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time LIMit→ZERO  作者: NOSUKE@home
第一章;紅篇
5/13

lim5:The Visit Home

 結論から言えば、ショージは口を割らなかった。

 何のか、って?そりゃ、紅花さんの家の場所だ。あのショージなら知っていると思ったんだが、何でも、俺と紅花さんとが会うのが気に食わないらしい。

 ……俺はそんなお前の態度が気に食わないぞ。

 結局、最後の手段──これだけは、過去のわだかまり的に頼りたくなかったのだが──を使うべく、卒業式の為一年生は休みとなった学校、徒歩三十秒、へと向かうことになったのだ。……これが、今までの回想。

「お勤め、ご苦労様」

「何?まだ生徒会の集まりがあるんだけど」

 俺が声をかけただけで嫌そうな顔を向けられる。それでもちゃんと応えてくれる辺りだけは好感が持てそうだ。

 そう、八木カナだ。

 コイツも同じ一年生ではあるが、コイツ含めて二人──あれ、三人だったか?とにかく、そいつらは生徒会の仕事で出席しているのだ。ホント、ご苦労なことで。

「ちょっと教えて欲しい事があるん──」

「コウのスリーサイズなら知らないわよ?」

 微妙に惜しいな──じゃなくて、確かに紅花さんに関する情報ではあるが、俺はそんな変態ではない。

 と言うか、一体どんなイメージを持たれてるんだ、俺は。

「違うって!その……紅花さんの家の場所を教えて欲しいんだ」

 うわぁ、どんどんと更に嫌そうな顔になってくぞ。いわゆるジト目?ってのは、この顔なんだろうな。

「なんで?」

「は?」

「だからっ、なんでコウの家に行きたいの?」

 あぁ、確かに理由を言ってなかった。

 俺は八木カナに、一昨日、あの後に紅花さんにお呼ばれしたこと、家の場所を聞けなかったこと、そして昨日会うことすら出来なかったことを全て説明することにした。

 説明が終わるとまた面倒臭そうな顔をしていたのだが、多分一番面倒な事をしてるのは俺で間違いないと思う。

「……はぁ。なるだけ早く戻ってくるから、そこで待ってて」

「え、ちょっ──」

 俺の制止なんて聞かず、すたすたと校舎に入ってゆく八木カナ。そして放置される俺。

 昼頃に、としか聞いていないのもいささか不安を煽る問題点ではあるが、何より昨日丸一日、紅花さんに会えなかったのも痛い。……ショージの策略なのだが。

 早く行かないと、とは思っていても、何もできないもどかしさ。せめて、八木カナよ、早く戻ってきてくれ……。

 しかし、俺たちにとっては休日とは言えども、卒業式に私服登校紛いの事をするのは随分と恥ずかしい。

 せめて校舎の中にでも入っていれば、まだ目だたずつ済むんだろうか?

「おい、そこの悪ガキ」

 そんな事は一切無かった。

 校舎に入ってすぐ、背後から嫌~な声を浴びせられる。振り返ればそう、シイナ先生が仁王立ちしていた。

 ちょっと萎える。

 因みに()()は昨日出した。

「担任に会って、なーんでそんな嫌そうな顔をする。もっと喜べ」

 今、八木カナの気持ちが少し分かった気がした。……って、ソイツの姉か。

「で、何ですか?」

「アンタこそどうしたの?今日、卒業式だぞー?

 あー、卒業生に告白するから……なんて、峰渡じゃあり得ないよな」

 ホント、この姉妹は俺にどんなイメージを付けてるんだ?──いや、シイナ先生は元からか。

「違いますよ、ちょっと人を待ってて」

「ヒト~?……まった、多々良と変なことでも企んでんじゃないのぉ~?」

 軽く言ってる風だが、その言には確実なドスがかかっていた。

 と言うか、俺はそんな悪ガキに見られてるのか?今までのトラブルは全部、ショージのせいだっていうのに……。先生、酷い。

「ショージなら部屋でふて腐れてますっ!俺が待ってるのは──」

「お姉ちゃん?」

 このタイミングの良さ(悪さ)、そうか、これは姉妹揃っての苛めなんだな?よく解った。

「おー、カナか。……まさか、峰渡の待ち人ってのはカナだったり」

「変な言い回ししないでっ!峰渡君には用事を押し付けられただけだから」

 シイナ先生の口調は至って愉しそうで、よくよく見れば口元だって嫌らしくつり上がっていた。要するに、俺たちはいい玩具らしい。

 もういいさ、そっちがその気ならこっちだって──あれ、勝てなくないか?

