある。


 防衛委員会の首脳陣は極度の焦燥感にかられていた。敵に対抗する術のまったくない現状で、反撃のために使えるものは何でも使いたい心境なのだ。色々問題があるとはいえ、これからの戦いに秕の持つスサノオの力が必要なのは認めざるを得ない。また、アリスやクロウのような実力をもった人材を遊ばせておく余裕もない。だからといって、中学生を戦場に引き出す訳にもいかない……というジレンマが生じる。そこで、そのジレンマを解消するべくひねり出した苦肉の策が「少尉候補生」ということなのだ。仮でも何でもいいから入隊させてしまえば、後は自由にコキ使うことが出来る。問題が起こっても軍の内部で内密に処理出来る。……というわけだ。


「まあ、仮入隊ですけどね。これからはわが艦隊所属のアーマチュア部隊で特訓を受けてもらいます。よろしいですね?」


 ヨシュウが真面目くさって言った。


「はっ」

「が、頑張ります!!」



**********



 秕たちは部屋を退出した。珍しく興奮した秕が、辞令の書類を嬉しそうに何度も何度も読み返している。


「はあ。これで僕も枢機軍の一員かあ」


 浮かれる秕を、さめた目でアリスは見ていた。どことなく不安を感じながら。


「これからもよろしくね。アリスちゃん。アリスちゃんのことは僕が守ってあげるからね」

「フン。威勢がいいな」


 ドアが開いて、ベルアルビとヨシュウが出てきた。


「あ」


 再びしゃちほこばる秕だったが、しかし、どこか表情がゆるんでいる。対照的に、ベルアルビの表情は厳しいものだった。


「――だが。その程度の腕では使いものにならん。次に戦場でキサマを待っているのは……死だ!!」

「!!」


 秕のテンションは急降下していった。ベルアルビの言葉で一気に現実に引き戻されたのだ。


「そうなる前に、とっとと地球に帰るんだな」


 それだけ言って、長官は歩み去った。


「そ、そんな……」


 落ち込む秕にヨシュウが声をかける。


「まあ、長官が言ったことは気にせず、とりあえず宿舎へいって休んでいてください」



 【続く】



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