オレは絶対悪くない
「婚約が決まった」
友人がドヤ顔で報告してくる。
「へえ、誰だ?」
「××伯爵令嬢。将来は僕が伯爵さ」
「え、伯爵家かよ、すげえな」
「ふ」
オレは男爵家の次男でこいつは子爵家の次男。
伯爵家に婿入りなんて、幸運としか言えない。
「うらやましいぞ」
得意顔の友人だが、オレは心配になった。
一緒にバカやっているオレだから知っている。
こいつ、顔はいい分頭が悪いのだ。
成績はそれなりだから周りはそう思わないだろうけど。
「お前、次男なんだから、婚約者は大切にしないといけないぞ」
「ああ、父上にも言われた」
余裕しゃくしゃくの顔だが、オレは騙されない。
「じゃあ婚約者の誕生日はいつだ?」
「知るわけないだろう? 婚約したばかりだぞ」
「じゃあ、すぐに調べろ!」
友人は不思議そうな顔をする。
「なぜだ?」
「婚約者の誕生日にはプレゼントを贈るのが常識だからだ! もし誕生日が今日だったらしょうがないが、明日だったらまだ時間がある。プレゼントを買うんだ!」
「そんな、焦る必要はないだろう?」
「いいから、本人に聞いて来い!」
オレが必死の形相で命令したので、どうにかこいつは情報を聞いてくる。
「来月だった。ほら、あせる必要なんてないって」
きれいな顔をヘラヘラさせる友人にオレはたたみかけた。
「じゃあその日付を手帳に記録しておいて、絶対忘れるんじゃないぞ」
「そこまでしなくても」
ダメだ、こいつオレが思っていたよりバカだった。
栄養が顔で止まって頭に行っていない。
「いいか、忘れずにプレゼントを渡せば印象がプラス10点はかせげるんだぞ」
バカにも分かりやすく、数値に表してやろう。オレって優しー。
「それだけなら別にやらなくてもいいんじゃないか?」
その10点が人間関係においては重要なんだよ。
「あのなぁ‥聞いておいて誕生日を忘れると、印象がマイナス50点くらいになるんだからな」
「え、じゃあ聞かない方が良かっただろう?」
「全く聞かないのも同じくらいマイナスなんだよ‥」
こいつとちゃんとした会話をしようとするのは疲れる。
「あと浮気も絶対ダメだぞ」
「それは当たり前だろう」
当たり前の事が分かっているかどうか怪しいから、確認してやってるんだろうが。
「お前の場合、一線をこえなければ大丈夫とか思っていないか?」
「ん? 大丈夫に決まっているのではないのか?」
「ダメなんだよ、他の女の子と2人きりになるのも、特定の子と仲良くなるのも」
「へえ。それは1回何点くらいのマイナスだ?」
「1回につき‥10点から20点か」
もちろん、あくまで何となくだ。
そうじゃない場合もあるだろうが、こいつには単純化して教えた方がいい気がする。
「なんだ、そのくらいですむのか」
‥こいつ、今の状況全然分かっていないな。
「今のお前が持っている印象ポイントはゼロだ。これを1年以内にプラス50点以上にしないと、結婚はできないと思え!」
「え、婚約が決まったんだぞ、そのまま結婚できるだろう?」
「お前のバカやって婚約破棄される未来が、オレには見えるんだよ!」
「ふ~ん」
オレの言葉を全部は理解できないようだったが、友人は思ったより誠実に婚約者と向き合ったようだ。
あれから何回も助言と忠告をくり返し、オレたちは学院を卒業した。
そして友人は無事結婚したのだが‥
「なんで僕が追い出されなきゃいけないんだ!」
友人は、新婚1か月で泣きついて来た。
「一体なにがあった」
とりあえず話くらいは聞いてやろう。
ちなみにオレは明日も仕事だからさっさと片付けたい。
まあ、アドバイスもできるならするんだが。
「僕が浮気したのを、妻が怒って」
「結婚して1か月で浮気する奴がいるか!」
さすがにあきれた。
「1か月じゃない、ちゃんと1週間は待った」
「それ全然待ってねえよ!」
オレが罵倒しても、友人のキリっとした顔は崩れない。
「だって結婚してしまえば、ちょっとくらい遊んでもいいって父上が」