「そ~だったのか。峰渡はこの前『先生には悪いですけど、八木さんの事は嫌いなんです!』とか言ってた気がするんだがなぁ」

「へー、そーなんだー」

「嫌いとまでは言ってないでしょうっ?!」

 姉のにやつき顔と、妹のジト目に挟まれ、もはや蛇と蛙に睨まれた気分だ。──いや、狐とミニチュアダックスフント?

「ま、ついにカナもボーイフレンドが出来たみたいだし、お姉ちゃん安心安心っ」

「なんだよ、八木って男友達いないの?」

「あたしはいるぞっ」

「いや、シイナ先生じゃなくて……」

 標的が八木カナの方へと移ったみたいだったので便乗しようとしたのだが、どうやら援護射撃は失敗したようだ。

「峰渡、この際だからこいつのこと、"カナ"って呼んであげな。喜ぶから。あたしのことも"シ・イ・ナ♪"って呼んでるだろう?」

 隣から盛大なため息が聞こえてくる。こればかりは同情せざるをえない。

 と思いきや、その(小さな)体のどこにそんな力があるのか、と思う程の強さで引きずらる俺。バランスを崩しながらも、やっぱり重心が低いのは利点だな、なんて思うのだった。

「あんまりお姉ちゃんとまともに会話しないでっ」

「……嫉妬?」

「違いますっ!」

 後ろからは先生のあの独特の笑い声。そして「サカるのも程々になー」なんて、教師が言うべきでないセリフが突き刺さる。

 それと、このワンちゃんに引っ張られているのもあり、式が終わって体育館から退場してきた元三年生たちの視線が、イタイ。──あ、離された。

「コウの家でしょ?付いてきて」

「お、おう……」

 怒ってるのか恥ずかしいのか、あるいは両方だろうが。顔を真っ赤にした八木カナは、一年間面倒をかけたシイナ先生の、どの表情よりも迫力があった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「"椿流格闘術道場"……?」

 連れてこられたのは、市街地から少し離れた所にある、古風で割りと大きめの道場だった。

「そ。コウの家兼修行場」

 八木カナが入り口のインターフォンを押す。何故だか、そこだけは高級マンションの入口で見かけそうな、とても立派なものになっていた。

 ……が、"認証"のボタンを押しただけで、その直後に『ピーンポ~ン』と、やけに古めかしい音だけ響いたのは、一体どうゆうことなのだろうか?──そうゆうことなのだろうが。

