追放少女、天下の軍師から注目される
ウチの名はアイル。
三分に一回、誰かを心の中でツッコむスキル持ち。
《レッドライオン》のギルドマスター、エドワードが静かに口を開いた。
「勇者パーティーの元荷物持ち。なぜ実力を隠している?」
ウチはワインに映る自分を見つめ、かすかに笑った。
「かいかぶりすぎや。ウチの趣味はマンガの一気読みやで?」
エドワードの目が鋭く光る。
(やっぱり、ただ者やないな……)
聖騎士長ヴァレンティアにも冗談が通じない。
「……あなたのような者は、黙っていても脅威です。敵対するなら、私たちが許しません」
声には警戒だけでなく、興奮にも似た光があった。二人の心には「予想以上の戦力差にどう対応するか」という葛藤が垣間見える。
ウチはため息をついた。
二人とも、間違いなく強い。でも、友達にはなれんタイプや。
「あほくさ。酔いがさめたわ」
スマホが淡々と口を開く。
「ここ、空気悪い。二件目に行こう」
ちょっと待て、スマホ。でも間違いない。今の空気はヤバい。
ウチは小さく笑い、ゆっくり立ち上がった。背中に冷たい視線を感じる。
その瞬間、静かな声が耳に届いた。
「アイルさん、お話があります」
振り返ると二人の人物が立っていた。
黒と銀の装束にギルド章を光らせる《銀狼隊》の使者、シルヴァ・ノルディック。冷静な眼差しに隙はなく、手を出したらどうなるかを計算しているのが伝わる。
もう一人――落ち着いた佇まいの貴族。深く息を吐き、一歩踏み出す。背筋には、「簡単な任務ではない」という覚悟が滲んでいた。
「私は諸葛亮孔明の使い。ひとつ、重要な仕事をお願いしたく参りました」
(……やっぱりか。ギルドだけやなく、孔明まで興味あるんやな。ウチ、この世界でインフルエンサーになれそうや……グッズとか売れるやろか?)
スマホがピコッと光る。
「在庫の山になるからやめとけ」
ウチは肩をすくめ、笑みを押し殺す。
「……しゃーない。話だけは聞いたろか」
画面に文字が浮かぶ。
「危険度:SSランク。無視推奨。関わると人生詰みます」
(なんでやねん!)
いや、分かっとるわ!
孔明やで? 三顧の礼を三回無視したくらい、しつこい奴や。前世の因果は知らんけど、関わったらろくなことないのはみんな知っとる。
かつて追放され、居場所を失ったウチ。今はギルドの最高戦力として、天下の軍師からも同時に注目されている。
(……この世界の全てが、ウチの力に引き寄せられてるみたいや。恐ろしいけど、ちょっと楽しい)
過去の孤独と挫折が、今の緊張感を鮮やかに彩っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。