無職勇者、今日も酒場で就活中
――ウチの名はアイル。
耳がダンボやで――
夜の酒場 《レッドライオン》。
ウチの居場所は、ここしかない。
かつての仲間から追放された、無職の荷物持ち。今は、この喧騒の中に紛れることしかできへん。
ランプの明かりが柔らかく揺れ、木のカウンターをほんのり照らす。
ウチは片手にグラスを持ち、もう片方でスマホを弄りながら、カウンター越しにマスターたちの会話に聞き耳を立てていた。
「……呂布と袁紹の間で、女性トラブルがあるらしい」
「玉璽まで狙っているようだ」
「曹操は優勢な方につくぞ」
耳に入る噂話に、ウチは舌打ちした。
(なんやろ……やっぱり不倫はあかんで。でも、こういう話を聞くと、自分の周りもあっけなく崩れたことを思い出すな……)
酒場の奥のテーブルには、ギルドマスター級の人物たちが集まり、最近の戦況や異世界の噂を報告し合っていた。
「異世界のイツキがまたやらかしたらしいぞ」
「至高天界アルカナ・ヘブンの一人をフルボッコにしたらしい」
「初めて戦うのに、リベンジらしい。意味がよく分からん」
ウチは思わず小さく笑った。
(相変わらず、世界は混沌としてるんやな……)
無数の世界がひとつに巻き戻る中、ウチだけがこの世界に弾き飛ばされたらしい。
女神の加護もあったが……正直、あんまりピンと来ん。
昔のことを思い出して、少し気まずくなる。
そのとき、スマホが冷静に口を開いた。
「……思考パターンを分析しました。前世のアイルの負けパターンと酷似しています」
その言葉に、ウチは思わず身震いした。
(やっぱただ者やない……監視じゃなくて、解析してるんやな)
喉元で小さく息を吞む。
「元の世界でどうやって倒されたかも分からんのに……どこまで知っとんや?」
スマホは沈黙したまま、間を置く。
その瞬間、入口の扉が勢いよく開き、情報屋が息を切らして駆け込んできた。
「緊急だ! 各ギルドにヘッドハンティングが来てる!」
空気が一気に張り詰める。
マスターたちの顔色も変わった。
「一体、どこの軍だ……?」
「ついに俺の時代が来るのか?」
ウチは片隅でグラスを傾け、心の中でツッコミ。
(勇者パーティー追放された無職や……この世界で生き抜くには、自分で場所を見つけなあかん。
……って、履歴書出してみようかなって、なんでやねん!)
酒場の明かりが揺れる中、いつもの賑やかさと戦闘前の緊張が混ざった奇妙な空気が漂う。
ウチの両サイド、ギルドマスターのエドワードと聖騎士長ヴァレンティアの視線も気になる。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。