 そして中央のパネルとスピーカーで応答するのかと思えば、中から紅花さんのだろう足跡がとたとたと聞こえてきた。──だから、このインターフォンの意味は……。

「お待ちしておりました、礼於──さん?」

「やっほ、コウ」

「こんにちは、紅花さん」

 笑顔で迎えられたハズだが、八木カナを視界に捉えると一変、何が起こってるのか判っていないようだが、とにかく唖然とした顔で固まってしまった。

 ちょっと紅くなっているようにも見える。

「えと……カナ、ちゃん?」

「そ、カナちゃん。この人案内してきた。──もしかしてお邪魔だった?」

「そ、そそんなこと、無いよっ!」

 更に紅くなり、オーバー過ぎる反応で首を横にふる紅花さん。

 首が取れやしないか、なんて、ちょっと怖くなってしまうから早く落ち着いてほしい。

「カナちゃんも、いらっしゃいっ。

 二人共、どうぞ中へ」

 紅花さんに続いて中へ入ると、体育館の半分くらいはありそうな広い道場が眼前に広がる。

 一枚板、と言うやつなのだろう。歩く度にギシギシと床が鳴るのが、また何とも言い難い味を醸し出している。

 道場の奥にある戸をくぐると、そこはいかにも和風、と言った屋敷になっていた。お屋敷と言うよりか、旅館と表現した方がイメージに合うかもしれない。

 二人から話を聞けば、江戸時代から明治時代には本当に旅館もしていたらしい。……と言うか、そんなに古いんだ、この建物。

「どうぞ、座ってて下さい」

 そして連れて来られたのは、裏庭が一望できる、ゆったりとした感じのある客間だった。

 八木カナは勝手知ったる、と言うやつなのか、何処に座ろうか迷っている時には既に、ど真ん中の席へと正座していた。これは単に図々しいだけかもしれないが。

 あぐらで座ろうとしたのだが、対面に座っている八木カナがあまりに綺麗な正座をしているものだから、ついつい俺も、慣れない正座をしてしまう。

 あまりジロジロと見渡すのも失礼かもしれなかったが、興味本意と言う本能には中々逆らえなく、部屋中をじっくりと見回してしまう。

 壁には、模様こそ少しずつ違うようだが、実に見覚えのある仮面が何枚もかかっていた。

「この仮面、祖父が趣味で買ってきた物なんです。何でも、沖縄に面白い職人さんがいるとかで」

 台所から戻ってきたのだろう、お盆を手にした紅花さんに説明される。

 だが決して良い趣味とは思えない。寧ろ気味が悪いと思うし、夜に見ようものなら悲鳴もんだろうが。

「それ、コウに言っちゃダメだからね」

「……?」

 明らかに俺に対して、だよな?そんなに顔に現れてただろうか?

 一方の紅花さんは不思議そうな顔を向けてくる。今更趣味が悪いとは言えるはずがないじゃないか。

 気付いたら、目の前には紅茶と、そのお茶菓子が用意されていた。立派なことに、結構しっかりとしたソーサーにティースプーン、粉砂糖、ミルクシロップが付いてきている。

 ──こんな純和風屋敷で、接待が純洋風?

 ちょっと、いやかなり不思議には思ったのだが、八木カナは至って普通に、砂糖とミルクを入れすぎなほど入れて、啜っていた。

 紅花さんの趣味なのだろうか?でも、どうやらそこそこ普通のことらしい。

「コウ、何で今日は紅茶なの?」

「ぶっ!!」

「峰渡君、汚い」

 普通じゃないのかよっ!

「礼於さんなら……緑茶より、紅茶の方が好きかなぁ、て。その、お口に合いませんでしたか……?」

「ま、まぁ、確かに紅茶は好きだし、これも美味しいよ」

「良かったぁ!」

 こんな雰囲気の場所なら、紅茶よりも緑茶の方がよっぽど良い、とは言わないでおこう。

 因みに、この前出されたお茶は割と好みだったもので、ちょっと期待していたのも事実なのだが。

「ふ~ん、"礼於さんなら"、ねぇ……」

 いつの間にか、八木カナの格好は凄くラフになっていた。

 肘はついてるし脚は崩してるし、ティースプーンをカチャカチャと鳴らしてはいるし。何なんだ、この変わり様は?

「どうかしたのか?」

「べっつにー?おアツいことでってね」

「確かに、……この紅茶、少し熱いかな」

「そうでしたか?

 一応いつもお茶を入れるのと同じ温度にしてあったんですけど……」

 "いつも"、とはきっと、緑茶を入れている時の事だろう。それなら熱すぎるはずだ。

 因みに緑茶は高温、紅茶は少し温めが良いと、前に何かの番組で聞いたことがある気がする。そう、今の八木カナの視線位が丁度良いだろう。──って何故睨まれてるんだ?

「ま、いいけどねー。

 それで。今日コウがここに呼んだのって、やっぱ"くぅさん"関係?」

「え?えと、そ、その、今日は礼於さんに──」

「その事の為だったんだ?確か八木が色々詳しいんだっけ?」

 なんだ、その話もするんなら八木カナが居て良かったんじゃないのか。

 もっとも俺が呼んだ訳でも、紅花さんが呼んだ訳でもない。勝手に着いて来た、もとい俺を引きずって来たのだが。

「あー、うん。

 正確には、詳しいのは私の知り合い。あの人もLIMみたいだし、なんだか"元研究員"?みたいな肩書きもあるみたい」

 LIMだ、ってことはともかく、"元研究員"って……

 既にそこから胡散臭さが出てるんだが。

「へぇ。紅花さんは知ってるの?」

「知りませんっ!」

 カップを叩き付けるように、強く置いた紅花さん。

 どう見ても怒っている。この怒り方からして、その"元研究員"とやらの話題がダメだったらしい。……前に何かあったのだろうか?

