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ケモノパレード  作者: 黒宮湊
1/4

出逢い

ここイギリスの首都ロンドンの街のどこかに、大きな大きなお屋敷があり、その屋敷には狼男が住んでいるという噂がある。

その屋敷は強く願う者の前に現れるらしく、しかも2回出会う事はないと言われている。

この噂はわずかな人の間で行き来しているものなので、知っている人は少ないようだ。

それを耳にした私はこの屋敷の事を調べて、自身が書いている雑誌に載せようと思っている。

怪奇現象や都市伝説についての雑誌なのだが、最近は不景気で雑誌が全くと言っていいほど売れない。

だからこの噂のお屋敷へ行って噂を立証した記事を書きたい。

そしたら売れ行きが良くなるはずだと思う。

私の他にもこの屋敷に行きたいと思っている人がいるはずだから、そんな人たちのためにも、私はこのお屋敷に行く事を決めた。


「う〜ん…。この辺りだって噂だったんだけどなぁ…」

私は、そのお屋敷の噂について書かれた1つのホームページを見つけ、そのお屋敷と出会えるかもしれないという場所にやって来た。

もう2時間くらい、辺りをフラフラと歩き回っているのだが一向に大きなお屋敷は見当たらない。

"強く願う者の前に現れる"、という噂があるくらいだから、一定の場所にあるわけじゃなさそうだ。

私、結構強く願ってると思うんだけどな〜…。

「ここじゃないのかな…?」

もしかしたらどこかへ移動したのかもしれない、と思った私は振り向いて歩き出そうとした。

が、

「うわあっ!?」

「きゃあ!?」

なんと誰か思い切りとぶつかってしまった。

早朝だし路地裏だから周りには誰もいないと思っていたのに…。

「イタタ…。あっ! だっ大丈夫でしたか!?」

「大丈夫大丈夫。急に振り向くとは思わなかったよ〜」

「はい?」

私とぶつかったのは何だか軽そうな青年。

少し長めで外ハネの緑がかった白銀の髪に、綺麗な緑色の目をしている。

「君、こんな所で何してたの?」

「えっ、あの…」

「なんてね」

「は…?」

何この人…?

新手のナンパ…?

「カルロ! お客様だ!」

カルロ?

誰?

ってゆうかお客様!?

何の話!?

これ勧誘とかそういうやつ!?

「あ、驚いてるね〜?」

「あ、あの…!?」

「大丈夫大丈夫。君が望んだ所に連れて行くからさ」

「私が…望んだ所…?」

「………俺らの屋敷に、来たかったんでしょ?」

「えっ…?」

と、驚いた瞬間、

「は!? えっ!?」

突然周りが濃い霧に包まれた。

さっきの人の姿も見えない。

「な、何これ!?」

どうしよ!?

こんなに濃い霧じゃ、帰り道も分かんない!!

さっきの人もどこに行っちゃったの!?

「カルロ〜。この演出はもう十分じゃない〜? てゆうかこの演出以外ないわけ〜?」

あれ?

さっきの人の声だ。

またカルロって呼んでる…。

それ一体誰なの…?

「いちいちデカイ声で喋らないで下さい。耳障りです」

「!」

この声、さっきの人じゃない。

誰…?

「貴方ですね。私達に会いたいと願ったのは」

その声がした方を振り向くと、コツ…コツ…と静かな足音が聞こえだした。

「誰…ですか…?」

小さな声で尋ねてみる。

「カルロと申します」

そう返ってきたと共に、足音が目の前で止まった。

姿はまだ何も見えない。

「私は、"案内人"です」

そう言ったカルロさんが指を鳴らすと、濃くかかっていた霧が薄れだした。

そして、

カルロさんの姿が───…

「…………は!?」

目の前には長───い足が。

そして上を向くと、仮面をつけた小さい顔が私を見ていた。

恐らく2mは超している。

「あ。驚きました?」

「あああ当たり前です!!」

あなたを見て驚かない人がどこにいるんですか!!

いくら何でも足長過ぎでしょ!?

