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time LIMit→ZERO  作者: NOSUKE@home
第一章;紅篇
7/13

lim7:Red Provocation

「なぁレオ、今日こそは紅花様には会わないんだな?」

「大丈夫だよ、今日も会わないから──」

 日曜日。

 俺の、かなり遅めの起床は、ショージの"さわやかボイス"という名の目覚ましによるものだった。

 一昨日帰って来て紅花さんの家に行ったことを話した時から、コイツの態度はこんなんだった。そろそろ歪んだ愛とやらを考えてしまいそうだ。

「……何だったら、紅花さんに紹介してやろうか?」

「ば、バカ言え!!俺なんかが目の前に立つなんて、し、失礼過ぎるだろうがっ?!」

「あー、確かに……」

 因みに、ショージの机の引き出しには"椿紅花様写真集"なる隠し撮りの結晶がある。

 写真部の紅花さんファンを懐柔(おど)し、授業中、体育、ヒドイものだと更衣室の中でのモノもあるく、何でも、ショージ曰くファンクラブ会長が代々受け継いでゆく(予定の)秘宝らしい。

 その活動自体もって後二年だと言うのに、コイツの熱意だけは脱帽ものだ。──流石に犯罪者にはなりたくないので、俺は一切手を付けていない。と言うか、紅花に失礼過ぎるだろ。

 それと余談だが、実はシイナ先生のファンクラブも同時期に創られたらしい。アレ(・・)の何処が良いのだか。……とは本人の前では口が裂けても言えない。勿論、その妹の前でもだ。

「おい、電話鳴ってっぞ?」

「あ、ホントだ」

 着替え終わって、これから優雅にブランチでも頂こうかと思っていた矢先、自分のケータイ着信に足止めを食らってしまった。

 それを教えてくれたショージの目はギラギラと輝いている。紅花さんとでも思ったのだろうか。

 ディスプレイに映っている"八木カナ"の文字を見せてやると、その輝きはしっかりと雲っていった。これって、噂をすれば、ってやつか?

 因みに一昨日の内に二人の連絡先は教えてもらったのだが、肝心の紅花さんはケータイを持っていなかった。対する八木カナも機械音痴と言う、またアナログな人間だったのだが。

「もしもし?」

『峰渡君?……見たって、くぅさんのことっ』

「──っ!?」

「おいレオ!!」

 気付けば、ショージの制止を待たずして部屋を飛び出していた。

 ──くぅに、会えるかもしれない……っ!

「今、どこ?!」

『え?あー塾の前なんだけど……六花園駅に来て。案内するから』

「分かった!」

 通話終了ボタンを押して、ケータイをそのままポケットへと突っ込む。玄関に行き、自分の靴に両足を突っ込むと、後はもう全力で駅へと走っていった。

 大きな期待と緊張とが、余計に俺の心拍数を上げていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 駅前の広場に着き、辺りをみわたしたのだが、まだ八木カナは来ていなかったらしい。来るのが早すぎたかもしれない。

 五分ほど駅前の広場で待っていると、八木カナは駅の中から出てきた。向こうも此方を確認したようだったので、小走りで近くまで行く。

「随分と早かったね」

「くぅに、会えるからな」

 まだ完全に止まってない汗を拭い、緊張と期待を抑える為に深呼吸をした。

「え?くぅさんには会えないよ?」

「っ?!……そ、そうなのか?」

 丁度息を吸っていた時にそんな事を言われたものだから、喉に詰まって噎せそうになった。それだけ俺にとっては衝撃の事だった。

「あーもう……。『見たって』、としか言ってないでしょ、私は」

 あぁ、そうか。確かにさっきの電話ではそうとしか言ってなかった気がする。

 てっきり、くぅに会えると思って急いでここまで来ていた。それだけに、それが俺の早とちりと分かった時の力の抜け様は、それはもうヒドイものだった。元々壁際で、そこに寄り掛かっていなかったら、その場にへたりこんでいたかもしれない。

「とにかく来てみたら?私も彼女の事、見たってぐらいしか聞いてないし、もしかしたらまだ会えるかもしれないよ」

 慰めだろう、それでも気を遣ってくれたんだから、俺はそれに応えなければならない。

「そう、だな……。ああ、頼むよ」

 駅を潜ると、反対側にはオフィス街が広がっている。そこを更にずっと進むと海岸へと続いている。地元民は一貫して、そちら側を"裏"と呼ぶのだが、俺からしてみれば此方よりも住宅街の方が"裏"っぽくてならない。