 八木カナも妙に焦っているみたいで、どうにも原因は分かりそうになかった。

「い、一応その人ってのが中学の時に行ってた塾の先生で、橘って人なんだけ、ど……この話止める?」

 話の途中で、やっぱり紅花さんが気になったのだろう、紅花さんと、そして一応俺にも聞いてきた。

「俺は構わないけど」

「私も構いません!どうぞ続けて下さいっ!」

 紅花さんて、こんなに八木カナに対して突き放した言い方をしていただろうか?

 どう捉えても、これ以上この話題を続けていたら、確実に亀裂のようなモノが入るだろう。八木カナもそれは感じ取ったらしい。

「あはははー……ちょっとお手洗い借りま~す」

 そして逃げられた。と言うより、この怒りモードの紅花さんを押し付けられた。

 だから、どーしたらいいんだよ。

「えっと……紅花さん?」

「礼於さん、ちょっと道場までお付き合いお願いします」

「え──?」

 聞き返す間もなく、紅花さんはすたすたと行ってしまう。最初に通った道場で間違いはないだろう。

 けど、このタイミングであそこへと呼ばれたことに、多少の身の危険を憶えざるを得なかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 道場へと足を向けたはいいものの、紅花さんの姿はそこには無かった。

 ただ、ここへと来い、と言われたからには来ていないと、それはそれで身の危険を感じてしまうのだから仕方ない。……と言うか、道場ってこの場所でいいんだよな?

 待つこと一、二分、道場へと入って来たのは道着姿の紅花さんだった。まさか、と身構えてしまう。

「礼於さん、少々お手合わせお願いします!」

「え……俺!?」

 そして、あっさりと実現してしまったその"まさか"。

「はい。──では、行きます……っ!」

「ちょ──」

 正面、二メートル程だろう距離に立ち、一礼。俺もその雰囲気につられて一礼をしてしまった。

 かと思えば次の瞬間には彼女は構えをとっていて、踏み出したと思えば大きく蹴り上げを繰り出してきていた。

 慌てて一歩後退ると、目の前を爪先が掠めていく。その時の風圧が前髪を撫でる。

「紅花さん?!いきなり何を──」

 俺の意見なんて聞きもせず、反対の足から繰り出される、顔面目掛けての回し蹴り。

 なんとか左腕を盾にして、それを防いだのだが、その時の反動が強すぎたのか脚は直接頭へと当たらなかったにしろ、防いだ自分の腕が頭に当たり、バランスを崩してしまった。

「構えないと、怪我、しますよ礼於さん」

 確かにその通りかもしれない。今は何であれ、紅花さんが対面してるんだ、此方も本気になるべきだったんだ。

 見よう見まねで構えとやらをしてみる。

 それを確認されると、今度は一気に懐へと踏み込まれる。

 低い姿勢から踏み込まれた為に、次に放たれたパンチは、そこまで重くはないにしろ、それでも女の子とは思えない威力で胸を叩き付ける。それが二、三発。

 ジャブが来るのが分かれば、自分の腕を盾にして防げばよかった。だが防いだハズなのに、当たった箇所はじんじんと痺れてくる。そして──

「せぃっ!!」

「────っ!?」

 突然、左側頭部に激痛が走った。と思えば、俺の体は大きく右側へと倒れてゆく。

「上段回し蹴り、技あり」

「あ──」

 振り向くと、少し離れた場所で、()()()へと逃げたハズの八木カナが観戦していた。

 その八木カナの言った言葉の意味を捉えるのにも、また少々の時間を要してしまう。そしてやっと、自分が"ジョウダンマワシゲリ"とやらを食らい、倒れてしまったことに気付く。

 頭に残るツンとした傷み、腕の痺れで、目の前に立っている女の子が、今週頭に遭遇した()だったことを思い出してしまった。首筋には鳥肌が立ち、背中には嫌な汗が流れる。

「コウ、素人に技は駄目だって」

 八木カナが俺と紅花さんの間に、まるで仲裁するかのように割って入ってくる。

「──っ!だ、だって──」

「抵抗なんてできない、って、コウなら分かってたんでしょ?

