暴走怪獣と、マジカルデジャヴ
ウチ、アイル。
やっぱり怪獣に喰われそうや。
異世界ワンダーランド。
ウエディングケーキの巨大なお城が、空を切り裂くようにそびえ立つ。
足元には、屋根にイチゴやマスカットをデコレートされたチョコレートハウスが、甘い匂いを放って立ち並んどる。
……スイーツ王国か。
ここに住んでみたい!
ブリキの兵隊が、豆鉄砲を構えた。
「撃てー!」
その豆が、ウチの身体を乗っ取った大怪獣グランドギガンデスの皮膚に、カチカチと音を立てて突き刺さる。
「この程度、無駄だ! 無駄、無駄、無駄ァ! 俺様を女神に売り渡した貴様らを絶対に許さない!」
被害者の会を結成したんやな?
グランドギガンデスがくるくると回り、奇妙なポーズを決めた。
『メルティ・ミラクル・ハート』
溶けるように優しい奇跡……のはずやのに、実際は超破壊的。
メレンゲの森が、跡形もなく消し飛んだ。
あかん、止められへん!
「ウォオオォォォ!」
怪獣が吠えるたび、クリームが飛び散り、スポンジが舞い上がる。
ウチの魂は、グランドギガンデスの激しい憎悪に完全に引きずり込まれ、沈みかけていく。
ワンダーランドは、絶望的なピンチやった。
「いかん! 怪獣の勢いが止まらんぞ!」
アップル王子の悲鳴が響く、そのとき――――
空から黄金粒子に包まれたシルヴァーナたちが舞い降りた。
「創世の使徒が来てくれた!」
バナナ姫の目に、涙と希望が光る。
頼む、誰か……!
意識が暗闇に呑まれそうになった瞬間、過去に経験した絶望と、それを乗り越えた記憶が、奇跡のデジャヴとしてパッと閃いた。
「もうちょいの辛抱やで!」
それは、黄金郷の理を知る未来の自分――アイルの声やった。
声が届くと同時に、グランドギガンデスの憎悪の波動はピタリと止まった。
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