 駅の周辺と、海の近くは割と大きな建物が多い。駅前だと大型のスーパーマーケットや何だかの会社、それに大学が入ってるビルまである。……の割に、昼間でも人通りはそこまで多くないのが此方側の特徴だ。

 ゲームセンターの様なモノもあるので、たまにクラスメイトに誘われ行くこともあったが、俺も駅前なんて滅多に来てない。

 休日の昼間だからか、ついこの前、放課後に来たよりは随分と沢山の人がいた。とは言え、歩くのに困難するほど多い訳でもなし、みんな買い物に来た、というだけのようだ。

 少し歩くと建物の数──と言うより高さ、だろうか。そこらあたりが寂しくなってくると、人の流れも急激に少なくなる。

「こんな奥まで来たのは初めてだな」

「へぇ。海とかは行かないの?」

「面倒くさい」

「うわっ……」

 海とは、歩けば駅から小一時間ほどの所にあり、バスも出ているらしく、夏は大層な賑わいがあるらしい。

 しかしここら辺りはそんな賑わいとは無縁の、八木カナと二人っきりだと錯覚しそうな程静かさだ。海だってこの時期じゃ誰もいなそうだし。

 因みに俺は地元民じゃない。だからって、別に泳げない訳でも──ない。

 海やプールで遊ぶのはキライじゃないし、カナヅチという訳でもない。ただ……人前で泳ぎを見せれるほど俺は上手く泳げないらしい。

 小学校前の時に市民プールへ行ったとき、俺は泳いでいただけなのに、何故だか大声で叫ばれ、縄付きの浮き輪を投げられた記憶は鮮明だ。あれ以来それがトラウマになって、水遊びでは絶対に泳がないようしている。

 駅からゆっくり目に15分ほどだろうか?宿泊街に近付き、塩の匂いがほんの少し漂ってきたところで、とあるビルへと到着する。そこの五階が目的地の、『橘アカデミー』と、聞いたこともない名前の私塾だった。あれ、この()って……

「前に話した橘さんの、中学生対象の私塾だよ」

 なるほど、先生とは聞いていたが、塾長か何かをやってたのか。

 堂々とその中学生対象(・・・・・)の塾へと入ってく八木カナを、妙に微笑ましく思ってしまった。──背丈や体型的にもそう(・・)見えなくもないよな。……なんて考えていたところを、またキッツイ目で睨まれてしまった。テレパシーだろうか?

「橘さん、戻りましたー」

「おう八木か。ソイツが例の?」

 中へ入り一度角を曲がると、受付にはとてもだらしのない格好でグラビア誌を読み耽っている無精髭の男──(・・)が塾長の橘さん、なのだろうか?──に出迎えられた。

 八木カナの口調や態度も普段学校とかで目にする優等生気取りの真面目被りではなく、多少抜けた、()の状態だった。……大丈夫なのか、この塾は?

「はい、峰渡君です」

「ほー。

 突然だがお前さん、LIMについて何処まで知ってる?」

「ちょっ──」

 本当に突然だっ!

 って言うか、こんな大っぴらに言って良いものなのか、"LIM"ってモノの事は?!