 だいたい、こーんな素人じゃ、玄人(ベテラン)にはかないっこないって。いくらあれだけ手加減しててもっ」

 あれで手加減?しかも、今の会話からすると相当に加減されていたらしいが。

 もしかして紅花さんって、LIM化してなくとも十分に強いんじゃないだろうか?……少なくとも、俺よりは強いんだし。いやLIMだったから、強いのかもしれない。

「まー、でも、確かに一発蹴り入れたいって気持ちは分かるかもねっ。私だったらあんなに遊ばないで、構える前にバッサリと蹴り──私の場合"斬り"かな、入れちゃうだろうし」

 あははー、なんて、さっき逃げた時の様な笑いを浮かべながら、今度は紅花さんと共に道場(へや)を後にする八木カナ。

 結局どっちを味方したのかサッパリ分からなかった。……いや、コイツが俺の味方をする事自体、考えられないのだが。

 でも最後に目配せしてくれたってことは、少しは助けてくれたと考えても良さそうだ。

 二人が道場から出て行った後、俺はその場に大の字で寝転がった。ふと、先程攻撃を受けた箇所に触れてみる。

 腕は痣になってなさそうだし、それどころかもう痛みも退いている。

 回し蹴りを受けた箇所も触ってみても瘤になってなさそうだし、それどころか、此方も痛みはほとんど退いていた。

 ……前に、本当にベテランの格闘家はダメージすらコントロールできる、って、これまたテレビでやってたのを思い出した。

 まさかな、とは思っても、紅花さんが繰り出した攻撃全ては彼女によって、ダメージすらコントロールされていた気がしてくる。その域まで達していても、紅花さんなら納得できてしまうだろう。

「……強っ」

 口から出たのは、男として余りにも情けない言葉だった。

 そしてその瞬間が、俺と、()()()()()()との間に、大きな溝があると初めて感じた時だった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ……やりすぎちゃいました。

 カナちゃんに仲裁されて、その後にお風呂場に連れていかれて、二人でシャワーを浴びて。

「もしかして、とは思ってたんだけど、コウ、今日普通に彼を招待してたの?」

「……うん」

「それでさっきは、私が言っちゃった誤解に気付いてもらえず怒っちゃったと」

「……うん」

 礼於さんから、お礼とお詫びとって言われて、よし!この際だからご招待しようっ!……って気合い入れてて。

 その後になって、この場所を教え忘れてるのに気付きました。

 大丈夫かなぁ?来てくれるかなぁ?って不安になって、でもちゃんと来てくれた時は嬉しかった。

 カナちゃんが一緒だって分かってしまった時は、なんで?とか、どうして?とか……大好きなカナちゃんに嫉妬しちゃいました。

 それでも、好きな人が二人来てくれた嬉しさと、でも、カナちゃんで良かったなぁって安心感とがあって。情けないな、私。

「お邪魔しちゃった、……よね、私。

 うん!出たら先、帰ってるから──」

「待って!」

 そして、ここでも折角気を遣ってくれようとした彼女を引き留めてしまいました。

「えと、その……カナちゃんが帰っちゃうと、気まずくなっちゃうから──……ね?」

 そうやって、本当のことと、ほんのちょっとの嘘を一緒に言ってしまう。もちろん、本当は私のワガママだけ……

 出来れば、二人がもっと仲良くなってほしい。二人と、もっと一緒にいたい。──あ、でも、あまり仲良くなりすぎちゃうのも嫌だなぁ、って。私、どうやら相当なワガママっ子みたいです。

