私を追放した勇者たちへ。その無能を尻目に、私は世界を救う
ウチの名はアイル。
クシャミひとつで戦場の秩序も、裸の勇者の運命も、丸ごとひっくり返す。
城門に向かおうとすると、曹操の仲間たちがやってきた。
全員、足元がおぼつかない。
「孔明がいるのか?」
「もう逃げようぜ……」
「曹操のパンツがないから、舞踏会の仮面をかぶせておこう」
お前ら、ほんまに伝説の勇者パーティーか?
でも、ただの滑稽な酔っ払いじゃない。恐怖に体が凍りつき、息を呑んだまま動けない。命をかけた戦場で、彼らも必死なんや。
その時だった。
街に響き渡る叫び声。
「城門が開けられた! 孔明の話を聞くな! 丸め込まれるぞ!」
その叫びと同時に、大軍勢が城内へとなだれ込んだ。
鎧のきしむ音と馬の蹄が、王都・洛陽の石畳を震わせる。
「我が名は諸葛亮孔明。洛陽城主、袁紹と話がしたい。我が君、劉備玄徳も民を傷つけることは望んでいない」
言葉は整っている。だが、目の前に立つ巨人の化け物を見た瞬間、心臓が跳ねた。
ああ、そうや。
何度も転生してきたのは、この男と戦うためやったんやな。
張飛翼徳――。
「グダグダ言う奴は、俺が相手だ」
(袁紹……あんたはやがて帝に背いた逆賊として討たれるやろうな)
未来を知るウチには、その結末が鮮やかに見えていた。
曹操に目をやる。さっきまで泥酔していたはずやのに、もう正気づいたようや。
せやけど、腰は引けたまま。震える手を必死に押さえ込みながら、かすれた声しか出せん。
「我が名は曹操……いや……今は、その名は捨てた……命だけは助けてくれ……」
スマホで録音しとるけど、もう完全に支離滅裂や。まともに聞けたもんやない。
張飛の全身から、凄まじい炎が吹き上がる。
獄炎将軍のバトルオーラ――熱風が街を震わせ、空気が焦げる匂いが鼻をつく。
こんなん、チートやで。
どう見ても、殲滅兵器にしか見えへん。
(――ここで逃げたら、何もかも終わりや……)
全身に緊張が走る。心臓が激しく脈打ち、手のひらの汗で拳が滑りそうになる。
鼻の奥がムズムズして、くしゃみが出そうな予感――
緊張と恐怖が一瞬、体を通じて爆発するようだった。
「……よし、やるしかないか……!」
思い切り息を吸い込み、拳に力を込めた瞬間――
ハックション!
クシャミの衝撃が爆発のように炸裂し、天をも貫く竜巻が次々と巻き起こる。
張飛の炎は文字通り吹き飛び、戦場に大混乱が生まれた。
「ぐおぉおおおおおおお!」
孔明軍も巻き込まれ、被害は甚大。兵士たちは吹き飛ばされ、馬が転げ、鎧が破損する。
張飛は目を見開き、戦力解析の数字を何度も確認する――それでも現実を信じられない様子だ。
「こ、こんな……戦闘力が……3億4000万……だと……!?」
スマホがうちのモノマネで勝手に話しはじめた。
「あんたら、もう、生きて帰られへんで」
煽る、煽る。
こいつ、どんだけ、煽んねん!
最後までお読みいただき、ありがとうございます!