「あぁ~悪ぃ悪ぃ、まず名前だよな。

 橘幾斗、よろしくなー」

 言った本人はそんな事気にした様子もなく、呑気に自己紹介なんて始めるし。

「じゃなくて!こんなところでその話題出しても良いのかよっ!?」

「あーそのことか。安心しろ。今日は休講になってるんでな」

 しまった、思わず勢いでタメを使ってしまった。……どうやら当の本人は普通に対応してくれたみたいだし、それに関しては心配ないだろう。

 それより、いきなりLIMの事を話しても、本当に大丈夫なのだろうか?ちょっとした不安はあるのだが、催促もされてるようだし、腹を括って話すことにする。

「……タイムリミットがあるのと、強くなったり特殊能力がつくこと。それと、死なないことくらい。……です」

「まぁだいたいそんなもんか。粗方合ってるみたいだし……椿紅花の戦闘シーンにも既遭遇してるんだろう?なら大体は理解してるだろうなぁ。

 ──それと、無理して敬語使わなくていいぞ?」

 橘……さんからお許しを出してもらった。

 正直なところ、この人に対しては敬意が持てなかった。と言うか、年の割にそうは見えない。むしろその眼からは冷たさとか、鋭さとか……上手く言えない何かを感じていた。

「じゃ本題だが──お前さんの探してるのはネルヴェ、だったよな?」

「────っ!?」

 あまりに普通に言うものだから、それが一瞬くぅ(・・)ではないことに気付けなかった。そのまま頷かなかったのが奇跡だった。

「ネルヴェ?くぅ、じゃなくて?」

 八木カナに──勿論、紅花さんにも、その名前を言った覚えはない。

 いや、あの時(・・・)彼女自らが名乗った時に聞こえてた可能性はある。しかしそれなら、紅花さんからの確認が入るハズだ。

 じゃあ、何でだ?コイツは、何でネルヴェの名前を知ってるんだ?

「特徴聞いて、まさか、なーんて思ってたんだがぁ……ビンゴだったか」

 橘は机に放り出していた脚を納め、代わりに頬杖をつきながら話しくる。

 俺は、コイツの策略にまんまと嵌められていたのだ。

 それと今気付いたけど、コイツの眼が鋭いのも冷たく感じるのも、それだけじゃない。コイツ自身から出てる殺気によるモノだって。

「実はな、俺もあの娘に用があるんだ。どだ、手を組んでやってもいいぞ」

「アンタは……何を知ってるんだ?」

 ニヤリ、と汚い笑みを浮かべられる。背筋に悪寒が走り、首筋に鳥肌が立つのが分かった。

「全部さ。少なくとも、3年前に研究所抜けるまでのあの娘に関してはな」

 ──知りたいんだろう?

 言われなくとも、そう問われてる気がした。それは、今知っちゃいけない。

 悪寒が、戦慄へと変わってゆく。嫌気が怒りに変わっていった。

「何でくぅを……ネルヴェを探してるんだ?」

「別に俺個人がってー、訳じゃない。昔いた研究所から要望が来ただけさ。一年ほど前、あの娘が研究所逃げ出したらしくってなぁ。大規模に捜査する訳にもいかないんだと。

 で、元研究員で、且つあの娘の世話係(・・・)だった俺が頼まれたって訳だな」

 ──研究所、

 ──世話係、

 そういった単語に、俺が聞いちゃいけないようなイメージを植え付けられる。不吉な、そして非道なイメージが。

 そんな俺の妄想が、俺の考えた嘘であって欲しい。只々、それだけを思っていた。

 では何で、俺に?

 そんな、研究所とか言われてもピンと来ない。想像もしたくない。そんな所の人間が、何で俺なんかに協力を頼むんだ?

「なんだ疑ってんのか?でもなぁ仕方ないんだぜ?使えるモノは親でも──ってな。

 それに、お前さん達に協力してもらうのには歴とした訳がある。椿紅花だ。既に解放したことのある奴が、お前さんの近くいる。

 ネルヴェ、ってのは凶悪でなぁ。だから、同じくLIMである奴が対処すりゃ、問題ない」

「問題ならあるぞ。……くぅと紅花さんが闘う」

 一瞬の沈黙。そして、それは橘の大笑いに──嘲笑によって潰された。

「こりゃ傑作だ!『タタカウ』、が問題?そりゃ確かに大問題だなっ!かははははっ……!」

 なおも笑い続けるこの男に、そろそろ理性の限界を感じていた。バカにしやがって──

 爪が食い込むほど、痛く、拳を握りしめて耐える。

「まぁ、いいさ。それでも。

 それで本題に戻るが、手を組んでやる。お前さんが彼女を見付けたら俺に引き渡す、俺が見付けたら、送還前に一目会わせてやる。確か、謝りたい、んだろう?