「はぁ……。分かった、一緒に謝ってあげる。彼に嫌われたくないんだもんねっ!」

「ん──っ!?」

 ビックリして振り向いた時、お姉さんに似たイタズラなウィンクをされてしまったものだから、恥ずかしさで顔が熱くなっちゃいました。

 あぁ、カナちゃんには全部見抜かれちゃってるんだなぁ……って。

「大丈夫っ!どうせ勘違いしてるだろうし」

「勘違い?」

「そ。()()()()()()は厳しいんだーとかね。

 もしかしたら、弟子入りなんて申し込まれちゃうかもっ」

 そう言って笑いを堪えるカナちゃん。

 まさか……とは思っても、真面目で一直線な彼なら、妙に有り得そう。それを想像してみたら、少し可笑くなっちゃいました。

「ほらほら、コウはそうやって笑ってる方が可愛いんだからっ♪」

 背中を流してくれていたカナちゃんは、いきなり脇の下を(くすぐ)ってきて、崩れた顔は余計に崩れてしまう。

「も、もう~、カナちゃん~っ」

 ちょっと前までは落ち込んでた私も、カナちゃんの手に掛かってしまえばこの通り。気付けば元気を分けてもらっちゃってるんです。

「あ──」

 私は、カナちゃんに引っ張られるカタチでここへと来たんです。だからもちろん、自分の部屋へと戻る時間もありませんでした。

「どしたの、コウ?」

「う、ううん!何でもないの……」

 お風呂場から出て、脱衣場で私を待ち受けていたのは、最初から全部分かってたみたいに用意されていた着替え。

 これだからカナちゃんは、私の一番のお友達で、お姉ちゃんで、……ああ、敵わないなぁって。

 そして、今さら面と向かって言うのも恥ずかしいから。──いつもありがとう、カナちゃん。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「弟子にして下さい!」

「ぷっ」

 湯上がりなのか、頬を紅らめた紅花さん達が道場に帰って来て、俺は開口一番に弟子入りを申し込んだ。そして何故か八木カナに吹き出された。

 弟子入り志願をしたのは、この先、この二人と組むには俺はあまりに非力だと思ったからだ。事実そうだろう。だからせめて、これ以上迷惑をかけないように──これ以上、自分の無力さを嘆かないようにしたかったからだ。

「えと、その、ごめんなさい!」

 今の俺の決意を返してくれ。

 いや、いきなり弟子にしてくれ、は無かったか。そうだよな、いきなり好きです、なんて告白しても──それは違うか。

「さっきは、その、ついカッとなっちゃって……あの、仲直りしていただけると──は図々しいですよね……」

「いや、そのことなら別に大丈夫なんだけど」

「本当ですかっ?!」

 あれ、弟子入りのことは?て言うか、俺に対する回答と違う気がするんだが。

 一応、もう一度聞いてみようか。

「それで紅花さん、弟子入り──」

「良かったぁ、礼於さん、許してくれたぁ……」

「そ、そうだねーコウ」

 聞いちゃいないっ?!

 と言うか、何故だかその場で八木カナにしがみついて泣き出してしまった。何がどうなってるんだ?

 そして俺の弟子入りの件は?

「あー峰渡君、弟子入りは却下ね」

「何故?!」

 と言うか何故、紅花さんではなく八木カナが返答したんだ?

「ここ、コウのお爺さんが師範してるんだけど、どうにも放浪癖で、ね」

 やはりと言うべきか、ここの師範は紅花さんのお爺さんだったのか。

 それでもやはり、俺はその人より紅花さんに直接習いたいとは思ってたりする。それもダメなのだろうか?

「今は休館してるし、もちろん、お弟子さんも取ってないの」

「紅花さんに直接習うのは?」

「あー……多分、(もう)ムリ」

「どうして?」

 そこまで問うと、自分に縋って未だ泣いている紅花さんを見つめ、しきりに考えた後にこう答えた。

「ほら、コウだって色々あるしさっ!」

 究極の逃げ口上、"忙しい"と"色々ある"。それは他の否定を一切受け付けない、当に悪魔の言葉だろう。

「ま、弟子募集してないのはホント。だよね、コウ?」

「うん……」

 本当に質問に対しての返事だったのかは分からない。

「それと、ここの弟子だった人たちは皆、私の行ってる所に移ったんだけど……なんならこっち来てみる?」

「いや遠慮しておく」

「なんでっ?!」

 なんだか、コイツの下に下るのだけはプライドが許さなかった。それに至って不安だ。

「先生だってコウのお爺さんと義兄弟の仲だって言ってるよ?

 独自流の剣道場だけど、腕はいいと思うんだけどなー」

「……剣道?」

「そ、ケンドー!」

 と、竹刀でも構えるような素振りをする。

 あれ?ここって()()()道場だよな。 なのにここに通っていた皆、八木カナの所に移った、って言ったよな?

「やっぱり、遠慮しておくよ」

「そう?」

 一体どんなことしてる道場なのだろうか、と興味は沸いたのだが、そこに通うのは御免被りたい。

 ビミョーな空気に、紅花さんの泣き声だけが響いていた。


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