「もう一度自己紹介しますね。私はカルロ。"案内人"です」

「あ、あの…何ですかその…"案内人"って…?」

「貴方は私達に会いたいと強く願いましたね?」

「え?」

「お屋敷に行きたいのでしょう? エミリア様」

「なっ何で私の名前…!?」

「すみません。耳が良いもので。で、行きたいのでしょう?」

「………えっと…」

彼は噂のお屋敷に関係ある人物なのだろうか…?

「……行き…たいです…」

躊躇いつつも同意してみた。

お屋敷に行きたいのは本当だし…。

「分かりました。WELCOME! ようこそ我が主人のお屋敷へ!」

「えっ!? わっ!?」

カルロさんが指を鳴らすと残っていた霧が全て晴れ、路地裏にいたはずだったのにお屋敷の中へと変わっていた。

「何これっ!? カルロさんって魔法使いなんですか!?」

「いえ、違いますよ。あと、私の事は気軽に"カルロ"とお呼び下さい」

「えっ…あ…はい…」

「エリーちゃん!ようこそー!」

「うわぁ!?」

さっきのチャラそうな人が肩を組んできた。

「俺はフィリップ・ハミルトンって言うんだっ! 気軽に"フィル"って呼んでくれっ!」

「は、はいっ…。よろしく…フィル…」

「フィル。英国人なら女性には紳士的に接しなさい」

「ぐふぉっ!!」

フィルが自己紹介をすると、カルロが長ーい足でフィルのお腹をドスッと蹴った。

「ちょっ…! カルロ…! 手加減ってもんがあるでしょうが…!」

「さ、エミリア様。お屋敷を案内いたします」

「無視か!!」

怒るフィルに背を向けたカルロは私の前をゆっくりと歩き出した。

私もカルロの後をついて歩き出した。


お屋敷の中を歩き出してからおよそ30分。

カルロは黙々と私の前をゆっくりと歩き続ける。

「カルロ〜。もっとエリーちゃんと喋ろうよ〜」

私の後ろにはカルロに無視され続けるフィルがいる。

この2人は仲が悪いみたいだ。

「……すごい…」

お屋敷は想像していたものより豪華で大きかった。

"大きなお屋敷"とは、"敷地面積が大きなお屋敷"と思っていたが、大きいのはそれだけではなく、家具も空間も、何もかも全てが普通よりも大きかった。

カルロにはちょうどいい高さかもしれないけれど、私やフィルには届かない。

自分が小さくなってしまったかのような不思議な気分になる。

「あの……カルロ…」

「何でしたでしょう?」

「私は今…どこへ連れて行かれてるんですか…?」

案内すると言われたけど、どこへ向かっているのだろう…?

「怖がる事はありませんよ。今は我が主人の屋敷の住人が集まる部屋へご案内しています」

「住人…?」

「皆いい人だよ〜」

ここには何人か住んでいる人がいるのか…。

「おや、いいところに」

突然カルロが足を止める。

その先に居たのは、スラッとした長身なのに華奢な男性。

赤い髪がとても目立つ。

「あ"?」

………性格はキツいようだ。

「エミリア様。彼はマーク・ルーカス。気軽に"ルーカス"とお呼び下さい」

「何でテメェが紹介して、呼び方決めてんだ」

な、何だか怖そうな人…。

言葉使いも荒いなぁ…。

「……テメェ」

ひぃぃぃ!

睨まれたぁぁぁ!

「…俺に絡んできたら、ぶっ飛ばすからな」

「ごふっ!? またかっ…!?」

そんな物騒な言葉を残し、ルーカスはフィルに蹴りをいれて去っていった。

「よかったですね」

「えっ何がですか!?」

「フィルの時は、"視界に入ったらぶっ殺す"とまで言われていましたから」

うっわ…。

相当嫌われてる…。

「ルーカスは女々しい男と軽い男が嫌いなんです。まあ、基本的に他人は嫌いだそうですが」

あー…。

すごい納得…。

「さっきからフルボッコなんだけど。肉体的にも精神的にもフルボッコされてるんだけど」

「さて、エミリア様」

「また無視か!!」

屋敷に足を踏み入れてからまだ30分しか経っていないのに、フィルの扱いと、カルロの"案内人"という役割が分かった気がする。

ひとまずフィルの扱いは置いておいて、カルロの役割。

多分、屋敷に訪れた人に屋敷に住む住人の紹介をする執事のような役割なんだと思う。

カルロの格好は、執事とも、伯爵とも、騎士とでもとれる、とにかく綺麗な白い燕尾服姿。

さらに白い仮面をつけているため年齢すらも分からない。

歩く度に少し揺れるパーマのかかった白に近い金髪は、照明に照らされるとキラキラ光る。

何というか…とても綺麗だ。

足が長いのが気になるけど。

………これ、本当に全部本物の足なのかな?