 ──どうだ、悪い話じゃないハズだ」

 さっきからのその、『してやってもいい』って口調や態度が気に入らない。

 考えるまでもなく、俺の口からは断りの返事が出てきている。……ちょっとの棘を含んで。

「そか。まあいい、ならお互い勝手にやってようじゃないか。ただし、テメェが先に見付けようが何だろうが、俺はアイツを連れていく。……それでもいいんだな?」

「あぁ、それでいい」

 一瞥だけしてその場で踵を返した。

 カウンターから出ようとした直前、軽い風切り音と共に目の前を何かが横切っていった。

 横を見てみれば、壁に貼ってあった学校紹介のポスターのモデルとなっている女の子の額に、一本のナイフが刺さっていた。

 驚いて反対側に振り返ると、奴は不敵に笑っていた。

「忠告だ。次にそのナイフを見かけたら、目の前掠るだけじゃ済まないと思っとけよ。なんせ、テメェはこの俺に喧嘩売ってきたんだからな」

 最初っから、それこそ俺が入って来た時から、俺はコイツに遊ばれてたらしい。

「挑発してたのはお前だろ」

「お前さん、面白いからな」

 またニヤリと、追い討ちをかけられた。

 俺はわざとらしく鼻息を荒くして、早足で部屋を後にした。エレベーターを待つのも嫌で、階段を、一段飛ばしで降りていく。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おい八木」

「は、はひっ?!」

 一連の流れを、これまでずっと黙って見ていた、或いは、何も言えなかったカナは、出ていこうとした拍子に声を掛けられ、裏声で返事をしてしまった。

「んなビビんなって。ちょーっとからかってやってただけだろうが。

 ──んな事より、あの野郎をしっかり見張っとけ」

「え……み、見張るって?」

「ほっといたら何しでかすか分かったモンじゃねぇ。ブレーキにでもなってやれ」

 そう言った幾斗の表情は、さっきまで礼於を挑発していた時とはまるで別人のような、──言うなれば、息子でも見るような眼差しをしていた。

 そんな彼の態度に戸惑っているのか、カナは彼を見たっきり固まってしまっていた。

「おいおい、俺がそんな、鬼とかみたいに思ってんじゃないだろうなぁ?」

「だ、だってナイフ──」

 ポスターを見ると、そこには痕跡があるだけで、つい数秒前まであったナイフは跡形もなくなっていた。

「俺は外せる。だがな、中には外さない(・・・・)ヤツだっているんだよ」

「外さない……?」

 カナがそれを聞いたとき、幾斗は既に最初の、だらけきった格好へと戻ってしまった。その言葉の意味は、俺は言わない、とでも言いたげに。

「そうだ、"くぅ"って奴を見たのは、海の側の、一番高いホテルの上で、だ。そっから飛び降りたから、流石に追ってないけどな」

「と、飛び降りたぁ?!」

 彼女が驚くのも無理ない。海の近くのビルは、低くても彼女の学園ほどの高さはあるのだ。まして、一番高いものはその数倍はあるのだ。

 だが幾斗はそれに対して、

「LIMだからな」

 とだけ答えたのだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 こうゆう時、もし目の前に海が広がってたなら「バカヤロー!」とでも叫んでしまっただろう。そんな気分だった。

