ごぼ天、裁かれる──孔明の不敵な笑みと異世界裁判
ウチ、アイル。
罪を背負って、人を憎まず。
孔明と他愛ない会話をしていたら、突然、金髪の美少女が現れた。
その少女は、一切の感情を顔に出さず、ただ、まっすぐにウチを見つめている。
『異端審問』
少女が告げたそのスキル名が、ウチの脳裏に深く刻まれる。
その瞬間、油断したウチの視界がぐにゃぐにゃに歪んだ。
気が付いたら、裁判所の中やった。
「皆さん、静粛に」
ガンガン!と金槌を叩く音が響く。
聖職裁判官や。
傍聴席には大勢の兵士や聖職者がおって、大きなざわめきが起こっとる。
隣には孔明。
なんでか知らんけど、オーロラが渦巻いた模様の、巨大なペロペロキャンディー持っとるし!
扇子はどこいったんや、お前!?
「これはジャンヌ・ダルクのスキルです」
冷静に解説すな!
てか今、それどころちゃうやろ!
こんな時、ウチが取るべき行動は一つや。
「異議あり!」
裁判官はウチをジロジロ見てくる。
その後ろには、さっきの金髪の美少女が、無表情なまま控えていた。
「異端者アイルよ。貴様は、神聖なるパンを冒涜した罪により、ここに召喚された。弁明の余地はない」
「は? なんのことでっか?」
「とぼけるな! 貴様が揚げているという、あの得体の知れぬ棒状の食べ物。ごぼうという名のそれは、小麦粉を衣として纏わせ、清らかな油で揚げたという……これは明らかに、神聖なるパンへの侮辱である!」
……アホらし。
ウチの頭の中で、毎日ごぼうを揚げてた記憶が走馬灯のように駆け巡る。
油が弾ける音、香ばしい香り……それが、異端審問にかけられるほどの罪やったんか!?
こんなん、絶対おかしいやろ!
「ちょ、ちょっと待って! それ、パンやなくて、衣やし! そもそも、ごぼうは野菜やん!」
ウチが必死に叫んだら、傍聴席から「ごぼうは異端!」「生のごぼうを食え!」といった野次が飛んできた。
(ああ、もう! こいつらアホや! ほんま、孔明! なんとかせぇ!)
隣の孔明は、相変わらず涼しい顔でキャンディーを舐めとる。
(あかん、コイツほんま使えへん!)
裁判官が再び金槌を振り上げた。
「弁明は聞かぬ! 異端審問は、もはやお前の魂に問いかけている。貴様、そのごぼうという名の棒で、一体何を成そうとしたのだ!」
ウチは愕然とした。
(……ごぼ天、全国チェーン化計画を……)
その思いが脳裏をよぎった途端、『罪状確定』の文字が浮かび、ウチは意識を失った。
……この異世界召喚、どうやらごぼ天にまで自由は無いらしい。
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