…普通に考えて…本物の足な訳がないよね…?

いやでも…、もしかしたら…という可能性も…。

「着きました」

「きょぇっ!?」

あぁぁっ!

いいいいきなり過ぎて変な声が出ちゃった!!

「ぷっ…! くっ…くくっ……!」

後ろでフィルが必死に笑いを堪えている。

「ここが皆が集まる談話室です。皆と言っても、先程のルーカスは滅多に来ませんが」

「わぁぁ!! 悪かった! 悪かったってぇぇ!!」

カルロはフィルに棚に置いてあったいくつかの花瓶を投げつけながら談話室の紹介をする。

「貴方を見たら、きっと皆さん歓迎してくれますよ」

そう言いながら、カルロは大きな扉を押して開けた。

「おはようございます」

「お…おはようございます…」

談話室に足を踏み入れると、座っていた男性2人がこちらを振り向いた。

「紹介いたします。こちら、エミリア様。御客様です」

「よ、よろしくお願いします」

挨拶を済ませるとカルロとフィルに2人のもとへと案内された。

「お客様ですか。フィルがナンパでもして連れてきたんじゃないんですか?」

「失礼な! 俺はそこまで軽くないから!」

「どーだか」

フィルが黒縁眼鏡をかけた男性に難癖をつけられている。

「彼は"エドワード・クレイトン"と言います」

「どうも。まあ、私のことは気軽に"エド"と呼んで下さい」

「は、はい。よろしくお願いします。エド」

何だか知的な感じの人だなぁ…。

灰色の短髪って…、見た目は若そうだけど、実は年齢いってたりするのかな…?

「僕はね! 僕はね! "ウィリアム・アンダーソン"って言うの! 気軽に"ウィル"って呼んでね!」

「は、はい…ウィル…」

な、何だかものすごく元気な男性だな…。

薄い茶髪で短髪というには少し長い髪。

頭の左右に大きなハネがある。

子どもっぽいけど多分歳は近そうだ。

「皆さん。エミリア様がここにいる間、よろしくしてあげて下さいね」

「はーいっ!」

「勿論だよ〜」

「カルロが言うなら」

……皆…性格というか…人種がバラバラ…。

いつもこのメンバーで暮らしていたのだろうか…?

「では、私はそろそろ他の仕事をしに行きます。私は屋敷のどこかには必ずいますので、必要あれば呼んで下さい」

「えっでも、こんなに広いのに聞こえるんですか?」

「はい。私は耳がいいもので」

そう言ってカルロは会釈をして退室していった。

仕事があるってことは、やっぱり執事みたいな感じなのかな…?

「エミリアだから…エリーちゃんだね!」

「それ俺が既に言ってたから!」

……少し心配が残るメンバーだなぁ…。

「エリーちゃん!一緒にお話しようっ!」

「そうですね。"談話"室ですし」

「皆で打ち解けようか。その方が今後過ごしやすいでしょ?」

「はいっ。皆さん、これからよろしくお願いしますっ」

こうしてお屋敷に住む、フィル、エド、ウィルの3人とお話を始めた私だったが、何故か3人の話は所々がおかしい。

フィルは屋根の上や、日向が好きなんだって。

エドは油揚げが好きなんだとか。

ウィルはボール遊びとお散歩が好きなんだそう。

何か人とはズレている3人だけれど、聞いている分にはとても楽しかった。

お屋敷の雰囲気からか、どんな事でもすんなり受け入れられるような不思議な気持ちがする。

まるで夢の中にいるかのような、そんなフワフワした気持ち。

そんな気持ちを抱いたまま、私のお屋敷生活が始まった。

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