 少し遠いけどバスも出てるし、なんだったら向こうまで行こうとも考えていた。そこで、ポケットには財布が入っていないのに気付いて、また落ち込んだのも事実だが。

「えっと~……橘さんも、悪ふざけが過ぎただけだよ!気にしない気にしなーいっ!……って、ダメか」

 駅前のベンチでふて腐れてるのを、八木カナは律儀にも付き合ってくれていた。

「先帰ってていいぞ。道、分かるから」

 悪いと思って言った言葉は、さっきの棘がまだ取れてなくて、かなり突き放した口調になってしまう。

「そんな訳にいかないでしょっ」

 それでも、酷く言ってしまってもちゃんと付き合ってくれてるんだから、こいつは相当なお節介焼きなのだろう。

 難儀、と言うか、悪く言えば堅苦しい性格なんだろうけど、今はそれが十分な気がした。なんだか落ち着く。

「私だってまさか、あんな風になるとは思ってなかったし……。なんだかゴメン。

 ──あ、ちょっと待ってて」

 突然走り出したと思えば、向かいにある自販機で飲み物を買ってくる。二つ買った物の内一つを、俺に手渡してくれた。

 今日は割と暖かいのだけど、そこでホットの緑茶を選んで、自分も同じそれを選ぶんだから、やっぱり律儀と言うか、難儀だな、と思ってしまった。

「オゴリ」

「サンキュ」

 プルタブを開け一口、程好い渋みと暖かさに、いきり立った気分はもう、殆ど癒されていた。

「何で断ったの?折角の機会だったのに」

 落ち着いた頃を見計らって、そう訊ねてきた。

「アイツに、くぅを連れていかれるのはなんか嫌だ」

「ふーん……。

 でも、じゃあもしくぅさんを見付けたとして、その時はどうするの?お持ち帰りでもする?」

 こいつの表現は少々下品だったが、確かに、その先の事は決めていなかった。

 少し考えてみる。

 まず、寮にはおけない。見付かれば大変な事になる。勿論学園生じゃないから、女子寮にだって置くことはできない。

 紅花さんの家に泊めてもらうか?……いや、そもそも、彼女にそこまで甘えちゃ駄目だろう。言えば、二つ返事で許可してくれそうなだけに、それだけはやりたくない。

 じゃあどうする?結局は、そこへと戻ってきてしまった。

「決めてないんだ……。

 じゃぁもし橘さんが先に見付けちゃったとして、そしたらどうするつもり?諦める?」

「いや、諦めたくない。何としてでも、絶対にくぅに会って、謝る!」

「はぁ……」

 溜め息をつくと、残っていた緑茶を一気に飲み干してしまった。──って、大丈夫なのか!?女の子とは思えないような悲鳴が聞こえてきたのだが……。

「だ、大丈夫か?」

「へ、へぇひ~……」

 全然平気そうには見えない。と言うか、声が既に変わっていたぞ。

 咄嗟に背中をさすってしまったのだが、こういう時ってどうしたらいいんだろうか?

 冷たい水──は、自販機にはあるのだが、手元にあるのは同じく熱いお茶だけだ。

「海の近くの、一番高いホテルの屋上、だって」

「え?」

「くぅさんを見たって場所。峰渡君、橘さんから何にも情報教えてもらってないもの。」

 確かに、LIMや、ネルヴェの事について聞く絶好の機会だったのかもしれない。

 ──知りたいんだろう?

 確かに、アイツもそう訴えかけていた。……それを突き放してしまったのは俺のミスなのだろうけど。

 それより、八木カナの復活の早いの何のって──まさかLIMだったり?……こいつなら、あり得る。

「私はLIMじゃないよ!」

 考えを読むな!……ってまさか、本当に読まれたんじゃないだろうな?

「だいたい、いくらLIMだからって本来は普通の人間だよ。コウだって、普段はちょっと強いだけの、普通の女の子。火傷だってするし、LIM化でもしてなければ傷もなかなか治らない、普通の人間なの。……そこ、間違えないで。

 ──ってこれ、コウから聞いてないの?」

「あー……じゃあ、本当にLIM化してる時だけなんだ」

 そう言うと、盛大なため息と共に例のジト目顔──もう、ヤギフェイス、いや、カナフェイス?とでも名付けてしまおう──を向けられる。

 ……でも、そうなのか。いくらLIM化できる人でも、普段は俺と何ら変わりの無い、普通の人間なんだ。

 今まで紅花さんやくぅに、それでもやっぱり少し引っ掛かっていた何かが解けていた。ああ、恐れることはないんだ、って。

「とにかく、海。今からでも行ってみる?」

 と、バス停を指差される。……のだが、先の通り俺は財布を持ってきてない。

 その旨を伝えると、またカナフェイスを向けられてしまった。そろそろこいつの顔を想像するとき、この顔が初めに浮かんでしまいそうだ。

「良かったねー、コレ、私のオゴリで」

「あぁ、ごちそう様」

「はいはい。

 それで?後でコウも連れて、もう一度集まる?早い方がいいでしょ」

 ちょっと考えてみる。

 確かアイツは、くぅが1年間逃げ隠れてきたと言っていた。

 ……実際、あんなに目立つ格好をしている割に話題にすら上がってない。それどころか世間では知られていない、LIMって存在だ。

 同じ所に留まってはいないだろうけど、くぅの事だ、何処かでお腹でも空かせているのではないだろうか?いやそもそも、一年間の食べ物は大丈夫だったんだろうし、本来ならその心配はないのだろうけど。

 後は直感的に、くぅがまだ近くにいそうだ、って事だけか。

「いや、いい。ただ、これからは毎日海の方へ行くことにはするよ」

「そ?」

「あぁ。一週間近く経った今でも、こんな近くにいるのは分かったんだ。きっと会える。そんな気がする」

「ふーん……所謂"繋がってる"ってやつ?」

 結局、その第六感の様なモノに頼ってしまうんだから、今までの下調べなんてあまり関係無くなってしまった。

 それでもくぅとは繋がってる何かがある。だから俺は、それに従って動くしかないんだ。

 ……それと、隣にいるこいつは何故、何処かで見た様な意地悪い笑顔をしているんだろうか?

