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ガガンボ  作者: 阿藤賢樹
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はじまり

そいつはもちろん城には入れない。それは本人も分かっていたようだった。

城にはもう人が群がっていたし、同時期に生まれた他の奴らもほとんどがもう土から抜け出して城門を真っ直ぐに見つめていた。

同じ腐敗した土から生まれた隣のやつは、もう膝まで這いでていた。

皆んな生まれた時は迷わないようだ。まるで生まれる前から城の存在を知っているかのようだった。


そいつは、生まれた時、地面から顔だけしか出てなかった、挙句に周りをぐるりと見渡して、城の上にある月をじっと見ていた。

間に合わないと気づいたのはそのあと。

結末、確かにそいつは間に合わなかった。

間に合わないどころか、最後は地面から顔面の上半分だけを出して、土の中で溺死していた。

自ら選んだのか、事故でそうなったのか。

間抜けにも見えるが、一種の憤りも感じる死体だった。


最初から地下に潜れば、むしろ安全だった。

城を目指したことが、始まりだったか。

悲劇なんて言葉を使ってはいけない。

悲劇は地下の人にある。


ガガンボ。

そうたしかガガンボって虫だ。

聞いたこともない名前だろうか。

ふざけた名前だと改めて思う。

でもまぁ大抵の人は実際に見ればああこいつかってなる。

蝶々とは比べるのはおこがましい。

しかし、蚊や蝿ほど邪魔な存在感はない。

この世から蚊や蝿が消えたら1ヶ月ぐらい皆んな喜ぶけど、3ヶ月過ぎたあたりからなんだが寂しくなるだろう。

次に来る夏は少し虚しく過ぎるかもしれない。

殺虫剤や蚊取り線香が売れなくなって会社が潰れるかもしれない。


ガガンボの場合、いなくなってもなんかいたな。ぐらいだろうか。

なんかいたなって思ってくれるだけでも、顔半分埋まったまま溺死したガガンボは嬉しいだろうか。


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