舌鼓
少女が頑張って作ったというタランチュラの足の毛のつけ麺は、僕が思ったよりも美味しかった。
「思ったより美味しいでしょ?」
少女はニコニコした顔でこちらを覗き込む。
まさにしてやったりと言った顔だ。
「本当はシューピンっていう、庶民の伝統的な料理なんですよ。使ってる毛ももちろん食用に生育されています。でも最初にタランチュラの毛って言って出したらびっくりすると思って。そっちの世界にもいるでしょ?タランチュラ。」
「粋な計らいだね。思惑通りびっくりさせられたよ。
…そろそろ説明してもらえるかい?」
「…そうですね。まあ軽く説明させて頂きましょう。」
がっつり説明して頂きたいのだが、彼女に任せることにした。
「まず、あなたは異世界転移した訳ではありません。
あなたの世界と私の世界、その狭間にこの家を作っている状態です。」
「なっ、そうなのか?」
現代社会から離れた生活への恐怖、新世界の魔法からのハーレムへの期待など、せめぎ合いながらタランチュラを食していたあの時間はなんだったんだ。
「ええ、でもこの空間も長くは持ちません。あなたは自分の家に帰るか、私の家に行くかどちらがいいですか?」
「そりゃあもちろん家に帰りたいよ」
小さなアパートの一室。
奮発して買ったビーズクッション、小さなチューナーレステレビ、あとは取り留めない小物、それと小さい名前も知らない観葉植物。
もしも強盗が入ったなら、入る家を間違えた強盗にせめて紅茶でも振舞って上げたくなるような貧相な家。
されど自分の家。
自分だけの空間と言うものは心が安らぐものだ。
「ふむふむ、ちょっと狭そうですが、お邪魔しますね」
直後、少女の手が光ったと思ったら、音もなく僕らは僕の部屋にいた。
僕が今まで腰掛けていたベッドは、いつもの自分のベッドに、壁の小物も、地面以外殺風景な僕の部屋に対応して消え去っていた。
「異世界転移完了です!」
「…すごいな、異世界人はこんなすごい魔法が使えるのか。」
「ええ、まあとんでもなく魔力を使うので、1ヶ月は使えませんがね。」
イッカゲツハツカエマセンガネ、、
つまり、ということは、まさか
「1ヶ月、よろしくお願いします。」
「はあああああああああ!?!?」