「新婚1週間で外泊かよ。早すぎる‥それで、なんでバレたんだ?」
「町で恋人とじゃれ合っているのを使用人に見つかってしまったようだ」
せめて隠せって。
「く、伯爵家の業務に追われて、毎週末に彼女と過ごすのだけが癒しだったのだが」
「それ、ちょっとの範囲に収まらないぞ」
ガッツリの浮気じゃねえか。火遊びって言い訳できないだろう。
「しかし、たかが浮気でそこまで怒るのか?」
あ、学院を卒業して結婚しても、こいつのバカは治っていなかった。
「いいか、まず謝罪の手紙だ。それに今後は絶対浮気しないって約束だな。毎日謝れば、1週間くらいで許してくれるかもしれない」
「ははは、そこまで必要なのか」
深刻さが分かっていない。
「前に言ったよな。浮気は心象ポイントマイナスだって」
「それでも10点くらいだろ?」
ああそうか、こいつは数字にしないと分からないんだっけ。
「あのなあ、今回は一線こえているんだろう? それじゃマイナス100点だって」
「え、もう結婚してるのに、そんなにあるのか? 嘘だろう」
「結婚していてもだ!」
嘘じゃないとオレは友人を説得して実家に帰した。
ちゃんと、許されてもまた浮気したら前のマイナスポイントが復活することまで教えてやった。
母が父を見る視線から、オレはちゃんと学習したんだ。
その時はどうにかヨリを戻した友人だったが、半年もたたずに離婚した。
「なんで僕が離縁されなきゃいけないんだ」
絶対100%こいつが悪いんだろうが。また家に来ているから寝る前なのにつき合ってやった。
「僕は前々から決まっている予定に出かけただけなんだ。ほら、先月の誕生会さ」
それならオレも知っている。
悪ガキ仲間だった相手の誕生日には、必ずみんなで集まることにしていた。
だからオレも出席していた、あの日か。
「確かに前々からの予定は守らなきゃな」
「だろ? それなのに熱を出しただけで僕の外泊を止めてさあ。看病なんて使用人の方が得意だろう」
ん、まさか?
「彼女、死にそうなくらい辛かったとか、グチグチ言ってさ。舅にまで言いつけて、僕は怒られてしまったんだよ。高熱で苦しむ娘を何だと思っているんだって」
うーん、オレだって高熱の娘を放って婿が遊んでいたら、そうするだろうなぁ!
「ははは、熱のある奥さんより、優先したのか。最低だよ、お前」
もう笑うしかない。
「? 僕は友情を大切にしただけだろう? 何がおかしいんだ?」
もう相手にしたくない。
そろそろ帰ってくれないかな。
「物事には優先順位があるだろう、友達のつき合いより奥さんが病気ならそっちが大切だ。」
「だったら、先に教えてくれればよかっただろ」
「オレは言ったぞ。これからも奥さんを大切にしろって」
それでも端正な顔をキョトンとさせ、友人? はオレに反論する。
「でも前ほど細かくは言ってくれないじゃないか。遊びに誘っても断るし」
オレは男爵家の次男だから、卒業後は仕事まみれなのを知っているだろう?
「こっちにだって仕事や予定があるんだよ。学生時代ほど暇じゃない。もう自分で考えろって、結婚式の時に言っただろう」
イラつくオレに、そいつは首をかしげる。
「だから考えて、妻にはお土産を持って帰ったぞ。果物とか」
はあ、オレはため息をつきながら首を振った。
「その程度では無理だ。病気の嫁さんを放っておいたなんて、お前は婿失格だよ。離婚されて当然だろ」
「ええ? そんなの、知らなかったんだ。僕が離縁されたのは、君が教えてくれなくなったせいなんじゃないのか?」
オレは奴を怒鳴りつけてしまった。
「オレは絶対悪くない!」
そしてそのまま、傷ついた顔の元友人を家から追い出した。
明日のためにさっさと寝よう。
とっておきの強い酒をあおって、寝た。
やっと新作が書けるくらいに回復しました。
まだ胸はゼーゼーするから無理はできませんが、お布団でゴロゴロしながら思いついたお話です。