「今日は解散でいいよね?いい話題も手に入れたことだし、私はコウの所に行ってくるよ。じゃあねー」

「あ、あぁ。色々とありがとうな、八木」

 小走りで駆けていく背中に頭を下げると、律儀にも振り反ってくれる。

「だーかーら!あなた手伝わないとコウを悲しませるだけでしょ!」

 去り際の顔が赤くなっていたのは、ちょっと遠目のここからでもはっきりと見えた。

 やっぱり八木カナは、相当な照れ屋かもしれない。紅花さんの為、なんて言っても確りと色々してくれるんだから、それが誤魔化しだなんて直ぐに分るというのに。

 先ずは、帰ってから地図張でも開こう。明日からの行動範囲は確認しておきたいし。

 帰り道は、妙にワクワクした気持ちで、ゆっくりと歩いていった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「──と言う訳だから、コウ、明日から峰渡君と二人(・・)で頑張ってねー」

「えっ、カナちゃんは来ないの?!」

 お昼頃、カナちゃんが来ました。

 橘さんはあの方の事を見かけたようで、明日からは礼於さんが裏側を探すって事を教えに来てくれたんです。

 私たちも一緒に探そう、って流れだったハズなのに、いつの間にか私と礼於さんだけで、ってコトになってて……

「峰渡君、くぅさんとは繋がってる~って言ってたよ。コウも負けてられないんじゃない?」

 うん、やっぱり礼於さんにもっと近付かなきゃ!

「私、頑張る!」

 力んじゃって、ふと手元を見たらお気に入りの湯飲みに(ひび)が──ううん、そんなこと、気にしちゃだめだよねっ。

「う、うん、がんばれ~……」

 よぉし!先ずは明日の朝、礼於さんに……礼於さんに、何て声を掛ければいいんでしょうか……?

 お手伝いさせて下さい──?それとも、お供させて下さい──?

 ここは礼於さんみたいに、私も繋がってますから、かなぁ?

「ど、どうしようっ、礼於さんに何て言って、着いて行けばいいのかなぁ?」

「普通に、お手伝いしまーす、とかでいいと思うけど」

「で、でもでも、逆に軽薄だとかって思われないかなぁ?」

 言葉に出してみると、色んなことが不安になってきました。

 どうしたら誠意が伝わるだろう?どう言えば不自然じゃないだろう?どうしたら……

「まったく、私に対してはあんなにも容赦無いのに──

 峰渡君の事、好きなんでしょ?だったら自分で考えて、行動しなきゃ」

「う、うん……」

 カナちゃんはこう言ってるけど、私がやらなきゃいけないのも分かってるけど、どうしても自信が持てないんです。

「や、やっぱりカナちゃんも付いて来て?!」

「えぇー」

「だ、だめ、かなぁ……?」

(うっ……)

 必死に頼み込んでみます。

 でもどうやら逆効果だったみたい、カナちゃんはドン引きしちゃてるんです。

 た、確かに、こんなことで誰かを頼るなんておかしいですよね。

「コウ、さ。峰渡君にそう頼んだらいいんじゃないの?」

「え?」

 そう、ってどう言うことなんでしょうか?

「はぁ……いいけど。

 じゃあ明日の放課後、しょうがないから一緒に行ったげる」

 てっきり断られると思ってたから、何を言われたのか理解するのに時間がかかっちゃいました。

 でもちゃんと、"一緒に"って、言ってたよね?

「うん、ありがとう、カナちゃん!」

 その言葉と一緒に、思わずカナちゃんに抱き付いちゃったりして。

「仕方ないからキューピッドになってあげるけど、ホント、普段からそれだけ表情豊かなら峰渡君だってイチコロだろうに」

 そうやって冷たい目で見られて考えて、今の行動を礼於さんにやってる自分を想像してみました。

 絶対にムリだぁ……。

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