【ポンコツ姫】加護なしの元最強が、自滅覚悟で暴走孔明に終止符を打つ。
ウチ、アイル。
魔界 五丈原城に、丸腰で殴り込んだアホな姫。
城内は、血と硝煙の匂い。
これまでにない、強烈な魔力が渦巻いとる。
「孔明……どこまで暴走しとるんや!」
ウチはもう加護なんてない。
使えるのは、この体と、アイツへの愛憎入り混じった、煮えたぎる強い感情だけ。
広間に飛び込むと、そこには孔明がおった。
黄金の髪は黒く染まり、目は虚ろ。
巨大な魔力の球体が、城の中心で不気味に脈打っとる。
「アイル? なぜ……ここにいる」
孔明の声は冷たく、感情がない。
「なんでって、諸葛巾を届けに……って、落としたんやけどな! でも、アンタを止めに来たんや!」
孔明は、口元をわずかに歪めた。
それは嘲り以外の何物でもなかった。
「そんなもので、止められるとでも? アイルはもう『ポンコツ』。加護もない、ただの女じゃ」
その言葉が、胸に突き刺さる。
屈辱で、ウチの体が震えた。
「そうや……! 否定はせぇへん!」
一度、深呼吸する。
胸の奥の、あの頃の最強の記憶が、無意識に魔力を避ける動きを生み出す。
「でもな、孔明にだけは負けへん! たとえ加護がなくても、殴る一発の力なら、まだ残っとるわ!」
城の中心にある魔力の球体に向かって、迷いなく走り出した。
世界を壊した代償なんて、ウチが責任取る。
「アンタに抱かれる前に、ケリつけるで!」
孔明の顔に、一瞬だけ、微かな動揺、そしてかつての優しさが浮かんだ。
「……バカな。本当に、学習しない」
孔明の魔力が、ウチを吹き飛ばそうと唸りを上げる。
それはまるで、世界を丸ごと押し潰すような圧力。
ウチは、その魔力の壁の前に立ち止まり、歯を食いしばる。
「誰がバカや! アンタに会うために、ここまで来たんやぞ!」
最強だった頃の動き――空間を把握し、魔力の流れの隙間を突く、天才的な戦闘技術が、ポンコツの体に宿る。
魔力の壁を素手で突き破る。
拳からは血が滲んだけど、構わへん。
この拳には、全てを懸ける執念だけが詰まっとる。
そして、魔力の球体に手を触れた瞬間、ウチの体は足元から光の粒子となって散り始めた。
「――! また、この現象……! けど、もうええわ!」
目の前のメニューウィンドウが開く。
『孔明の暴走を止めますか?』
「止めるに決まっとるやろ! ウチの負けやけど、勝ちや!」
ウィンドウをタップすると、黄金の光が魔力の球体、そして孔明の体を包み込んだ。
孔明の虚ろだった瞳に、光が戻る。
混乱と、深い悲しみが入り混じった表情で、名前を呼んだ。
「アイル……」
ウチの体は完全に光に呑み込まれた。
涙を浮かべながらも、笑った。
(これで、チャラやな。次は、ちゃんと嫁にしてくれよ)
黄金の光が収束し、孔明の手に残ったのは、失われたはずの『諸葛巾』だった。
それは、魂の最後の残り香のように、温かく光っていた。
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